表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、りん  作者: じぇにゅいん
第二部
55/177

第53話 『のんちゃん堂 (2)』

遠くから、カラスの「カァーカァー」という鳴き声が聞こえてくる夕暮れ時。


校門の近くまで来た“りん”の耳に、聞き覚えのあるアニメ声が届く。

振り返ると、体育館から歩いてくる沙紀と東子が目に入った。

部活時のジャージ姿ではなく、セーラー服を着ているということは、おそらく、もう部活が終わって帰るところなのだろう……と思われた。


「あら、りんじゃない。まだいたの?」


「へへ……ちょっとソフトボールの練習に交ぜてもらったんだ」


こんな時間まで“りん”が残っていることに、ちょっと驚いた風の沙紀に、“りん”が嬉しそうに答える。

だが、そんな“りん”に、沙紀も東子も呆れたような表情を浮かべていた。


「……その格好でっ?」


「う……うん」


なんとなく咎められたような感じがして、忘れていたはずののどかの顔が、また頭の中に浮かぶ。

沙紀は、畳み掛けるように、腰に両手を当てて言った。


「アンタねぇ……いい加減にしないとパンツ見えるわよ?」


「え~? だ、大丈夫……だと思うけどなあ」


さすがに、パンツが見えてしまうほどスカートがめくれ上がっていいないはずだ……と思うのだが、夢中になっている時にどうだったか、と言われると少々自信がない。

他人にパンツを見られるのはイヤだが、そうそう誰かに見られることはないはずだ……とも思う。


「ダメだよっ! 男子は結構りんのこと見てるんだからっ!」


「……?」


何でだよ? ……とばかりに“りん”の頭が、45度ほど傾く。

それを見た沙紀がため息をついた。


「りん? アンタちょっとは自覚しなさいよね……」


「な、何を……?」


キョトン……とした“りん”の物言いに、沙紀と東子が、「あちゃー」という感じで肩を落とす。

東子に至っては、「だめだこりゃ」という台詞つきだ。


「そんなんじゃカレシ出来ないわよ!」


「……それは別に構わないけど」


事実、和宏は心の底からそう思う。

なにが悲しくて“カレシ”を作らなくてはいけないのか。

「“カノジョ”を作る方が先だ!」と、声を大にしたいところだが、今となってはそれは爆弾発言に等しい。

なんともややこしいことになったものだ。


「そっか……大村クンがいるもんねっ♪」


和宏が、ややこしい思考迷路に陥ったところに、東子から本当の爆弾発言が飛び出した。

沙紀と東子が、目を丸くした“りん”の顔を、ニヤニヤしながら眺める。


「な、なんでそこで大村クンが出てくるんだ!」


「「あー赤くなったー」」


(……付き合ってられん)


赤くなどなっていないはずだが……と考えながら、この間“カレシ”役をしてもらっただけで“カレシ”扱いとは心外だ、とも思う。

言い返せば言い返すほどドツボに嵌りそうなので、これ以上は言い返さないことにして、“りん”は校門の方に視線を移した。


ところが、その視線を移した先に、よく見知った顔を見つけて、思わず“りん”は声を上げた。


「あっ……のどかだ」


まさに全くの偶然。

生徒用玄関から出てきたのどかが、わき目も振らず、急ぎ足で校門を出て行く。

どうして急いでいるんだろう? ……と、時計を見ると、もうすぐ5時だった。


“りん”の声で、東子ものどかに気付いたようだ。

とはいうものの、視力が悪い東子は、一生懸命目を細めて校門の辺りを凝視して、辛うじてのどからしき人影を捕捉しただけだったが。


「そういえばさぁ……のどかって、いつもこれくらいの時間に見かけるね~」


「言われてみるとそうね」


目を細めながらの東子の台詞に、沙紀が納得したように頷いた。

“りん”にとっては初耳の話である。


のどかが部活をやっているという話は聞いたことがない。

おそらく、生徒会の仕事か何かだろう……と和宏は思った。


不意に、校庭に「キーンコーンカーンコーン」というチャイムが鳴り響く。

17時を知らせるチャイムだ。


(そういえば……初めて会った時も、帰りの時間を気にしてたな)


のどかと初めて会ったあの日も、17時のチャイムを一緒に聞いたはずだ。

あまり記憶力の良い方ではない和宏だが、あの日のことは、さすがによく覚えている。



『とと、もう5時か……。帰らなきゃ』


『なんか用でもあるのか?』


『ま、まぁ。……ちょっとね』


『……?』



確か、こんな会話だったはずだ。(第12話参照)

妙に不自然な態度に、多少の違和感を感じたのも覚えている。


「……これは何かあるわね」


「……じゃ、行きますかっ♪」


考え込む“りん”を横目に、何かをたくらんでいるかのような沙紀と東子。

“りん”は、目をパチクリさせる。


「行くって……ドコに?」


だが、沙紀と東子は、先を行くのどかを眺めながら、こともなげに答えた。


「決まってるじゃない……後をつけるのよ」


「えええ~~~!!!」


「しっ! りん、声が大きい!」


人差し指を口に当てた東子が、小声で“りん”を咎める。

そして、沙紀と東子は、早歩きで校門を出て行くのどかを、見失わないようにコソコソつけていく。

それを見て、“りん”はため息をついた。


「……ハァ。全くお前らときたら……」


……。


「ホント面白いこと思いつくよなぁ!」


先に行った二人に追いつくため、まるでスキップするかのように駆け出していく“りん”。

沙紀と東子によって、確実に毒されていく“りん”であった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