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62 んなこたぁーない

「魔王に詳しくなれたのはいいけどさ。なーんか悩ましいことになっちゃったよね」

「だね~。ルールスさんはただの予想だって強調してたけど、それってウチらに『真の勇者』になってほしいって期待してるってことだもんねぇ」


 そう、そうなのよ。希望されちゃってるもんなー、今回だけじゃなく魔王期を永遠に終わらせることをさ。つまり今までのどの勇者にもできなかったガチの救世ってやつを成し遂げるのを願われちゃってるわけよ。これってとんでもなく重い期待だぜ? いやマジで。


「もしも女神さまがコマレたちをそのつもりで選んだのだとしたら、本当に達成すべきは魔王の討伐ではなく魔王城の破壊、もしくは封印になりますよね」

「できる気する?」

「……難しい、としか言えませんね」


 まさに難しい顔をしてコマレちゃんがそう答える。そりゃそーだ、海を越えて敵の国に攻め込んでそのまま中枢をぶっ潰すなんて、普通に考えてハードル高すぎ。しかも最悪、瘴気を無効化できる(かもしれない)私が単独でその任務を請け負わなきゃならないわけでしょ? やー、キツイっす。今だって皆の強さにおんぶにだっこの私だってのに、一人でそんなスーパーな活躍できっこないっしょ。


「魔王が死ねば瘴気が弱まる上に、魔王と血で繋がっている魔族も弱体化する……とバロッサさんは言っていた。だったら魔境へ向かう前に魔王を倒せておけば、魔王城を目指すこともできる、かもしれない」


 とカザリちゃんは言うけど、結局は「かも」なんだよね。それ以上確かなことは何も言えない。魔王さえ倒せればぐっと楽になるって点だけはハッキリしてるから、そこはいいんだけどさ。


「でも……場合によってはなんすけど」


 ルールスさんから聞いた話を元にやいのやいのと相談する私たちに、恐る恐るといった様子でバーミンちゃんが初めて口を挟んできた。


「魔境へ出向く方法があって、魔王城をどうにかできる手段も見つかったとしたら……魔王を倒すよりも先にそっちを狙うってのも、ありはありっすよね? だって魔王城さえ壊せば瘴気も収まって、そうなれば魔王や魔族の弱体化に通じるはずっすから」


「確かにそうですね。魔王だけでなく魔王城も魔族という種族全体の脅威度を支える屋台骨のようなもの。どちらを先んじて片付けるにしてもそれは人類側の勝利に近づく大きな一歩になります。状況が許すなら魔王城を優先するのも、アリでしょう。でも……」


「でも、なんすか?」


「いえ、そうなると戦況が複雑化するのが少し気になりまして。魔王はコマレたち勇者よりも大陸魔法陣の解除を。コマレたちは魔王よりも魔王城の破壊を目標に据えるとしたら、互いに行き違うと言いますか。コマレたちが先に目標を達成できるなら何よりですが、もしもこの思惑を魔族側に知られるようなことがあれば……今代の魔王はおそらくそれを利用しようとするはずです」


 むう、言えてるかも。コマレちゃんの懸念に私は頷く。だってアンちゃんのことだ、いかにもやりそうだもの。私たちが連合国を離れると知ればこれ幸いとばかりに暴れ散らかしそうだ。


 暴れるくらいならまだいいほうで、もっと手酷い何かを仕掛けてくることだってあり得る。あり得まくる。だから、仮に魔王城を優先して攻めようと決めたとしても、なんとしてもそれを魔族には──アンちゃんには知られないように注意しなくちゃいけない。だけどその難度は高いよな。だって向こうは当たり前みたいに人を洗脳したり認識を歪めたりする術を使ってくるんだから……。


 って、それは具体的な策も出来上がっていない今の内から悩むようなことじゃあないか。


「まあまあ、今んとこは予想ってか妄想みたいなもんだしそんな深刻に考えなくていいっしょ。ルールスさんにも言ったけど、アウェイに乗り込んでどんだけいるかもわからない魔族をまとめて敵にするとかねぇ。ちょっとしんどすぎだよ」


 ね、と皆に同意を求める。けど、当然に得られるだろうと思っていたそれは返ってこなくて、逆にじとっとした目で見られてしまう。え、なんだ。何も変なことは言ってないはずだが、何故にそんな顔をされるのだ?


