第155話 爆発オチはいかがなものか
(さすがに一旦召喚解除するわね、おーちゃん)
(あぁ、助かる。小さいと色々と不便だもんな)
(そうね。けれどこれが終わったら、また小さくなってもらうわよ? 今度こそおーちゃんを食べちゃうの♡)
(ふぇ、あうぅ……あんまり痛くしないでくれよ……)
食べるって、どっちの意味なのか。
今晩は本当に頭からもぐもぐ食べられてしまうかもしれないなぁ……なんて思うオレを置いて、カナンは何も知らないジョニーちゃんと共に都市の結界の外へと向かった。
*
都市の外にも街が広がっているが、学園のとはまた違う雰囲気だ。
和風というか中華風というか。
極東アジアっぽい建築物がビル郡の合間にちらほら見受けられる。
「久しぶりじゃな、カナン」
「あら、あなたも来てたのね」
赤い肌の額に一本角。
ムッキムキでかなりのガタイを持つこのおじさんは、学園に入る前にお世話になった冒険者ギルドのマスターだ。
名前は確か、オニキさん。
「これは国際問題になりかねん事態じゃからな、総動員されておるんじゃ。それはともかくじゃ、今解っている事を共有しておきたい」
「助かるわ」
――突然200人もの生徒が消えた。
この事件を調べるべく、国は冒険者協会と連携して調査を始めた。
目撃者の調査や結界の出入り記録。あらゆるものを洗いざらいに調べたのだ。
その結果、生徒たちは自ら結界の外へ出た事が分かっている。
この時、結界の側にいた警備兵が全員、なぜか耐え難い眠気に襲われて眠っていた。
結界外の目撃者によると、虚ろな様子の生徒らが何人も人気の無い場所へと向かって歩いていたのだという。
この多数の目撃証言と照らし合わせ、生徒らが向かった先を特定した。
「それで、見つかったんか?」
「ううむ……。見つかったのは、複数の転移陣の残骸だけじゃった……」
転移だと?!
一体何処へ連れ去られてしまったのか。
いや、わかってるんだけどな。
「これ以上の事はわかっておらん。どこへ転移したのかさえ、全く手がかりも掴めておらんのじゃ」
「厳しいなぁ……。ワイの探知の範囲内に反応は無いしなぁ」
ジョニーちゃん探知能力まで持ってたのかよ。
だがカナンの【タナトスの誘惑】よりは狭いようだ。いやこっちが広すぎるだけなんだがな。探知範囲千kmって。
「その心配はいらないわよ。私の探知には反応があるから」
「ほほお、やるなぁカナンちゃん。そんでどこにおるんや?」
「南南東にざっくり150kmね。今すぐそこまで行きたいのだけど、良い移動手段は無いのかしら?」
「魔導車で飛ばしても半日はかかるのう……。もしもこれが誘拐ならば、着く前に何処かへ移動してしまっているかもしれぬし……」
150km。カナンの【空中跳躍】とオレの翼を併用すれば、全速力で30分くらいで着く。
しかし、カナンとオレだけ行っても仕方がない。
ジョニーちゃんを含め、仲間を多く連れていきたいのだ。
「ひとつ考えがあるわ」
「何じゃ?」
「私の配下を使うのよ」
カナンには優秀な配下がいる。
そう、ドレナスさんだ。
『――ドレナちゃん大丈夫かしら? 今どこにいるの?』
『おぉ我が主! ワタシは今、妹のドルーアンと共に学園都市の仙術学科にいるぞ!! 昨日はよくぞドルーアンを打ち破ったなぁ! 天晴れだ!!』
『ドレナちゃんったらドルちゃんの同伴者だったのね……。まあいいわ、ちょっと眷族の飛竜を何体か貸してくれるかしら?』
『無論だ!!! 我が主ならば何体でもくれてやろうぞ! ワタシの眷族はみな我が主の配下でもあるのだからな、ワタシを召喚する能力で眷族たちも呼び出せるはずだ』
