第144話 物理戦闘学科との戦い
おーちゃんが足りぬ……オチャニウムほしい
それは小高い岩山に面した森の中。
蒼く光る水晶が木々の合間に浮かび、それを様々な武器を持つ生徒達が囲んでいた。
《お知らせします。3組のキルベガンくんが脱落しました》
その時、彼らの脳内にその『通知』が届けられた。
「様子見に赴いたキルベガンがやられたか」
「奴は我ら物理戦闘学科の中でも近接最弱……」
「しかし誰よりも努力して、唯一無二の強さを手にした凄い奴だった……」
「許さんぞ魔法学科……仇は必ずとってやるからな、キルベガン!」
物理戦闘学科の三人の男たちは決意した。必ずや魔法学科を打ち倒し、そして仙術学科の〝怪物〟も倒すのだと。
物理戦闘にとって魔法は天敵だ。
間合いの外から魔法を撃たれるだけでもかなりの苦戦を強いられる。
故に、いかに接近戦に持ち込むかがカギだったのだ。キルベガンはその為に魔法学科の様子を見に行き、あわよくば水晶の破壊もやってしまおうと思っていたのだ。
一方仙術との相性はというと、有利とは言い切れないものの不利や五分ではない。微有利と言ったところか。
本来なら、仙術学科は物理戦闘学科がゴリ押せば倒せなくもない相手であった。
しかし、今回の交流戦には〝怪物〟がいる。
二月前の編入試験で仙術の達人たる試験官を数名半殺しにしたという、バケモノ。
相性の悪い魔法学科よりも、怪物を相手にする方が危険と判断したのだ。
だから、先に魔法から潰す。魔法という細かいリスクを排除した上で、最大の難敵の〝怪物〟に挑まんとしていたのである。
「てかキルベガンがあっさりやられるって、魔法学科も結構ヤバそうじゃね?」
物理戦闘学科の紅一点がそう呟いた。
「だな。〝怪物〟ほどではないにせよ、キルベガンほどの奴を倒せるとは……」
「あたしが行ってくるよ。援護したけりゃお好きにどうぞヤバかったらソッコーで逃げてくるからさ」
そうして少女は大量のナイフを懐にしまうと、森の中へと消えていった。
彼女の名前はアヤラ。
彼女もまた、キルベガンとは別の方向の天才である。
*
「ただいまー」
「おかえりカナンさん」
キルベガンを仕留め、無傷で皆の元へ戻ってきたカナン。
元よりカナンが近接もいけるというのは共有されているが、近接の鬼とも言える物理戦闘学科相手に勝てるとは思っていなかった。
「倒した、んですか?」
「倒したわよ。骨のありそうなやつだったから速攻で叩き潰してきたわ」
カナンの言っている事は事実だ。
キルベガンは天才である。
キルベガンは物理戦闘学科の中では近接が比較的苦手だったが、それでも2丁の銃剣で立ち回れたりとある程度カバーはしている。
防ぐつもりだったカナンに1発弾丸を当てた。それだけの実力はあったのだ。
ただただ相手が悪かった。それに尽きる。
「さて、そろそろ水晶を護る僕の術式の設置が完了する。それができたら、セミヨンさんとジムさんには物理戦闘学科の方への奇襲をお願いする。カナンさんは正面から仕掛けて注意を引いてもらいたい」
「わかったわ。真正面から暴れればいいのね」
「って待てよ、奇襲だなんて男のする事じゃねえぜ!?」
奇襲を任されたジムは、自身の役割に反発した。
勇者に憧れる彼にとって、奇襲は卑怯な行いだと思わざるを得ないのだ。
「戦いっていうのは、常に相手の裏をかく事よ。正面から力比べするだけじゃ戦いじゃなくて競技になるわ。持てる力と策を講じて挑む事こそ、戦いにおいて最大の礼儀よ」
「お、おぉ? 難しくてよくわかんねーけど、卑怯じゃねえっていうのは分かったぜ!」
「あっさり信じるのね……。まあね、戦いの醍醐味は騙し合いよ。狙いが決まった時なんてとっても楽しいんだから」
本当に理解しているかはさておき、ジムの中でカナンは戦闘経験においては遥か格上と認識している。
仲間内でカナンが冒険者をやっている事や、様々な敵と戦ってきたという話を共有していたからである。
「あー、わたしは……なんでもいいや」
その一方で、卑怯か否か心底どうでもいいと思うセミヨンなのだった。
「一緒に頑張ろうな! セミヨン!!」
「あ、え? そうですね……?」
そして熱くなっているジムから少しだけ離れようと、半歩下がったその時。
カナンでさえ察知できない程に気配を薄め、木陰に潜んでいたそれが動き出す。
「つぅかまえたぁ♪」
「え、へっ!?」
背後から羽交い締めにされたセミヨン。その喉元に白い刃が触れた。
「ひっ、な、ナイフ!?」
「セミヨンっ!」
「おっと、動くなよ? 動いたらこの子の喉にブスリとやっちゃうからねぇ?」
セミヨンを人質に取る茶髪の少女……アヤラは、ある意味最適な手段を選んだ。
正面戦闘はいくら天才と呼ばれるアヤラでも不利。ましてや数では劣る。その差を埋めるために何をするか考え、そして出した答え。
