表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、りん  作者: じぇにゅいん
第二部
69/177

第67話 『First Love (5)』

大野おおの美羽みう

和宏の中学校時代の同級生であり……初恋の女性。

とはいっても、決して良い思い出というわけでなく、思い出すたびに、ため息をつきたくなるような……切なさが胸を締め付けるような……そんなホロ苦い思い出だ。


大野美羽は、“りん”の世界の住人ではない。

それなのに、目の前にいる北村さんの笑顔を見ていると、まるで大野美羽が目の前にいるかのような錯覚すら覚えてしまう。


驚きのあまり、言葉を発することも出来ずに、口を半開きにしたままの“りん”に、北村さんが恐る恐る話しかけた。


「やっぱり……怒ってる?」


目の前の顔から笑みが消え、代わりに浮かんだのは申し訳なさそうな表情。

ところが、その表情は、先ほどの笑顔とは違って、大野美羽に瓜二つというほどではない。


ようやく和宏は気付いた。

顔自体も確かに似ているのだが、何よりも“笑顔がそっくりなのだ”……と。


唇の口角の上がり方。

細めた瞳の形。

そして、メガネを外した北村さんの笑顔は、まるで大野美羽の生き写しと言っても過言ではなかった。


さらに、いつもしている三つ編みを解いているため、髪の毛にウェーブがかかっているのも見間違えた原因だった。

美羽も、そんなウェーブのかかった髪形をしていたからだ。


「りんちゃん……?」


「え……あ……。お、怒ってなんかないよ。……ホラ、メガネもしてないし髪型も違うから、ちょっとビックリしただけ」


北村さんの問いかけを無視してしまっていたことに気付いた和宏は、慌てて取り繕う。

その慌てぶりに、北村さんはクスリと笑った。


「……でも、来てくれて本当にありがとう……りんちゃん」


「……いや~、どういたしまして……っていうか、あの手紙にはちょっとビックリしたけどね」


北村さんの『ありがとう』に、“りん”はドギマギしながら、照れ隠しの笑みを浮かべる。


「ごめんね……面と向かって断られたら立ち直れないと思ったから」


そう言いながら、舌をペロッと出して、肩をすくめる。

冗談なのか本気なのか……今一つ判断がつきかねるが、その仕草はとてつもなく可愛らしかった。


「はは……。やだなぁ……断るわけないじゃん」


とりあえず、「なんで手紙?」という疑問が氷解したといえる。

ちょっとスッキリした面持ちで、“りん”は笑顔になることが出来た。


「ありがとう、りんちゃん。……でも、ついでにもう一つお願いしていい?」


「……?」


「私のコト……“あや”って呼んでくれると嬉しいな」


「……!?」


目を丸くする“りん”を見て、北村さんは可笑しそうに笑った。

“りん”は、小さな声で、何度か「あや……あや……」と呟く。


「……“彩ちゃん”……ね。わかった」


“りん”が口にした”彩ちゃん”に、照れたように……でも嬉しそうに……彩は笑った。




遊園地の中に入った二人。

初恋の相手とそっくりな彩と一緒に歩くというシチュエーションに、軽く目まいすら感じる。


何をしゃべったらいいものか……と迷う和宏だったが、今日の彩は、いつもの大人しい彩と違って饒舌だった。


「りんちゃんのそのカッコ……すごく似合うね。男の子みたいな服なのに」


となりを歩く彩は、身体をひねって“りん”の顔を覗き込むようにして話しかける。

男の子みたいな服……と言われれば、そのとおりだろう。

カーゴパンツにボタンダウンシャツ……なにせ男装するための服なのだ。


「……あんまりスカートとかスキじゃないから」


「ふ~ん……そうなんだ」


意外そうな表情の彩。

“りん”の外見的なイメージからすれば、スカート姿もよく似合うのは間違いないだけに、意外に感じるのだろう。


「ね……腕、組んでいい?」


「え、あ、ああ、うん」


突拍子もない彩の申し出を、和宏は断れない。

動揺まる出しの“りん”の返事に、彩はクスリとしながら、りんの左腕に自身の右腕を絡ませる。

今日、彩と会ってから、“りん”の胸の鼓動は早くなる一方だった。


比較的すいている土曜日のスペースランドで、腕を組んで歩く“りん”と彩。

地に足がついている感じがしない“りん”に対して、妙にご機嫌な彩は、唐突にあるアトラクションを指差した。


「あ! りんちゃん! あれ乗らない?」


スペースランドの目玉アトラクション。

スーパージェットコースター“サタン”。


たかがジェットコースター如きになんて仰々しいネーミングだ……と思った和宏だったが、そのアトラクション紹介を読んで絶句した。


最高時速約130キロ!

