第227話 花嫁
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「ふあぁ……」
ねむい。とってもねむい。
昨日は一日中主様とあんなことやこんなことをして過ごしてた。昨日どころか徹夜で寝ずにしちゃってた。
なのですっごーくねむい。気を抜くと意識が飛びそうなくらい。あと腰痛い、というかがくがくしてて立てない……
腰は抜けるわ全身歯形とアザだらけだわ血をたっぷり吸われるわ……。疲労困憊とはこのことだ。
「おーちゃんだいじょぶ?」
「んむむ……眠い、うごけない……」
隣で目覚めた主様は、心配そうにしながらオレの上に覆い被さり、舌なめずりをする。まだオレのことを食べるつもりのようだ。
「主様……遅刻しちゃうよぉ?」
「えー、いいじゃない? あと5分だけ、先っちょだけ~」
「……5分だけだよ?」
「やったぁ♡」
という訳で、早朝にとっても濃い5分間を過ごしたのであった。たった5分でなんであんなことできるのぉ……
それはともかくとして、この5分で完全にトドメを刺された。マジで動けん。マジで眠い。
「あらあらおーちゃん、とってもお疲れね。今日はお休みしちゃおっか?」
「うぅ……主様は休む訳にはいかないでしょ……」
「それもそうだけど、おーちゃんの方が大事よ?」
「あうぅ……ならオレは、狭間の城で主様が学校終わるまで寝てる……あそこならいつでも話せるし寂しくないもん……」
狭間の城もといあの空間は、言ってしまえば主様の魂の中にあるようなものだ。そのため、魂を繋ぐ契約をしているコルダータちゃんやオレは、その気になれば召喚解除時のように主様の五感をある程度共有できる。
「いいわよ、終わったらお迎えにいくわね」
そんな訳で、オレは大きなお城の大きな大きなベッドの上でぐっすり惰眠を貪る事に成功したのである。ちなみにここのベッド、『YES』とか書かれた枕が置かれてたりする。
オレは主様ならいつでもYESだぜ。
*
「はぁ~……」
体を動かすのが難しいので、羽を駆使してぱたぱたなんとか狭間の城の寝室へとたどり着いたオレはお布団に潜り込むと一瞬で眠りについた。
ここは主様の魂のすぐ近くの世界。寂しさはない。
そうしてぐっすり惰眠を貪ること、数時間。
「ん~……」
尿意に目覚めさせられ、もぞもぞとお布団から這い出す。まだ腰は痛むが、動けないほどではなくなってきた。オレも主様ほどではないにしても、治癒力高くなってきているのかもしれない。
そんなこんなでベッドから降りて部屋の扉へ向かおうとした時のこと。
「んぇ?」
扉が独りでにゆっくりと開いた。
そして廊下から、子供の頭がこちらを覗き込む。
蒼い髪に、狼の耳。
あの子ってもしかして……
「シオノネちゃん……?」
『……うん』
こくりと頷くシオノネちゃん。
シオノネちゃんは恐る恐るゆっくり寝室に足を踏み入れる。服装は簡素な羽織りのようなもので、確かまだ肉体に魂を定着させる途中だったはずだ。
『少し、だけなら、動いて、話せるの。あなたと、おはなし、したい』
「いいよ。何を話そうか」
彼女は主様の恩人だ。狂信国の施設で落ちこぼれだった主様の親友であり、そして名付け親でもある。
そんな彼女がオレと話したいという。
「……きみは、カナンちゃんにとっての、何?」
「オレは、主様……いや、カナンの恋人だ」
「……そっか。カナンちゃんのこと、どう思ってる?」
「好きさ、大好きさ。愛してるさ。この気持ちは言葉じゃ言い表せないほどだ」
「そう、なんだね。それじゃ、きみにとって、カナンちゃんは何者?」
「カナンは……強くてカッコよくて世界一綺麗なご主人様だ。……それと同時に、泣き虫で寂しがりやさんで甘えん坊な、小さな女の子でもある。オレが守ってあげなきゃいけない、この世で1番大事な人なんだ」
「そっか、カナンちゃんはもう1人じゃないんだね。
カナンちゃんのこと、よろしくね。いっぱい甘やかして、いっぱい幸せにしてあげてね……」
そう言うと、シオノネちゃんは部屋を後にするのであった。
……もちろんだ。オレは主様と添い遂げる覚悟だ。死ぬまで隣で幸せに笑ってやる。
オレはどうやら、シオノネちゃんに認められたようだ。
*
昨日は最高だったわ。1ヶ月ぶりのおーちゃん、あまりにもかわいくっていっぱいいじわるしちゃった。
……少しやり過ぎちゃったかしら。朝も我慢できず襲っちゃったけれど、すっかりヘトヘトだったみたいだし。帰ったらいっぱい甘やかしてあげなきゃね。
なーんて物思いに耽りながら授業を受けていると
「……?」
誰かしら?
