54 孫「おじぃちゃまぁ!!」
ムーガは『まったく……』とため息を吐く。
「主の命に従うのは当然だ。
それより、お前はもう男爵夫人だろうが。俺に『様』を付けるのも半端な敬語を使うのも止めろ」
「それは無理です。恩人のことは一生を賭けて敬意を表せというのが父の教えですから」
「ボイズ殿もご寄特な方だ」
「ムーガ様は侯爵家の方ではないですか。それなら男爵夫人より上でしょう?」
「今は騎士爵だ。
三十路を越えた侯爵家の三男坊なんざ平民なんだよ。騎士団を続けるために騎士爵はいただいたがな。男爵夫人は騎士爵より上だ」
「侯爵から子爵位くらいはもらえたろうに」
ムーガが引き攣らせながら笑顔を作ろうとした。そんなムーガの姿とラオルドの言葉の意味を理解しなかったのでヴィエナは二人の顔をキョロキョロと往復させる。
ラオルドはヴィエナの髪を優しく撫でた。
「とにかくヴィエナの方が立場は上だ」
「ムーガ様は師匠です。それは永遠です」
力強く言い切るヴィエナにムーガは再び嘆息した。これはすでに何度もした話だが今のところ直る様子はない。
「ムーガ。俺は兄弟の中で一番に婚姻して一番に父親になるぞ」
「あーー、そういう話もしましたねぇ。まさかヴィーを抜擢した時にはこうなるとは思っていませんでしたよ」
ラオルドとヴィエナは目を合わせて吹き出した。
「お前さんたちの子供が三歳になったら戻るよ。だからヴィエナ、元気なガキを産んでくれ」
「ラオと私の子供ですよ! 元気に決まっているじゃないですかっ!」
ヴィエナはムーガではなくラオルドを見つめながらそう言った。ラオルドはヴィエナのお腹に触れた手に優しく重ねた。
「ヴィーは子を産んだ後も元気でいてくれよ。そのためにも飯にしよう。行くぞ」
「うんっ!」
『俺を師匠と言いながら俺の言うことは聞かないくせに、なぁ』
当然のように手を繋いで丘を下りる二人の後ろを愛おし気に見たムーガは顔をあげ町よりさらに右手にある低い壁の向こうの森を見た。
『現在の村の管理はもう落ち着いたしビジールたちに任せれば大丈夫だ。まだしばらくはここにいるのだから貢献してやるとするかぁ』
肩をブンブンと回しながら二人の影をゆっくりと追う。
ムーガは一生この男爵領にいることになるとは思っていなかっただろう。
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三年ほどで王都へ帰る予定でいたムーガだったが、気がつけば八年も経っている。
「お祖父様! 剣のお稽古をしてください!」
「よぉし。リベルト、かかってこい」
ラオルドとヴィエナの七歳になる息子はムーガに憧れており、瞳をキラキラさせておねだりした。
ヴィエナとビジールの差し金で子どもたちはムーガを祖父だと思っている。
リベルトと汗を流し室内へ戻ると可愛らしい声が近づいてくる。
「おじぃちゃまぁ!!」
振り向けば飛び跳ねてムーガの胸に抱きつく女の子。ムーガはそれを受け止めて高く抱き上げる。
「おじぃちゃま。ティモとのおやくそくおぼえてる?」
「もちろんさ。昼飯を食ったら野いちご採りにいこう」
「おじぃちゃま! だいしゅきっ!」
「僕も行くっ!」
「よぉし。なら、リベルトもティモも昼飯を腹いっぱい食べるんだぞ。森は歩かなきゃならんからな」
「「はーい!」」
ムーガは右手にティモを抱き、左手にリベルトの手を握って食堂へ向かった。
食堂にはすでにラオルドとヴィエナがいて三人を待っていた。
「親父殿。子供らと遊んでくれて感謝しているよ」
「お父さん。いつもありがとう」
「いや、感謝しているのは俺だよ」
ムーガがくしゃくしゃとリベルトの頭を撫でるとリベルトは嬉しそうにムーガを見上げる。
ラオルドはヴィエナの肩に優しく手を添え、ヴィエナは自分の大きなお腹を擦った。
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次話からはさらにアフターです。
よろしくお願い致します。




