寄り添う花に
「花でも飾ろうか」
「あら、メルル様珍しい。急にどうしたんですか?」
鏡台の前で髪を梳かしてもらっていたメルルは、急に思いついたようにそう言った。
今迄そんなことを言ったことはなかった。
先ほどのこともあり、急に魔王から少女へと戻ってしまったように思えてメルルは胸に陰りがさした。
「なんとなくさ。たまには女の子らしいことでもしようかなって。らしくないかな?」
「そんなことありません!だって、見てください!メルル様はこんなにも可愛いんですよ!」
鏡に写るメルル。艶やかな黒髪にまだ大人になりきれていない少女の顔だ。
黒髪に反するような白い肌と丸く大きな眼。
男に言い寄られてもおかしくない程度には可愛らしい少女だ。
ルシールに髪を梳かされる姿は、どこぞのお嬢様のように繊細で美しさを兼ね揃えて見えた。
「ありがとう。言われ慣れてないから、何だか照れるな」
頬を赤らめて恥ずかしそうに笑う。その姿は無垢な少女のままで、ルシールは尊い気持ちでいっぱいになった。
「メルル様可愛すぎ、抱こうかな」
「ルシール、心の声漏れてるよ」
「あら、いけません!まだ夜でもないのに♡せっかくですから、私がメルル様に似合いそうな花を買ってきます」
「ありがとう。じゃぁ、私は備品庫から花瓶でも探してくるよ」
高ぶった気持ちは収まらず、梳かされたことで艶を戻して綺麗になった黒髪の少女を後ろから抱きしめた。
耳元に顔を当てて胸いっぱいにメルルの香りをため込むと、ルシールは満足したように離れた。
町にはモンスターも魔族も人間も入り乱れていた。
かつてない人口密度となった都は、少し歩いただけで多種多様な生物が行き来している。
魔族だから、モンスターだからという理由で争いが起こることもない。
皆が協力しあい、足りない部分を補い、生活が成り立っていた。
「メルル様にはどんなお花が似合うかなー」
低空飛行で繁華街を飛び、花屋を見て回る。
魔王なのだから、それに見合った力強い花がいいのか、それとも女の子らしく可憐な花にするか、もしくは恋人らしく愛の花言葉を秘めた花にするか。
どんなものにしようか悩みながら幾つもの花を手に取り、香りを嗅いだ。
時に花屋の店員に花言葉を教えてもらいながら、ルシールはこれだという花を購入した。
「サキュバス様がお花を買うなんて珍しいですね、魔王様にですか?」
「はい、誰かに花を贈るなんて初めてで。メルル様気に入ってくれるかな…」
「大丈夫ですよ。花をもらって嬉しくない女性はいません。特に…恋人からだったら♪」
花束を包装しながら、店員はルシールに笑いかけた。
今包んでいる花は白いバラと赤いバラの組み合わさった花束。
赤いバラは『あなたを愛しています』
白いバラは『私はあなたにふさわしい』
そんな花言葉を持っていた。
白いバラは少女らしく、赤いバラには魔王らしさを感じて双方を組み合わせてもらった。
まだルシールたちは交際していることを口に出したことはなかったが、店員も女だからかルシールの様子から察しがついたようで、ウィンクして見せた。
花束を受け取ってルシールは金を出そうとしたが、店員はそれを受取ろうとしなかった。
「お世話になっているお礼です。どうぞ、お幸せに♪」
「ありがとう」
花束を鼻に寄せるとバラの心地よい香りがした。
相手を喜ばせようと笑顔になるルシールもまた、恋する少女そのものであった。