へえ、【炎竜王召喚】であのワイバーンの軍勢を呼び出せるんだ。いや、知らなかったな。これでワイバーンたちの背に冒険者らを乗せて行くつもりなのだが、しかし気になる事がある。
『なあ。横から悪いんだけどさ、なんでドレナスさん本人を呼ばないんだ?』
『む、そういえばそうだな? ワタシの力ならばいくらでも使ってほしいのだがな?』
ワイバーンよりも竜化ドレナスさんの方が飛行速度は速い。それに戦力にもなる。なのになぜワイバーンだけなのか。
『ちょっとね、嫌な予感がするのよ。私が不在の間にドルちゃんと学園都市をお願いしたいわ』
嫌な予感……。確かに、何か妙だ。
なぜわざわざ学園都市の生徒を狙ったのか。
都市の中に現れた黒ローブの男といい、何か裏で別の思惑があるように思えるのだ。
『……なるほど、あいわかった。この重大な役目、この命に懸けて護ると誓おうぞ!!』
『ありがとう、それじゃよろしくね』
そう言って、カナンはドレナスさんとの【念話】を切った。
そして手を前に翳した。
「〝飛竜召喚〟」
目の前の地面に赤く巨大な陣が展開され、その中から赫色の巨竜が何体も出現する。
「わ、飛竜!?」
「大丈夫、これは味方じゃ」
パニックになりかけた冒険者たちをオニキさんが落ち着かせる。
彼らにはこれからこの最上位飛竜の背中に乗ってもらうのだから。
「あれ……? あ! カナンちゃん!?」
「あらあらぁ、こんな所で会うなんて縁があるわねぇ」
「あら、エリちゃんとリナちゃんじゃない」
朱色の短髪に褐色の肌。
そこらの男より逞しい体格の逞しい女剣士と、水色の長髪を星形の髪飾りで纏めている儚げな少女。
エリナリアさんとリナリアちゃんが、こっちに駆け寄ってきた。
二人も来ていたとはな。
「このワイバーンはカナンちゃんが呼び出したものなのかな?」
「そう、ドレナちゃんから借りてるの」
「あの人すっかり丸くなったんだね……」
この二人は、あの凶暴なドレナスを見てるからな。第一印象というものはそう簡単に拭えないものである。
それはさておき、呼び出した最上位飛竜の背に乗る冒険者はそこそこ限られる。
時速100kmを越えるワイバーンの飛行速度に耐えられる、その背に一時間しがみついていられる能力がある者だ。
最低でもCランクだ。
この付近にいる冒険者を急いでかき集めると、Cランク以上の冒険者は15人くらいだった。
「ほ、ほんとにこいつ乗れるのかよ……」
「ヴァ?」
「ひっ!?」
「大丈夫よ、私の命令には従うから。よしよし、冒険者さんらを怖がらせないであげてね」
「ヴァ!」
Cランクは冒険者の中ではベテラン以上の扱いである。だが、この最上位飛竜は一匹で小国を滅ぼせるくらいの力を持っているのだ。
仮にこいつに討伐依頼のランクをつけるとすれば、Sランクは下らないだろう。
「ええい、ままよ!!」
覚悟を決めた冒険者のみんなが続々とワイバーンの背に跨がった。
念のためワイバーンの背中のトゲにロープで体を巻き付けたりしている人もいる。
リナエリの二人も同様、かつて死闘を繰り広げた敵と同種の背中に跨がっていた。
「まさかワイバーンの背中に乗る日が来るなんてなぁ。貴重な体験やな」
ジョニーちゃんとカナンは、同じワイバーンの背中に乗る事になった。
ジョニーちゃんもカナンも自力で飛べるのだが、他の冒険者に合わせる必要があったのでワイバーンを使う事にした。
「さ、おねがい」
「ヴァウ!!」
ワイバーンは翼を広げ、一気に大空へ飛び立った。
眼下の世界がみるみる内に後退してゆく。後方では他の冒険者たちを乗せたワイバーンたちもついてきている。
……ワイバーンも、こうしてみるとなんだかちょっと可愛いな。犬みたい。
『大丈夫よ、おーちゃんの方がカワイイからね』
『あうぅ……』
