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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第三部
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第97話 『Perfect Game (3)』

―――取られたら取り返す。


野球をやる者なら、誰でも知っている格言だ。

一回表が終わったばかりだが、スコアは0-1……早くも格上の滝南にリードを許してしまった厳しい展開。

格言どおり、追いつくことが出来るかどうかは、当然のことながら、鳳鳴の打撃陣にかかっている。


滝南のマウンドには、ちょっとオッサン顔の背番号“21”。

そして、キャッチャーが、例の背番号“2”。


(……ふ~ん。キャッチャーか……。全然そういうイメージじゃないけど……)


一昔前のキャッチャーのイメージといえば、小太りのどっしりとした重量感溢れる選手と相場が決まっていたが、今時そんな、絵に描いたようなキャッチャーはなかなかいない。

……せいぜい大村くらいのものである。


その滝南バッテリーの投球練習をよく見ると、背番号“21”の投げるタマは、それほど速くはない。

しかし、目を見張ったのは、ついさっき唸るようなバッティングを見せた背番号“2”のキャッチングだ。

タマを捕球して、ピッチャーに返す動作だけを見ても、野球センスに恵まれているのがうかがい知れた。


「ねぇ……りん?」


「……ん?」


「あの滝南のキャッチャーのヒト……意外とりんのタイプだったりする?」


(……はあぁぁ?)


“りん”が、滝南の背番号“2”を、ずっと真剣な瞳で追い続けていたせいか、横で見ていた東子が、何気に大胆なことを言い出した。

どうやら、そんな勘違いをさせてしまうほど、“りん”の瞳には熱がこもっていたらしい。


「ま、確かにイケメンはイケメンよね。でも、あんな線の細いタイプの男の子より、“りん”にはもうちょっとたくましい感じの男の子の方がお似合いだと思うんだけど」


沙紀が、目を細めつつ、背番号“2”をマジマジと観察しながら言う。

この遠い位置からでは、顔立ちまで確認するのは至難の業のはずだが、やはり視力2.0はダテではない……ということか。


「イヤイヤイヤ! 何のハナシだよ! あのキャッチャー上手いなぁ……って思っただけだって!」


「な~んだ。じゃ、やっぱり大村くんで決定っ?」


「だから、なんでそこで大村クンが出てくるのかな……」


危うくヘンな方向に逸れようとしていた話の流れを修正したと思ったら、やはりヘンな方向に話が逸れていく。

やれやれ……“りん”は、思わず口からため息をもらした。


「そういえば、来週よね……例のデート(第86話参照)」


「そうそう! アタシ楽しみ~♪」


(……なんでオマエが楽しみなんだっ!?)


東子のボケ?に、“りん”は突っ込まずにいられない。

ちなみに、“例のデート”とは、大村と一緒にロックグループの“ブラックポセイドン”のライブに行くという話のことだ。


(……デートとかじゃないんだけどな……。ライブを見に行くだけだし)


とはいえ、例え和宏がそう思っていたとしても、沙紀と東子は、完全に“デート”と認識しているらしく、もはや「デートなんかじゃない」と力説したところで、誤解が解けることはまずないだろう。

それよりも、東子が吐いた『アタシ楽しみ~♪』という一言の方が、はるかにタチが悪い……和宏は、そう思った。


(……一体なにを企んでるんだか……)


あくまでも、ライブに行くのは“りん”と大村である。

それは東子もわかっているはずだが……。

そう思いながらも、いつも一筋縄ではいかない東子のコトだ。

おそらく、沙紀と一緒に何かを企んでいるに違いない。


三人の話がドンドンと野球から逸れていく中、グラウンドに一際大きな金属バットの音が響き、一塁側ベンチから歓声が上がった。

“りん”たちが、慌ててグラウンドを見やると、二塁ベース上で、ヒザについた土をポンポンと払う背番号“5”……山崎。

栞が管理する一塁側ベンチ脇のスコアボードには、一回裏の欄に“1”がすでに書き込まれていた。


「わわ! 同点になってるよ~っ!」


「げ……見損ねた……」


せっかく試合を見に来ているのに、話に夢中になって見せ場を逃してしまうとは……何のためにここにいるのかわからない。

見た感じ、山崎がタイムリーヒットを打ったところ……ということで間違いなさそうだ。


「すごーい! さすが山崎くんだねっ♪ 昔から沙紀が応援に来てる時はよく打つしっ♪」


……ホゥ?


“りん”が、東子の台詞に反応しかけた時だった。

恐ろしいほどの俊敏さで、沙紀の右手が“りん”の額を覆う……言わずと知れた必殺の鉄爪だ。


「偶然よ……グーゼン! りんもつまんないことに反応しないのっ!」


「イダダダダッ!」


尋常ではない沙紀の握力により、アイアンクローがガッチリと締め付けられ、声を出さずにはいられない痛みが“りん”を襲う。


それにしても……東子の台詞のトバッチリが、全てコッチに降りかかってくるシステムは何とかならないものか……。

和宏は極上の激痛に耐えながら……そう思った。



―――TO BE CONTINUED

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