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第235話 災厄vs七王 その1

 ――イセナ大結界。


 嘗て大海の女神(アクアデウス)明星の女神(ステラデウス)が地上にて争った事で出来上がった、魔境。


 そこでは単体で国さえ滅ぼせてしまう怪物が当然のように闊歩し、そして更に強大な化物の餌となる。


 そんな魔境を、大海の魔王イルマセクは女神の力を借りて封印した。


 何者もの侵入を阻み、何人たりとも外に出さない。


 それが、イセナ大結界。






 しかし――






 今宵、絶対的なはずの大結界に、小さいながら『穴』がこじ開けられた。







「「「――っ!!!!」」」




 その瞬間――大結界内に存在する全ての魔物たちに、数百年以来の緊張が走る。


 未だ嘗て感じた事のない、空前絶後の脅威(きょうふ)――。


 この結界中に能力(アビリティ)【魔王覇気】を所持する魔物は何体か存在する。魔王に匹敵するほどの怪物がゴロゴロ徘徊しているのだ。


 しかし結界に侵入してきた『脅威』が放ったそれは、彼らのものと比較するのも馬鹿馬鹿しいほどに異様で、肌で感じるだけで失神する魔物もいるほどであった。



 弱肉強食、適者生存。理不尽かつ無慈悲に絶えず命を奪い奪われ続けるこの魔境において、数百年顔ぶれの変わらなかった七体の頂点――七王。


 現在結界内に存在する七王は3体。


 〝天竜王(フェレス)〟――


 〝飛虎女王(キュウキ)〟――


 〝蟲女王(ダニカ)〟――



 単体で大国さえ落とせる王者3体。


 絶望的な『脅威』を前に――


 ――今宵彼らの利害が一致する。




「あら、早速おでましね?」



 この世界に新たに誕生した〝魔王〟――その主人格である少女、カナン。


 その足元より巨大な蟷螂の捕脚が飛び出し、カナンを捕まえ串刺しにせんと襲いかかる。


 ――勘違いされやすいが、カマキリの腕は獲物を捕獲し押さえつけるためのものであり、斬撃として使うことはない。


 地中から現れた蟷螂の腕は、カナンを挟み捕まえる。


「いいわよ! 少しは楽しめそうねぇ!!!」


 カナンは即座に絶対切断(ザンテツケン)を周囲に放ち、拘束するカマキリの腕を賽の目に粉々に斬り刻んだ。


 カナンは落下せず空中に留まり、地上を見下す。

 その背後より、大岩ほどの質量の何かが音速で激突する。


 それは背に鷲の翼を持つ白い虎であった。


 上空へと吹き飛ばされるカナン。するとその頭上から、白き雲のごとき竜が睨み付ける。その次の瞬間――


 カナンの小さな体を、無慈悲な青い雷撃が何本も叩きつける。



 ――3体の王者は、嘗ての大怪虫すら想起させる『脅威(カナン)』へと同時に先制攻撃を仕掛けた。


 だが――



「様子見かしら? 甘いのね」



 空中で体勢を整えた脅威(カナン)は、無傷であった。

 僅かな動揺、しかし3体の王はそれを表に出すことはしない。


「決めた」


 カナンは、上空の天竜王に人差し指を向ける。


「まずはあんたからよ」


 カナンは、跳んだ。空を蹴り虚空を踏みしめ、己を見下す竜へと迫る。


 対する天竜王も、カナンを近づけさせまいと雷撃を放つ。


 ――天竜王の力は〝天候支配〟である。天候、天気、湿度。そういった概念を操り支配するのだ。


 すなわち、彼は天変地異の化身のような存在なのである。



 しかし――災厄(カナン)には遠く及ばない。


 雹を音速の風と共にぶつけようが、雷を何発も飛ばそうが。

 カナンはそれら全てを蚊のように弾き、天竜王(フェレス)へと迫る。


「あははっ、分かってるわよこれが偽物だってことくらい♡」


 蜃気楼――光の屈折を歪め産み出した幻を、カナンは切り裂き――そしてその先に姿を隠し潜んでいた本物の天竜王。


 絶対切断(ザンテツケン)の一撃が、頂点たる竜の肉体を切り裂いた。



「……あら?」



 しかしカナンの必殺の一撃は、わずかに逸れて天竜王に致命傷を与えるには至らなかった。

 その理由は――


「なるほどあんたの仕業ね」


 カナンは飛虎女王(キュウキ)を睨み付ける。


 飛虎女王(キュウキ)の持つ高位能力(エクストラアビリティ)……【嘘つきの鬼(アマノジャク)


