第154話 協力要請
200人以上の生徒が同時に姿を消した――
世界屈指の学園都市で、これはあってはならない大事件である。
既に多数の冒険者を動員した捜索隊は出動しており、都市から数十キロに渡って洗いざらいに調べていた。
「行方不明とは言っても、思春期の子供なんてよく家出するじゃないですか? 今回もどうせ皆で示し合わせて脱走したとかそんなんじゃあないんですか?」
学長らが集まり対策会議を行う中、魔導戦闘学科の学長……ワイグは、たるんだ腹を揺らしながら気だるそうに言った。
「だったら良いのだがね。いや良くはないが。もしも何かしらの犯罪に巻き込まれた場合、ここで何もしなければ取り返しのつかない事態になりかねない」
「ですがねぇ……過去にも集団脱走事件があったでしょう? あの時だって、捜索にどれ程の金をかける羽目になったか!」
ワイグは熱弁する。
過去に起こった脱走事件にどれ程の金をドブに捨てる羽目になったかを。
「分かっていないなぁ、君は」
「何だと!?」
「万が一にでも生徒たちの身に何かあれば、罰せられるのは我々だ。そうなれば貴方の首も危うくなる。比喩的にも、物理的にも」
「くっ……」
「そもそもあの時は自由科の生徒のみだったじゃないか。ガラの悪い彼らならやりかねないが、今回は違う。ありとあらゆる学科からの行方不明だ。示し合わせる事など不可能とは言わないが難しいだろう」
「つまりだ。最悪を想定して動かなければ、最悪の事態になるという事だ。分かったかね、ワイグ卿?」
各学科の学長に押され、ワイグはしぶしぶ自分の言い分を収めた。
すると、円卓の中心に置かれた水晶に冒険者協会からの通信が映し出される。
「……情報が入ったぞ。ふむ、なんと。ワイグ卿、君の学科の生徒に冒険者協会から直々の捜査協力要請が届いているようだぞ。しかも2名」
「はぁ。どの生徒です? 全く学生の分際で冒険者なんてやってる不埒な奴がいるとは……」
「まぁまぁ。向こうが言う限りじゃかなりの実力の持ち主だね。
ふーむ、名前は……カナンとジョニーか」
*
「んー……かなり遠いわね」
突然の集団失踪事件にクラス中が騒がしくなる中、カナンは腕を組んで難しそうな顔をしていた。
「遠くってどのくらいだ?」
「そうね、南の方に150kmくらいだわ」
「そんなに!?」
カナンの能力【タナトスの誘惑】の副次効果により、マーキングを施した相手の位置をかなり広範囲に渡って把握できる。
別に殺したい訳ではないのだが、今回みたいなもしもの時に備えて、仲の良い友達にはこっそり仕込んでいたりする。
そう、仲の良い友達。
今回カナンのこの探知に引っ掛かったのは二人。
昨日一緒に戦ったセミヨンちゃんと、クラッドさんの娘のフィアーノちゃんだ。
学園都市からかなり離れた同じポイントに二人の反応がある。異常だよな。
「誘拐と見て間違いなさそうね。行くわよおーちゃん」
「おー!」
そうしてカナンがネメシス先生を押し退けて、教室の扉を勢いよく開けた時の事だった。
目の前に、太ったおっさんが立っていた。
「なんだ貴様。立ち歩いていないで席に着け」
「誰よあんた?」
「その無礼な物言い、貴様はさぞ育ちが悪いようだな? ワシは魔導戦闘学科学長、ワイグであるぞ?」
なんだこのおっさん。
学長だか何だか知らないが、偉そうで腹立つな。
おっさんの後ろに気の弱そうな青年も立ってるが、あっちは何者かな。学校関係者ではなさそうだが。
「まあいい。あいにくワシは忙しくてな。お前のような子供に構っている暇など無い。
このクラスにいるカナンという生徒に用がある」
……いや、何こいつ。目の前にいるのがカナンなんだが。
「カナンって、私の事よ?」
「嘘をつくでない! お前のような生意気な子供が高位冒険者なはずがあるかっ!」
「嘘じゃないメェ~!」
「その子がカナンなのさ!」
「そうだそうだ! なりは小さいけどとんでもなく強いんだぞ!!!」
「学長のくせに昨日の交流戦観てないのかよ!!」
一瞬で論破されてんなこのおっさん。
しかしカナンに用があるとは、一体何だろう。
「おい! 話が違うではないか!! こんなガ……子供だとは聞いてないぞ!!」
「わ、わたくしもここまで幼い子供だとは知らず……」
後ろのお兄さんに矛先が向いた。どうやら彼は冒険者協会の者のようだ。
「ねぇ、いい加減に私に何の用なのか教えてくれないかしら? こっちは時間が無いのよ」
「ふん、とんだ期待はずれだったが仕方ない、教えてやる。
今回の集団失踪事件の捜査に協力しろと、冒険者協力からの要請が来ていたのだ。だが蓋を開けてみればこんなガキとはっ!