最大傾斜角89度!

最頂部約65メートル!

発車後約3秒で最高時速に到達!


なんだか難しいことが書いてあるが、とにかくすごそうだという感じは十分に伝わってくる。


なのに……なぜこの娘は嬉しそうなのか?

彩は、順番待ちの行列に並びながら、本当に嬉しそうにニコニコしていた。


一緒に列に並んでいる人たちを見渡すと、やはりカップルが多い。

楽しみに順番を待っている女と「出来ることなら乗りたくねぇ」という顔の男……という組み合わせが多いように感じるのは気のせいだろうか。


そして、ついに順番が巡ってきた。

運の悪いことに一番前の席。

座ると同時に、係員が、前から順番にベルトを締めていく。

全員が締め終ったら……いよいよスタートである。


発車を知らせるブザーと同時に、強烈な加速で最高速度に達する。

アトラクションの説明書きに、嘘偽りなしだ。


(!!○>▽<○!!)


笑顔でジェットコースターを楽しむ彩。

表情を固まらせたまま、ただひたすらパニクる“りん”。


ハイスピードのジェットコースターは、レールに沿って右に曲がったり左に曲がったりするたびに、遠心力で吹っ飛ばされそうになる。

極めつけは、地上65メートルの高さからの垂直落下!


ジェットコースターが元の場所に戻る頃……“りん”の顔は、いささかげっそりしていた。


「……大丈夫? りんちゃん?」


「はは……大丈夫大丈夫……」


心配そうな表情の彩に対し、“りん”は、引きつった表情で強がった。


再び腕を組んで歩き出す二人。

まだ青ざめたままの“りん”の顔をちょくちょく見やりながら、彩は心配げな表情を浮かべたままだ。


少しそよ風に吹かれて気分も優れてきたところ、彩が前方に見えるアトラクションを指差した。


「ね、りんちゃん。お口直しにアレはどう?」


回るコーヒーカップのアトラクションである。

これはまた地味なアトラクションを……と、和宏は思った。

高校生が乗るのはどうか、とも思うが、彩は目を輝かせていた。


「懐かしい~……小さい頃大好きだったの」


動いていないコーピーカップを撫ぜ回しながら独り言のような台詞を言う彩に、和宏は思った。


(……彩ちゃんの小さい頃って……さぞかし可愛かったんだろうな……)


二人がコーヒーカップの中に座ると、他のコーヒーカップのほとんどがカラであるにもかかわらず動き始めた。

物珍しそうにキョロキョロする“りん”を、彩が意外そうな目で見る。


「りんちゃん……ひょっとして、コレ初めて?」


「……実は、ね。あまり遊園地とか来たことなかったし……タハハ」


和宏が小さい頃、父親と母親と一緒に遊園地に行ったような記憶はあるが、どんな乗り物に乗ったかは覚えてない。

男友達と行くような場所でもないので、遊園地自体にあまり縁がなかったとも言える。


「でも、なんか面白いよ……これ何かな?」


「……あっ、それは……」


“りん”は、カップの中心に備え付けられたハンドルを、思い切りグルリと回した。

途端に、カップが物凄い勢いで回転を始め……ゆっくり動いていた周りの景色も、すごいスピードで流れていく。

遊園地経験の浅い和宏は、そのハンドルが、カップの回転操作をするためのモノだとは知らなかったのだ。


「きゃあぁぁっ!」


「うわわぁっ!」


突然発生してしまった遠心力に必死で抵抗しながら、ただひたすら悲鳴を上げ続ける二人。

ようやくコーヒーカップの動きが止まる頃には、二人の目はうずまき模様になっていた。



―――TO BE CONTINUED

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