 その権能は『音』を操る力と、そして『あべこべ』である。

 あべこべ……すなわち、逆さま。対象に、行おうとしていることと逆の行動をさせるという力である。


 これにより飛虎女王(キュウキ)は、天竜王を真っ二つにしようとしているカナンの一撃を逸らしたのだ。


 だが、逆さまにしきれなかった。


 本来ならば自分自身を攻撃させるように仕向けたはずだった。



「なるほど、あべこべの能力ね」



 僅かとはいえ、自分の意思とは異なる動きを強制させられる。戦闘においてこれほど厄介なものもそうはあるまい。


 だが、1度その効果を理解してしまえば……





【意図妨害耐性】




 カナンは、耐性能力をいつでもその場で獲得できてしまう。


 これにより、キュウキはカナンへのアドバンテージを失う。



「有言実行の邪魔よ」



 カナンはキュウキの胴体を死なない程度に殴り付け、地上へとぶっ飛ばす。


 その刹那、キュウキは殴り付けたカナンの右腕に『共鳴』を付与した。


「何かしらこれ?」



 共鳴――



 音とは『振動』である。

 例えば地震……より大きな震度の地震は、地上の構造物を振動で破壊することができる。


 それと同じ原理だ。


 キュウキはカナンの右腕に、超音波による秒速数億回の振動を付与した。

 するとどうなるか?


 ――超振動による秒速数億もの加圧と減圧の繰り返し。その圧力差はカナンの細胞内や体液の中に無数の真空の泡を発生させる。


 この真空の泡の内部温度は極めて短い一瞬のみながら、太陽の表面温度に匹敵し、そしてそれが崩壊する瞬間には強力な衝撃波が発生する。


 地球という世界では、〝キャビテーション〟と呼ばれる現象である。



「驚いたわね、やるじゃん」


 カナンの右腕が真っ赤に染まる。

 毛細血管に沿って木の根っこのように大量出血を起こしていた。カナンに再生能力がなければ右腕は一瞬で崩壊していただろう。


 すると次の瞬間――周囲の景色が一変した。


 ギチギチギチギチ――


 心象顕現――ではない。


 ギチギチギチギチ――


 辺りが暗い。翼虎女王や天竜王の姿はない。

 これは……


「バッタ、かしら?」




 ギチギチギチギチ――



 トビバッタ、或いはワタリバッタ――。


 体長5cmほどの大型のバッタであり、日本では『トノサマバッタ』などが身近に生息している。


 彼らは普段は大人しいバッタなのだが、食糧が豊富になり個体数が増すと、世代を経て群生相と呼ばれる形態へと変貌する。



 ――蝗害



 体色は黒ずんだ茶色に変わり、温厚だった気質が嘘のように貪欲で獰猛な捕食者となる。


 幾万もの大群となり、木を、草を、作物を、目につく全てを根こそぎ食いつくす。


 それが通った地には何も残らず、人々はただ飢饉に喘ぐしかない。


 この災厄を人々は、悪魔と罵り憎み呪うことすら諦めた。


 そして畏れを込めて、こう呼んだ。



 ――『神の罰』と。






 ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ!!!!!!!



