第185話 恩人の正体なんだよ!!
「ふきゅんっ!!」
「どしたのそのカワイイくしゃみ? 私を誘ってるのかしら?」
口から白い煙の出る変なくしゃみをしたら、何故か嬉しそうなカナンにからかわれた。
「しゃ、誘ってないもん!」
「うふふ、冗談♡」
カナンはそう言って、恥ずかしがる俺の手を取る。
うう、ホントに恥ずかしい……
だって、お外だよ? 人が見てるんだよ?
だよぉ……。
今は『深淵の月』の終わり頃。深淵は一年の最後の月である。地球の日付に換算するのなら、だいたいクリスマスくらいになるのではないか。
クリスマスと言えば、日本人の誕生日で1番多いのは10月なんだっけ。そこから逆算すると、ちょうどクリスマス……。
まぁ、うちの主様は年中聖夜だぜ。昨晩だってな。
やめやめ、外で考える事じゃない。
「おーちゃんのおててすごく冷たいわ。寒くない?」
「そこまで寒くはな……にゃっ!?」
コートを着てきて防寒してたのになぁ。マフラーだって、二人で同じのを巻いてるし。
なんて思っていたら冷たく冷えたオレの手を白くて生暖かい風が包み込んだ。
「はぁ~……どうおーちゃん?」
「あ、あったかい……」
カナンの吐息が、オレの両手を優しく暖めてくれる。
冷えきった手を完全に暖めるには足りないけれど、オレの心はもう沸騰寸前まで熱くなっていた。
もちろん恥ずかしさで。
するとカナンは、オレにこしょこしょと耳打ちする。
「帰ったらね、ゆっくりじっくり暖めて融かしてあげる♡」
「ひゃ、ひゃい……」
うぅ、昨日もいっぱいしたのに今夜もか……。
今はもう長期の冬休みだし、いくらされても嫌じゃないけど……。
――今は冬休み。大量に出された宿題もカナンは早々に片付け、用事がてら都市内で気ままにデート中である。
「おーちゃん、温かいものでも食べる?」
「んー、何があるかなぁ」
馴染みのカフェで、何を注文するか悩む。
冬季限定のスイーツなんてのがいっぱいあるのだ。
うーん、悩む。〝あったかふらぺち〟とかいうのも気になるし……
まあ結局、二人で『あったかふらぺち』を選んで一緒に飲むことになった。
温かくて優しく甘くて、ほっと落ち着く味わいだ。キャラメルマキアートを思わせる。
「ほっと一息。癒されるわねぇ」
「んねーっ」
息が白く染まり、カナンと一緒にぼんやり空を見つめる。
せっかくの長期のお休みだ。学園都市内だけで過ごすのももったいない。
実家に帰省する生徒もいるくらいだし、オレたちもお世話になった人に顔を見せに行くくらいしてこうかな。
新しく手にした能力も試したいしな。
「さて、そろそろ来るかしら?」
今日はデート……だけではなく、人と待ち合わせもしているのだ。
その人物とは……
「お待たせなんだよ!」
桃色の髪をした、小さな女の子。
フィアーノちゃんである。
今日は両親とは別で、一人でオレたちと待ち合わせていた。
なんの用事かと言うと、カナンの持つ刀……【紅影】の手入れをしてもらうという予定である。
今まで何度も助けてもらってたのに、お礼をできていないと泣きながら懇願されたのだ。
別に対価を求めてた訳じゃないが、お礼を断るのもまた可哀想なので好きにさせようと思った。
「早速……とその前に、フィアちゃんも何か食べたらいいんじゃない?」
「あ、ワタシはもう食べてきたんだよ。お気になさらずだよ!」
お腹をぽんぽん叩いて、お母さんの料理は世界一なんだよ! 等とのたまうフィアーノちゃん。
カナンが物欲しそうにオレを見つめてくるので、今夜のご飯は豪華なものにしようと思う。今晩はカレーかな。
「さて、それじゃ場所を移しましょうか」
「え? どうして?」
「街中で剣を出す訳にはいかないからな」
え、まさかカフェの前で紅影の手入れをするつもりだったのか?
