悩める勇者さま
削り取った部位を使った武器の作成は夜通し行われた。
トンカチを持ったホーキンスは背骨や鱗を何度も熱しては叩き、暗い空に似合わない金属音が鳴り響き続けた。
早く武器を手に入れたい一心にドロシーはホーキンスの手伝いを惜しまず、火に巻きをくべたり、熱した素材を冷ます水を汲んできたりと動き回っていた。
完全に蚊帳の外になってしまった様子に、エリザとマリアは不安を感じながら焚火にあたっていた。
「なぁ、マリア、今のアイツらをどう思う?」
「力に固執しすぎていると思います……勇者様の仲間に加われると喜びましたが…これでは」
「魔王…っぽいか?」
口に出すのは憚られた。エリザの問いかけにマリアは黙ってうなずいた。
「私はな、小さいときから自分が勇者の末裔だと言われて育てられてきたんだ。きっとドロシーも同じように言われて育ったはずだ。親からは何度も祖先の話を聞かされたよ。勇者が仲間を集めながら魔王を話をさ。そんな話を延々聞いて育ったんだ。いつかは自分もそうなるんじゃないかと想像していた」
「そして、その想像が今現実となっているんですね」
パチパチと音を立てる焚火に巻きを投げ入れた。火の粉がふわりと舞い上がって、エリザの顔を照らしている。
照らされた顔は哀しそうで、マリアはいたたまれない気持ちになって巻きに火が移るのを見ていた。
「随分と想像とは違う形で現実になってしまっているよ。どこの世界に人助けをする魔王がいるっていうんだ」
「それもそうですね」
「魔王再来の話を聞いたときは胸が躍ったよ。これから冒険がはじまるんだってワクワクしてさ。今考えると馬鹿らしい。勝手に凶悪な魔王を想像していたんだ。バカな私は手元の武器をかき集めて考えなしに突っ込んだ」
「そして、敗れた。ショックでしたね」
「あぁ。でも、敗れたことよりも衝撃的だったのは魔王の姿さ。私の想像していたのとは程遠い、ただの町娘のような魔王だった。魔剣を手にせず、隣にサキュバスがいなきゃ、誰も魔王とは思うまいよ」
「私は直接見たことはありませんが、エリザさんと同じように魔王と聞いて恐ろしいものを想像していました」
「だろ?普通はそうだ。ところが現実はどうだ。若い町娘が魔王だぞ。こんな冗談聞いたこともない」
「……エリザさんは魔王をどう思いますか?」
すぐに答えは出なかった。膝を折って胸元に抱き寄せると体を小さくして、焚火を見つめていた。
「――倒すべき相手だと思った」
「思ったっていうことは今は違うのですか?」
「正直ゆらいでいる。相手が魔族ならば倒さなければならないのかもしれない。だが、魔王のしていることを聞いたろう?」
「えぇ」
「人を救っているんだなんてな。おかげで魔王討伐の募集も散々だった。志願者の誰もが魔王討伐を拒んだ。それどころかまるで私たちが悪いように言う奴もいたな。結局、志願者は一人だけ」
視線の先には汗水たらして骨をトンカチで叩くホーキンスがいる。
真剣なまなざしで骨を打っているが、骨は次第に形を変えて鋸のようになってきている。