 無数のバッタの大群が、カナンへと群がってゆく。カナンは一応は回避を試みる。しかし、ダメージを受けていた右腕に数匹のバッタが留まり――その肉を喰らい始めた。



 蟲女王(ダニカ)の能力は、ありとあらゆる昆虫を産み出し操りというもの。数ある昆虫の中でもとりわけ凶悪な蝗害。


 彼女の操るバッタは植物のみならず、動物さえも貪り喰らう。


 仮に大結界の外でこの『蝗害』を放っていたとすれば、一夜で国から生物のみが消え失せる事となっていたであろう。



「植物の時もそうだったけれど、虫もなかなかやるじゃないの!!!」


 カナンは愉悦に口角を吊り上げる。


 群がってくるバッタどもは即座に切り刻むも、右腕のダメージは未だ癒えない。いや、キュウキに付与された超音波によりダメージを与え続けられているのだ。


「しかしバッタが厄介ね。えいっ」


 カナンは絶対切断(ザンテツケン)の射程範囲を広げ、かつ範囲内の自分を除く全てを対象とする。


 その距離、半径500m――



 時間にしておよそ5秒。



 絶対の斬撃の嵐が吹き荒び、万物を平等に塵へと変えてゆく。大地も森もそこに住まう何もかも。


 5秒後、そこには大地にぽっかりと直径一キロの大穴が口を開けていた。まるで始めからそこには何もなかったかのように。


『神の罰』すらも斬撃の嵐に切り刻まれ、跡形もなく消滅したのであった。



「まさか、これでおしまいじゃないよね?」


 カナンは未だ一切本気を出していない。

 もっと反撃してきてくれなきゃ楽しくない。


 そんな期待に応えるかのように、カナンの背後から白い雲を纏ったような竜……天竜王(フェレス)が突進してくる。


「次は何を見せてくれるのかしら?」


 カナンへと到達する直前、天竜王はその両手の内に凝縮した『雷』を槍の形にして突きだした。




 ――〝叢雲(ケラノウス)〟!!



 青白い雷槍が、振り向きざまに突きだされたカナンの右腕を捉える。


 天竜王の扱う雷には二種類ある。


 ひとつは〝魔法〟としての雷撃魔法。


 そしてもうひとつは、気象現象としての純粋な『雷』。

 気象を操る天竜王は、雷雲中のエネルギーをかき集めて1本の槍とした。


 それは気象現象としての『メガフラッシュ』を一点に纏めたようなもの。



 それが――



 カナンの右腕を打ち砕くに至る。





「あはっ!! やるじゃない!!!!」


 右腕を破壊――

 七王たちに、微かな勝機が見えてきた。片腕を飛ばしたということは、それだけ手数を減らし身体的な大ダメージを蓄積させる事に成功したというもの。


 このままヒットアンドアウェイに徹すれば、勝利する可能性もゼロではない――








 ――だがしかし、その勝機は張りぼてでしかなかった。




 カナンの姿が一瞬にして消えた。

 歴戦の三体の王たちの視界から、感知範囲から消えたのだ。一体何処へ――



 その答えは、上空。




 紅い雷(・・・)を纏い、カナンは上空から天竜王の背を目標に神速で迫る。その速度は時速にして50000キロ。音速の数十倍である。


 それは――〝兄〟のものを参考に、カナンが我流で会得した(あそび)である。




 ――【雷隼(オーバードライブ)!!!!】





 七王どもは何が起こったのかもわからない。カナンの姿が消えた次の瞬間には、都市すら消滅するような衝撃波が辺りを襲ったのだから。





 カナンの『ちょっと強めの一撃』を食らった天竜王は、カナンに踏み潰され大地に叩きつけられ、原型すら留めず木っ端微塵に四散したのであった。


 そしてその衝撃とついでに放たれた絶対切断(ザンテツケン)により、大地に10kmほどの範囲に渡って賽の目状に無数の亀裂が入ったのであった。




「うふふっ、次は?」





 災厄(カナン)は笑う。



 強度階域第8域(デストロイ)の中でもとりわけ強力な、怪物。



 1度カナンへ喧嘩を売ってしまった彼らに、逃げるという選択肢は与えられていない。






面白いと思っていただけたらページ下部から星評価をおねがいします。

あとちょっとで月間ランキング入りなんじゃ……

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