そんなきょとん顔のフィアーノちゃんを引っ張って、オレたちはカフェを後にした。
*
学園都市には珍しい一軒家のような建物に案内された。
見たこともない大小さまざまな道具が壁にかけられ、綺麗な宝石や鉄屑が纏められた木箱が丁寧に壁際に置かれている。
ベッドの隣には勉強机の代わりに木の作業台が置かれていた。
「ここでやるのかしら?」
「ううん、魔法金属の類は別の部屋におる作業台を使うんだよ」
そう言って、フィアーノちゃんは重そうな鉄扉を開けた。
――錬金術師。
それは、ある意味では『魔術師』と対をなす関係の術師である。
いわゆる〝魔術〟とは、魔力を具現化させて現象や物質を0から創り出しているものである。
それに対する〝錬金術〟とは、魔力を用いて既存の物質を操り、変形させ、そして別のものに造り変える技術である。
作り変える物体の質量を越える物は産み出せないが、魔術よりも細やかに物質を操ることができるという。
それにより、ただの石を造り変えて『金』を錬成する事も可能だという。まさしく『錬〝金〟術』だ。
ちなみに魔術も錬金術も魔力を扱う技術であるため、総じて『魔法』として分類されているらしい。
閑話休題。
フィアーノちゃんはそんな『錬金術学科』に通う女子生徒である。
そんなフィアーノちゃんに、カナンは諸々のよしみで愛武器の『紅影』を見せる事にした。
「おーちゃん」
「ああ」
オレは【次元収納】に仕舞っていた魔剣〝紅影〟をカナンの手の中に出現させる。
「おぉ? もしやそれは【次元収納】!? 凄いんだよっ!!」
既に大興奮なフィアーノちゃん。大丈夫かこの子……?
「さ、これが私の愛刀の『紅影』よ。どうかしら?」
「はい! さっそく見せてもらうんだよ!」
青みがかった金属の台の上に置かれ、じっくりと観察される紅影。
造りは日本刀によく似た細めの片刃刀である。
その名の通り、紅色の刀身に影のような薄暗い波紋が妖しく輝いている。
「んー、魔鋼に鉄を混ぜた合金……じゃない? 何この純度の高さ……?! いや、まさか〝魔鋼〟の中に更に上位の魔法金属が混ぜられてる……? 嘘でしょ、しかも何この折り返しの多さ!? 何万層もあるんだよっ!? 純魔鋼の加工ってだけでも凄いのに、この磨ぎに鍛練に……ば、化け物の所業……なんだよ」
紅影を見つめながら、ブツブツと呪文のように呟くフィアーノちゃん。
「ど、どうしたのよフィアちゃん?」
「わわわ、ワタシが触るのも畏れ多い逸品なんだよコレ!!」
一体どうしたんだろうか、このフィアーノちゃんの異常な慌てようは。
そういえばメルトさんって確か、そこそこ高名な鍛冶師だって言ってたような。コルダータちゃんのお母さんだ。
「落ち着いてって。そんなに凄いのかしらコレ?」
「凄いもなにも、魔鋼をそのまま加工するのはとっっっっっても難しいんだよ!! 魔鋼は超高温の融点まで熱した上で膨大な魔力を流し続けないとまともに形を変えられないんだよ!!
だから普通は鉄とかに1%未満の少量混ぜて使ってるんだよ!! それなのにこれは、純度は少なくとも70%以上! しかも残りは更に加工の難しい上位の魔法金属なんだよ!! 恐らく霊晶魔鋼!!」
「す、凄まじい事はよく分かったわ……」
早口でなにやら凄そうな事を語るフィアーノちゃんに、オレたちはさすがにドン引きしていた。
メルトさんが「そこそこ」なの、多分間違いだよな……
「こんなの間違いなく特級の錬金鍛冶職人の仕業なんだよ……。いい一体何者なんだよ!?」
「め、メルトさんよ……。ドワーフの女の人で、一時期家に寝泊まりさせてもらっていた恩人なの」
「メルト……? ま、まさかあの……まだ存命中だったなんてっっ!!! Foooooooooooo!!!!!!!!!!!!!」
つ、ついにフィアーノちゃんが壊れたっ!!!
発狂するフィアーノちゃんをどうにか押さえつつ、落ち着かせて話の続きを聞く。
「ハァ……ハァ……。め、メルト……と、いう錬金鍛冶師は……伝説の存在なんだよ。
人の世からは百年前に姿を消したと聞いてたんだよ」
「百年……長寿のドワーフならあり得る話ね。それで、伝説っていうのはどういう事なの?」
「ぜえぜえ……。メルト様は……〝人魔大戦〟を終結に導いた『明星の勇者 ソフィア』の愛剣……【心星剣】の製作者なんだよっ!!!!」
実は凄い人だったメルトさん。
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