また主様はすぐそういうこと言う。
*
学園都市から南南東に突き進むと、メカウという小さな港町にたどり着く。
町の役所やらギルドやら自治体やらにはオニキさんから連絡済みで、調査に全面協力してくれるとの事だ。
「ありがとう、ここで降りるわ」
ワイバーンの群れは港町の手前の林に降り、背中のみんなは地に足をつけた。
街中にワイバーンなんて魔物が現れたらパニックになりかねないからだ。
「……まだいるわね。今助けてあげるからね」
潮の匂いがする。
オレはカナンに人化召喚してもらい、一緒に〝居場所〟へと近づいていく。
さっきみたいな小人形態ではなかったのだが、もしかしてこれ切り替え可能なのだろうか。
まあそれは後でいいか。
「あの船ね……」
「数日前から停泊している〝ワルス商会〟の貨物船です。今朝から大きな荷物を多数詰め込んでいるのを見かけましたが……」
街に常駐している憲兵の一人がそう教えてくれた。
港町にはいくつかの船が停泊しており、その中でも特に巨大な木造船の中からセミヨンちゃんとフィアーノちゃんの反応を感じるらしい。
5分ほど様子を窺ってみると、やはり臭う。船の周囲には常に何人もの男が警備でもするようにうろついている。彼らは一見チンピラやごろつきのように見えるが、妙に統率が取れていたりと怪しさプンプンだ。
魔人や亜人はいないようだが、それなりに戦闘力のありそうなやつも混ざっているな。
「ワイとカナンちゃんはあの船の内部を探る。他のみんなは他の船の調査をたのむで」
「了解だ。健闘を祈るよ」
「頑張ってねぇ」
リナリアさんとエリナさんは、とある事情で奴隷商売を恨んでいる。
この誘拐事件が果たして奴隷として売る目的なのかはわからないが、それでも子供を連れ去って船で運ぼうとしているのだ。その怒りは計り知れない。
二人の気持ちを背負って、オレたちはその貨物船に近づく。
念のために離れた所で少しだけ様子を見ていると、やはり怪しい。
「なんですかあなたたちは?」
「憲兵中尉のエルメスである。こちらの船で不審な貨物を運び込んでいるとの情報があってな。調査をさせてもらいたい」
船に近寄るとごろつきらがこちらに立ちふさがった。
そこで同行していた憲兵のお兄さんが、淡々と任務内容を彼らに告げた。てか中尉ってけっこう偉くない?
「不審な荷物ですと? そんなものを積んだ覚えは無いのですがねぇ? 確かな情報なのですか? 信憑性は?」
「私の能力で分かるわ。あんたらが悪い事をしてるのはお見通しなのよ」
「ほほう、探偵ごっこですかなお嬢ちゃん方? 憲兵さんの邪魔になるからあっちで遊んでなさいな」
こいつ、今目を逸らしたぞ。
やっぱ後ろめたいことがあるな。
「彼女らは調査に協力してくれる冒険者だ。どうしても船内を改めさせないのであれば強硬手段に出るが、いかがなされますかな?」
「そんな子供が冒険者とは、堕ちたものですなぁ。……やれ! お前ら!!!」
その瞬間、周囲にいた男たちが一斉に襲いかかってきた。
……が、直後には皆地面に伏せるように倒れていた。
【威圧】で瞬殺だったのだ。
「弱いわね」
「カナンちゃんが強すぎるだけや」
「……え?」
剣を抜いて固まる憲兵さんを横目に、オレたちは船へと歩いて行く。
大きな船だ。ワルス商会と言ってたが、これを見るとかなりの財力があるように思えるな。
そしてオレたちは邪魔者もなく、桟橋から船の甲板まで渡ったのであった。
その時。
ジョニーちゃん、憲兵さんと船に乗り、最後にオレとカナンが足を踏み込んだ。
その時、足元からカチリという音が聞こえた。
すると船は大爆発を起こし、桟橋もろとも跡形もなく砕け散った。
爆発オチなんてサイテー!




