エリザの決意、勇者の未来
「貴様、何をしているのかわかっているのか!」
「私は正義の狼煙をあげてきた!それの何が悪いというの!」
ドラゴンを引き連れて都を襲ったことを知ったエリザは、感情をむき出しにしてドロシーをまくしたてた。
激怒するエリザにドロシーも自分こそが正しいと食って掛かると、お互いのむき出しになった感情がぶつかりあった。
魔王や魔族だけでなく、都には民もいる。それも寝込みを襲うなど言語道断というエリザに、ドロシーはこれは勇者の正義の始まりであると意見を曲げない。
しかし、この場でいくら議論をしたとしても事態は動き出してしまっている。
パーティを組んでいる以上はエリザもドロシーの仲間として捉えられるだろう。
引き返せない状況にエリザの腹は煮えくりかえる思いで溢れていた。
「あなたももう引き返すことは出来ないわ。同じ勇者の末裔として恥じない行為を行いなさい」
押し付けるように言い放つ言葉はエリザには届かない。
返事もせずに荷物を整理しだすと、ドロシーはやっとわかったのかとその場から離れた。
こうなってはどうしようもない。
ドロシーには分からないだろうが、これは正義の戦でもなんでもない。
歪んだ正義を振りかざす虐殺行為だ。
エリザは腹をくくった。それはこれからの行為を、これからの選択を。
荷物の中から一通の書状を取り出すと、ドロシーやホーキンスに気づかれぬように懐に忍ばせた。
「マリア」
「……はい」
呼びかけられたマリアは震えていた。
ドロシーに事の次第を聞いて、自分の立場を理解したマリアはこれからどうなるのかと不安に肩を震わせた。
魔族だけではない。民を、人間までも敵に回したとマリアは理解していた。
「お前に頼みがある。この書状を…これから会うものに届けてくれないか?」
会うものといえば魔王に他ならない。
手渡された書状は魔王宛のものだ。エリザの行いに疑問を持ちながらもマリアは書状を受け取った。
「これを魔王に?」
「そうだ。こうなりたくはなかったが、もう後戻りは出来ない」
「何を為さるおつもりですか?」
「私は――ドロシーを殺す」
その顔は決意を固めた表情だ。マリアは揺るがぬ思いを胸にしたエリザに息を飲む。
そこまで。そこまでしなければならないのか。
まだ手立てはあるのではないかとも模索したが、答えは出ない。
「そんな、エリザ様、考えなおすことはできないのですか?」
「もう手遅れだ。ドロシーは民に手をかけた。これはもう魔王どころではない。世界を敵に回したようなものだ」
「ですが…」
「お前も見てきただろう?ドロシーの異常に勇者に固執する姿を。
私も最初は説得してみせる、改心させられると思案したが、奴はもう止まらない。すべての魔族を殺すまで殺戮を続けてしまう」
「ドロシー様を殺め、その後は…?」
ドロシーを殺してそれで終わるのだろうか。
敵意は勇者のパーティにも向けられているはずだ。ドロシー一人の命が絶ったところで、争いは続くのではないだろうか。
マリアの頭は今にもパニックになりそうだった。
「ドロシーを殺した後は…私も死ぬつもりだ。ドロシーと私の命を引き換えに全てを終わらせる」
「そんな!何故です!」
ドロシーだけではなく、自身も命を捨てる覚悟にマリアは納得できなかった。
いくら世界を敵にしたとしても他の形で償うことも出来るはず。
「声が大きい。いいか、私は旅をする中で疑問に思ってしまったんだ。
民を導く魔王の姿、反するように正義を振りかざして蹂躙するドロシーに。魔王という名でも人を救っている。かたや勇者の名が殺しを行っている。
私は今日答えを見つけた。もはやこの世に勇者も魔王も要らない」
エリザは魔王に思いのたけを綴っていた。
『勇者である私から手紙がくるなど、驚いたことだろう。
だが、お前なら読んでくれると信じて私の思いを書に託した。
もうすでに知っているかもしれないが、私のパーティにはドロシーというものがいる。
同じ勇者の末裔だ。
だが、ドロシーは勇者であるというプライドのみを信じ、正義を歪めてしまっている。
魔族を執拗に殺し続ける姿に、もう勇者の影は見られない。
きっとそれは魔王であるお前を殺したとしても変わらないだろう。
その命が尽きるまで、魔族を殺し続ける。
この手紙が開かれたということは、私の説得は空しく終わったということだ。
私はドロシーを殺すつもりだ。
同じ勇者として、せめて私の手で誤った道を進んでしまった同じ血族を送ってやりたい。
ドロシーを殺した後は私も命を燃やすつもりだ。
民を導くお前ならば私の願いも聞いてもらえるだろうか。
私の願いは勇者の死後、お前に世界を導いて欲しい。
時代にもう勇者も魔王もいらない。肩書に飲まれることはもうない。
だから、魔王という名前を捨て去り、世界を正しいほうへと導いてくれ。
新しい時代への平和を願っている。
――エリザ』




