クソ疲れた(王の都を支配したよ)
足を引きずりながらメルルは王の間を目指した。
思わぬ負傷、身体は痛いし、口の中は何か所か切れて血の味がする。歩くのでさえサキュバスの支えが無ければ一人で歩くことは無理そうだった。
ボロボロになった身体。でも心は満たされていた。
魔王と名乗りをあげたからには白熱したバトルがしたかった。強敵と刃を交えたいという願いは今成就されたのだ。
「魔王様、お怪我は大丈夫ですか?」
「心配ないよ。死ぬほどの事じゃないし。でも、もうちょっと支えてくれるとありがたいな」
「勿論です。わたくし、魔王様の傍にずっとおります!何があってもずっとおります!」
「ありがとう」
力の入らない声にサキュバスは唇を噛んだ。
あれほど強くあったメルルがここまでのダメージを受けて負傷するなんて。
苦手とする光の力を持った相手にも臆することなく。相手に援軍が来たにも関わらず。メルルは一人魔剣を手に暴れまわり、勝利した。
言わないが、サキュバスはメルルが本当に魔王の器であるとヒシヒシと感じていた。
きっとこの方ならば、魔族を平和な世界へ導ける。人間たちを支配して魔族に繁栄をもたらすことが出来る。
そして、出来ることなら自分はその隣にいたい。
何があっても。いつまでたっても。その顔を隣で見ていたい。
王の間についた二人を迎えたのは無だった。
もぬけの殻となった王の間。人の姿はなく、慌てて逃げだしたのだろうか敷かれたカーペットは乱れ、玉座の前には王冠が捨てられたように転がっている。
「誰もいない…?」
「先ノ戦イヲ見テ、勝テナイト踏ンダノダロウ。恐ラクハ、先ホドノ男以上ノ力ノ持チ主ハ、イナカッタノダロウ」
「そんな簡単に城を、都を捨てるなんて。最低な王様だね。サキュバス、玉座に座らせてくれる?」
「はい、魔王様」
玉座に腰かけると、誰もいなくなった空間を見つめた。
もうこの都は王の支配下にない。今この時から魔王の城となったのだ。
「サキュバス」
「なんでしょう、魔王様」
「この城に旗を立てて。あの髑髏の旗を。この都は――今日から私たちの…魔族の城…だ」
「わかりました魔王様」
手に旗を取り出したサキュバスは窓から外へ飛び立つと、城のてっぺんにあった王の旗を投げ捨てて代わりに魔族の旗を立てた。
てっぺんから見下ろす都は広い。これだけの領地があれば魔族たちも繁栄出来るだろう。
涙が出そうになった。
追いやられていた魔族たちが繁栄する姿を思い描いていた。それが今実現へと向けて着実に進歩している。
まだ全て始まったばかりである。しかし、これは大きな一歩だ。
噛みしめるように。サキュバスは風に吹かれながら都を見下ろしていた。
そしてこの都を手中にした魔王メルル。
元はただの人間の町娘である。それが魔剣を抜いたのをキッカケにここまでのことを成し遂げた。
新しい玉座に腰かける姿はボロボロでとても魔王には思えない。
服は破れ、髪は乱れ、顔には土埃の後がある。
疲れて眠るメルルの顔はまだ少女のまま。