先生の隣に見知らぬ男の人が立っている。
その人は私のことをじっと見つめていて……。ちょっと気味が悪いわね。
「ねえパラちゃん」
「んメェ?」
「あの人って誰かしら?」
「メェ~? 先生以外に誰もいないんだメェ?」
「そう、気のせいね」
……見えていない。いや、私にだけ見えているといった感じかしら。
今のところ害はないけれど、クラスメートのみんなに危害を加えるような真似をしたら即排除ね。できれば学校で物騒なことはしたくないけれど。
そんな私の願いが通じたわけではないけれど、今日は特に何も起こることなく平和に終わった。
そして放課後。
あの男は、常に私の視界のどこかに映り込み、手を振ってくる。走って撒こうにも瞬間移動しているみたいに先回りしてくる。
やれやれ、面倒だけれど付き合ってやろうかしら。
私は人気の無い路地裏へ移動する。
「私に何の用かしら?」
『おぉ! ようやく僕を見てくれたね!!』
男は子供みたいに目を輝かせ、こっちに歩いてくる。
『さぁ、こんなところから抜け出して自由になろう! 我が花嫁よ!!!』
「は?」
ハナヨメ、花嫁? 私が、こいつの?
「一応聞くけれど、よく似た誰かと間違えてないかしら? 私あんたと会ったことなんてないんだけど?」
『いいや間違えるはずがない! 先月、アリアナを殺した美しきあの姿! 間違いなく君だ! 一目惚れなんだ! 結婚式の準備は済ませてある! さぁ!!!』
な、なによこいつ。気色が悪すぎる。
アリアナって確か私が壊滅させたマフィアの幹部だったかしら?
そのことを知ってるとは、ただ者ではないわね。
「人違いではなさそうね。けど、私にはもう先約があるのよ。私はもうおーちゃんのお嫁さんになるって決めてるの。だから諦めて」
ここまで言えばさすがに諦める……そう思っていた私が愚かだった。
『なん、だと? 我が花嫁を横取りするとは。あまつさえ誑かすとは……! 許さぬぞ、何者だそやつは、必ず息の根を止めて君の目を覚まさせてあげるからね!!!』
「あ?」
キモいキモいと思っていたけど、こいつ今おーちゃんを傷つけようとしてるって言ったわよね?
決めた、こいつは殺す。
「ねえ」
『なんだ我が花嫁よ』
「死んでくれる?」
私はこいつと『目を合わせ』、【タナトスの誘惑】を発動する。
『お、おぉ?』
男は自らの手で己の首を絞め始める。
『凄いな我が花嫁は、こんな事もできるのか!』
バチンッ!!
何か強い力によって、【タナトスの誘惑】が弾かれた。
私は僅かな動揺を抑え、男に【絶対切断】を纏った手刀で斬りかかる。
すると男の身体はあっさりと両断され、地に倒れ付した。
『素晴らしい、素晴らしいぞ花嫁よ……! 分霊とはいえこの僕を切り裂くとは……!!』
「うるさい」
もう声も聞きたくないので、私は更に首を切り落としてやった。
しかし、男は笑みを崩すことなく嬉しそうに私を見つめていた。
……血も出ないし妙に手応えもないし。こいつ、人間じゃないわね。『分霊』とも言っていたあたり、かなり上位の精神生命体の分身のような存在みたいね。【タナトスの誘惑】が本体へフィードバックしなかったのは気になるけれど。
『そう遠くない内に再び会おう、花嫁よ! じきに迎えにゆくぞ!!!』
「2度と会いたくないわ」
私は転がった頭部を更に切り刻むと、男だったものは黒い塵のようなものとなって散っていったのであった。
ほんと、気持ち悪い。帰ったらおーちゃんをいっぱい摂取しなきゃね。
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