こちらから断っておくとしよう。貴様には後に相応の罰を与える!」
「ふーん? 私は別に頼まれなくても助けに行くつもりだったわよ。それさえ邪魔しようって言うのなら、容赦しないわよ?」
「ほう? 誰に容赦し……ひ、ひゃ? わひは……ひいぃっ!?」
カナンが【威圧】を放った。ごく弱めのものだったが、このワイグとかいうおっさんはそれだけで腰が抜けたようだ。
「ねぇ? 容赦しないって意味、解るかしら?」
「ひ、ひいぃぃっ!? わ、わしは学長だぞ!? わしに手を出したら……」
お、失禁してら。きったねぇな。
主様にくっさい臭いが届かないように、周りの空気に【清浄】をかけておく。
そして主様は、怯えるワイグの頭に手を当てて耳元で小さく囁いた。
「うふふ、もう逃げられないわよ。これから一生、あなたがいつ如何なる時と場所にいても、私の機嫌次第で殺せるようになっちゃった♡」
「ひ、お、ご……」
あー、耐えられず泡噴いて失神したな。
この程度の奴が学長って、大丈夫なのか不安になるな。いっそジョニーちゃんあたりが卒業したら学長になったらどうだろうか。
「わざわざここまで来てもらって悪いわね。喜んで協力させてもらうわ」
「ひ、あ、は、はい!?」
ま、カナンなら初めからそう言うと思ってたぜ。
いくら個で強くても、単独行動は拐われた皆を危険に晒す可能性がある。
味方は多いに越したことはない。
「それじゃみんな、行ってくるわね」
「行ってらっしゃいだメェ~!」
「おー! 頑張れよなー!!」
そうして、オレを胸ポケットに忍ばせたカナンは教室を後にした。
校舎を出ようと歩いていると、後ろから誰かがついてきていた。
「カナンちゃんや。面白そうやなぁ、ワイも同行させてもろてもええか?」
「ジョニーちゃん?!」
黒いコートに身を包んだ、魔導学科最強の少女……ジョニーちゃんだった。
ジョニーちゃんがいれば百人力だが、許可なんて降りるのだろうか?
と思ったら
「もうよろしいのですね、ジョニー・ナイト・ウォーカーさん。では共に向かいましょう」
「えっ? どういう事かしら?」
「ふふーん。ワイもな、実は冒険者なんや。Aランクのな。だからワイにも協力要請が来たんや」
「初耳だわそれ」
「そうやろ、言っておらんかったからな」
やったら強いとは思ってたが、冒険者もやってたとはな。
何はともあれ、ジョニーちゃんも来るなら心強い。
こうしてカナンたちは、他の捜索隊や冒険者らと合流するために学園都市の外へと向かうのであった。
影魔ちゃん二周年です。
記念にこの章の後にノクターンエピソードを投稿する予定です。ちっちゃいおーちゃんを美味しく食べるカナンちゃんのお話です。どんな風に食べるのかなぁ()