「さっきもそうだったけど。いくらなんでも白々し過ぎる」

「は?」

「そうですよ。やる気がないと強調すればするほど怪しいです」

「えぇ?」

「ハルっちのことだからね~。やらなきゃならないとなったら即やるよねぇ」

「いや、」

「だって一人で魔王に立ち向かっちゃうんすもん。そんな人の腰が引けるとは思えないっす」

「ちょっと」

「ハルコさんは、誰かを守るためなら。それが世界を守るために必要だと、わかったら……行ってしまう。そう、わたしも思います。一人でも、どんなに危ないところでも……わたしたちを置いてでも」


「待って待って。ホントに待って」


 なに、なんなの? どこのヒーローの話をしてるの君たちは。


 いざとなれば一人で魔王城を攻め落とす気満々、だけどそうと知られないようにあえて乗り気じゃない感を出してます……みたいに思われてるっぽいけど、んなこたぁーない。私はガチでそんなことをしたいとは思ってない。むしろしたくない。


 何度も言ってるけど私だって死にたいわけでも死に急ぎたいわけでもないのだ。いくら勇者として戦わなくちゃならないと言っても過度な危険は当たり前に避けますよ。


 それならどうしてアンちゃんに挑んだのかって言えば、そりゃそうしないとタジアさんを始め住人たちの命が危うかったからだ。目の前で人が死ぬところなんて誰も見たくないでしょう? 私もそう。だから物陰から出ていってアンちゃんを止めた。


 つまりはまあ、人命において切羽詰まった状況でもなければ私だってもっと冷静に、自分の身の安全を優先して行動もできるって話だ。タジアさんが殺されかけなければあの状況でももうちょっと観察を続けたはずだもの。


 咄嗟の人命救助と、単身での魔境入りはまったく訳が異なる。と私は思っているんだけど、どうやらは皆からはその辺をごっちゃにしている人だと思われているみたいだ。いやどこの英傑だよ。いくら魔王期を根本から絶つためになる(かもね、あくまでかも)と言ったってそんな乗り気にはなれんぜよ。


 ってことをばーっと喋って説明したんだけど、皆からの視線は相変わらず厳しいというか、それでいてどこか生暖かいというか。


 しまったこれ、私が自分で弁解するのは無理だな? どう言葉を尽くしても逆効果にしかなってねぇ。詰んどるわ。


 それでもどうにか私の本心をわかってもらえないかと四苦八苦している内に、いつの間にか目的地付近にまで来ていたようだ。バーミンちゃんが一本の高い木を指差して「アレがルールスさんの言っていたものだと思うっす」と言って、私たちがそれを見上げた途端にそこから人影が飛び出し、そして目の前へ軽やかに着地。


「お待ちしておりました。本日の見張り役を務めている者です」


 ルールスさんのところにいた若い男性エルフ同様、恭しいくらいの丁寧な挨拶をしてきた彼は、自分で名乗ったように見張り番だ。この高い木も一見してなんでもない普通の木のようだけど、枝葉に隠れた部分に一人用の居場所が作ってあって、長時間の待機にも耐えられるようになっているんだとか。ルールスさんがそう言っていた。


 彼から教えられたのはそれだけじゃない。エルフタウンを覆う堀のような川を渡ってしばらく来たこの場所は、魔物こそ出ないが一応は街の外。ルールスさんとのお話とお食事(美味かった)を終えてすぐにわざわざこんな場所までやってきたのは、そう。


 第二の試練のためである。



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