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47 公爵令嬢「恋は奇跡です」

 ラオルドの悄然にエーティルは微笑をたたえた。


「ラオルド殿下。わたくしは本の中でしか恋を知りません。ですが、それを悔しいとか残念だとは思いませんわ。

憧れは誰にでもできても本当の恋は誰にでもできるものだとは思えませんもの。

燃えて身を焦がすような、己を犠牲にするような、夜が寂しくなるような、すぐに会いたくなってしまうような……。

そしてラオルド殿下のように高爵位はいらないと言えるような恋」


 二人の目が合う。


「そのような恋は奇跡なのだと思うのです。ラオルド殿下は奇跡を手にしていらっしゃるのです」


 ラオルドは自分の大きな手を見つめた。


「そうかもしれません。何人もの女性と会ってはおりますがこのような気持ちは初めてで少しくすぐったいです」


 手をゆっくりと開いて閉じてを繰り返すラオルドの笑顔は穏やかであった。


「羨ましくはありますわね」


「あっ! すみません! そんなつもりでは」


「うふふ。わかっておりますわ。

ただわたくしがその奇跡を手にしていないことは王家の慣わしのためだとは思っておりません。奇跡を手にしなかったと悔しがる者は愚者ですわ。誰もが手にできるものではないから奇跡なのですから」


 ラオルドはエーティルの笑顔に聖母を見た。


「確かに王子殿下方には王位継承権を放棄する権利が与えられています。でもあまり知られてはおりませんが、わたくしにも王太子妃を辞退する権利がございますのよ」


「え!?」


「王子殿下方のやる気を削ぐことになったり王太子妃となる者を気に入らず蔑ろにし辞退を援護するようなことになりますと困りますから知る者は少ないのです。わたくしも勉強を始めて二年後に教えていただきましたの」


「それを俺に話していいのですか?」


「うふふ。本当はいけませんわね。でもラオルド殿下がわたくしのことを気にしてくださったので」


「それは……その……」


 重要機密を言わせてしまった責任と知らされた重責とでラオルドはしどろもどろになる。


「ご心配には及びません。わたくしは辞退するつもりなどございませんもの」


 万が一エーティルが辞退すると王太子妃教育の時間を考えれば大変に年若いご令嬢になるが女性が若い分には大丈夫だろうという多少浅はかな制度である。

 とはいえ王太子妃になるべく令嬢を決める際に責任感や矜持がしっかりしたご令嬢を選ぶし勉強から二年目に勉強を続けるかどうかを強く意思確認するのでこれまで辞退したご令嬢はいない。


「わたくしの伴侶となる方がどなたかはわかりませんが、互いに尊敬しあい協力しあい相談しあえる関係になりたいと思っておりますわ」


「キリアなら大丈夫ですっ!」


「うふふ。まだ決定はしておりませんのに」


 和やかな雰囲気のお茶会であったが、翌日事態は急変した。


「私の妹は簡単には渡さないっ!」


 武道場でラオルドとヴィエナが鍛錬しているところに現れてラオルドを指差したのはリタだった。


「バカなの?!!」


 リタは右から横蹴りをくらい数メートル吹っ飛んだがくるりと立ち上がった。


「サナっ! 危ないじゃん! 私じゃなかったらアバラいってたよっ!」


「やすやすと避けたくせにっ!

それよりっ! 貴女、やっぱりバカなの? 不敬罪で捕まりたいの!?」


 サナとリタがワキャワキャとやり合っているのをラオルドは呆然と見ていた。


「何も見えなかった。サナが中段横蹴りで止まっていたから恐らくリタへ蹴りを入れたのだろうな。だがリタは無事そうだし……」


「サナねぇさんの蹴りをリタ姉が手で受け止めて横飛びしたんです。あの蹴りの速さも受け止めも! 二人共かっこいい!!」


 ヴィエナは目をキラキラさせてラオルドに解説した。そして首を傾げる。


「でも二人共何しに来たんでしょうね?

リタ姉が何か叫んでいたような??」


 ラオルドは顔を真っ赤にして左右の腕を小刻みにバタバタさせて慌てた様子を見せヴィエナは更に深く首を傾げた。


「こほんこほん!

聞こえなかったならそれでいい。そなたは気にするな」


 宙に浮いていた右手を拳にして口に当てわざとらしく咳をした。左手は偉そうに腰にあてている。


「ちょっとぉ! 私の妹とイチャイチャしないでくたさいよっ!」


 リタがツカツカとやってきた。サナはリタの説得を諦めたようだ。

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