第45話 『Lover Operation (1)』
【前シリーズのあらすじ】
球技大会で、一躍人気者になった“りん”。
下駄箱にファンレターが入っているまでは良かったが、「りん姉さま♪」と付きまとう1年生“村野紗耶香”が現れたから、さぁ大変。
果たして“りん”は、ソッチの世界に行ってしまうのか?
それともコッチの世界に踏みとどまれるのか?
今、史上最大の作戦が開始されようとしていた……。
(注)上記には、一部誇張表現が含まれておりますm(_ _)m
球技大会が終わると、中間テストの時期になる。
中間テスト前の1週間は、全ての部活動が17時までで打ち切り、という学則があるので、今日も17時を過ぎると、全ての部が一斉に活動を終えていた。
17時のチャイムが校内に響き、A組の教室で沙紀と東子の帰りを待っていた“りん”は、ホッとするかのように伸びをする。
(うぉ~、退屈だった~……)
なにせ、授業が終わってから、ずっとこの教室で待機しているしかなかったのだ。
そこに、女子バスケ部の練習を終えた沙紀と東子が、パタパタと教室に戻ってきた。
「りん。お待たせ!」
退屈そうな“りん”に、教室に入るなり声をかける沙紀。
そして、続いて教室に入ってきた東子。
「どう? まだいる?」
「……いる」
“りん”は、改めて窓の外に視線を移した。
窓の外に広がる風景……校門前。
例のツインテールの女子生徒“村野紗耶香”が、門柱に寄りかかりながら誰かを……っていうか“りん”を待っている様子が見える。
もう1時間以上待っているのだから、ある意味すごい。
「ゴ、ゴメン。遅くなって」
そこへ、教室に入ってきた男子生徒が1名……大村だ。
緊張しているのがモロわかりのその表情に、“りん”は思わず吹き出しそうになった。
とはいえ、ありがた~い“協力者”なのだから、そんな失礼はできない。
「お帰り。ごめん、大村クン……ヘンなこと頼んで」
「イ、イヤッ! ちっともヘンじゃないよ! 大丈夫!」
すでに、大村のシャベリが、舞い上がっているとしか思えないほど怪しい。
そもそも、“りん”が、「カクカクシカジカなので、“カレシ”のフリをして欲しい」と、頼んだ時から様子がおかしかった。
どうやら、“カレシ”という言葉に過敏に反応してしまっているようだ……ただの演技だというのに。
(……クソ真面目だからな……大村クンは)
その大村の後ろから現れた人影。
167センチの大村よりも背が高く、ずんぐりむっくり体型の大村よりもかなりスマート。
大村と同じように、日焼けした浅黒さが目立つものの、その顔立ちはスッキリとしている。
“りん”は、その見覚えのある顔に驚いた。
(や、山崎……!?)
「よぉ!」
ひょっこりと顔を出した山崎は、“りん”たち3人に、何故か親しげなあいさつをした。
(……何故お前がここにいる!?)
E組の山崎が、今、A組の教室に来ている意味がわからない。
“りん”は、怪訝な表情を山崎に向けたが、沙紀は当たり前のようにあいさつを返していた。
「あら。どうしたの山崎? ……珍しいじゃない」
「いやぁ、大村から話を聞いてさ。おもし……イヤ、心配でついてきたんだよ」
(今、“面白そうだから”って言おうとしただろ……)
“りん”は、瞬時に山崎の心の中を見抜き、ジトリという視線を向けたが、山崎は全く動じなかった。
それどころか、妙に爽やかな感じで話しかけてきた。
「なんか、変なのにつきまとわれてるんだってな……萱坂。俺が後ろで見ててやるからガンバレよ?」
これは見世物か? ……という気がしないでもない。
明らかに、ただの野次馬である。
(……かといって、帰れとも言えないしな……)
“りん”は、口をへの字にして、もう一度ジトリと睨みつけた。
だが、山崎は、そんな“りん”の視線に気付くと、何故か白い歯を見せてニッと笑っていた。
「ちょっと山崎? 邪魔しないでよね?」
「わかってるって。おとなしく後ろで見てるからさ」
沙紀は、沙紀なりに山崎に釘を刺してくれたようだ。
だが、この沙紀と山崎の会話を聞いて、和宏の中に一つの疑問が浮かんだ。
(……前からの知り合いか? この二人……)
もちろん、普段は、この二人が会話している場面にお目にかかったことはない。
それだけに、妙に近しい感じが、違和感として目に付いた。
「さっ! それじゃ、作戦のおさらいをしとこ♪」
和宏、沙紀、東子、大村、山崎。
5人しかいない教室で、ひとかたまりになって作戦会議が始まった。
東子の作戦とはこうだった。
“りん”と大村が一緒に帰る。
↓
まぁ! 仲良く一緒に帰るなんて! まさか二人は恋人同士!?
↓
“りん”には、“大村”というカレシがいるってコトを、紗耶香にわからせる。
↓
な、なんてことっ!
↓
私、身を引きます……ヨヨヨ(T T)
そして、紗耶香が“りん”に付きまとわなくなる、という寸法……らしい。
当然、協力者として、“カレシ役”が1人必要になるわけだが、それを大村に頼んだというわけだ。
いわば、囮役みたいなものなので、それを頼むのは気が引けたが、幸いにも快く引き受けてくれた。
あとは、実行に移すだけなのだが……果たしてうまくいくのだろうか?
改めて、作戦のおさらいをしてみると、ものすごく穴だらけのような気がしてならない。
だが、立案者の東子は、そんな和宏の不安などお構いなしだ。
「それじゃ、恋人作戦開始っ♪」
妙にノリの良い東子のアニメ声を合図にして、5人はゾロゾロと移動を開始した。