それは、分断だった。
「や、やめっ……離して」
「離さな~い! ほらっ、あたしについてくるんだよ!」
アヤラはセミヨンを強引に引っ張り、森の奥へと連れ去ってゆく。
魔法は強力だが、それ故至近距離から放てば自らも無事では済まない。例外はあるが、セミヨンの能力はその例外に当てはまらない。
「くそ、卑怯だぞ待ちやがれ!!」
「待てジムっ!!」
ジムは熱い男だ。ローゼスの言葉を聞き入れず、彼はアヤラを追って森の中へ飛び込んだ。
「クソ、間違いなく罠だ……」
アヤラの目的を察したローゼスは、自分も応援に向かうか一瞬逡巡する。
しかし
「本命はこっちみたいね」
森の中から、更に三人の少年が現れた。
どれも剣や戦鎚といった近接武器や防具を装備している。
「やられた……!」
アヤラは囮だったのだ。
「騙し討ちは気が進まないが、悪く思うなよ!」
魔法学科の弱点。それは、水晶の側では存分に魔法を使えない事だ。
下手に威力の高い魔法を使えば自らの水晶をも壊しかねない。更に近接戦が不得手なため、有利な物理戦闘学科との相性差を覆すに至るのであった。
「これは賭けだ! お前たち魔法学科を倒したら仙術学科だ!」
物理戦闘学科は水晶を残し総出で攻撃を仕掛けてきた。
しかし水晶は、洞窟内へ移動させ地中の奥に隠している。
少なくとも魔法学科との決着までは見つかる事は無いだろう。
思う存分、物理戦闘学科は実力を振るえる。
だがしかし、〝怪物〟がそれを許さない。
「雁首を揃えてくれて助かるわ」
それは一瞬の出来事だった。
カナンが妖しく微笑んだ次の瞬間、彼らの姿が消えてしまったのだから。
ローゼスは目を疑った。
近接戦闘もできると事前に聞いていたし、実際に模擬戦でも見せてもらった。
しかし今のは、近接どうこうの次元ではない。
「え……な、何が……?」
何が起こったのかすら認識できないまま、物理戦闘学科の面々が脱落したのだから。
彼らの敗因。それはカナンの絶対切断の間合いに入った事であった。
しかし斬られたという苦痛さえ認識する前に離脱させられてしまったのだから、突然の事に困惑したのは当然である。
「な、何をしたんだ……?」
「さあ? 何だと思う?」
カナンの得体の知れないナニかの片鱗を味わい、背中が冷たくなる感覚を覚えるローゼス。
レントは常に眠っているので、知っているのはローゼス一人だけである。
「わからない。……ただ、カナンさんが味方で良かったという事だけだよ」
*
「待ちやがれっ! そしてセミヨンを離しやがれ!!」
「あっはは、そう言われて素直に従うと思う? 戦いは相手の弱いところを突く。基本中の基本だよ?」
水晶から遠く離れた森の奥深く。
セミヨンを人質に、アヤラはジムと相対していた。
「ここからが戦いの、醍醐味さっ!!」
「くっ!?」
アヤラは片手から小さなナイフを数本取り出すと、ジムへ素早く投げる。
鋭い刃は避けようとしたジムの頬をかすり、致命傷ではないものの確かな傷をつけた。
「へえ、まあまあ動けんじゃん」
「これでも勇者に憧れてるもんでな!!」
アヤラは素早い体術で翻弄する、速の絶技の天才である。
ナイフ捌きは並みの暗殺者よりも秀でており、投げナイフは百発百中。
ジムはそれを辛うじて避けたのだ。ジムもまた、天才と呼ばれる領域に入っている。
「じ、ジムくん……わたしの事はいいから、この子ごと……」
「セミヨン……お前の勇気、すげえぜ。でもよ、仲間に攻撃するのは英雄のする事じゃねえからよ……!」
ジムは悩んだ。その単純な頭脳で、どうすればセミヨンを救ってアヤラを倒せるのか。
考えど考えど答えは出ない。
しかしそこで奇跡、あるいは最悪の出来事が起こる。
「……ん? なぁ、お前の体透けてきてねえか?」
「はぁ? 何言って……え?」
アヤラの体が、薄く薄く透けてきていた。
何が起こったのか。その答えはすぐに判明する。
《お知らせします。物理戦闘学科の水晶が破壊された為、残る1名の生徒は全員脱落となります》
「え……嘘? そんなバカな、水晶をあんなに奥に隠したのに!?」
絶望よりも驚きを隠せないアヤラ。その体はどんどんと透けてゆき、やがて全て消えてしまったのであった。
*
捨て身だった。
その水晶を守るものはいない。
しかし、守る者が帰ってくるまでは見つからないように隠したはずだった。
しかし。
小高い岩山の上に、太陽を彷彿とさせる超巨大な火球が浮かび上がった。
それはあるだけで付近の木々を発火させるほどの熱を有していた。
そして太陽が水晶の隠された岩山へと落とされると、一帯の山々は丸ごと大爆炎に消し飛ばされて跡形もなく消滅したのであった。
先日ミロ展に行きましてね。なかなか刺激を受けて面白かったです。
そしたら本日(3月29日)風邪を引きました。しばらく更新無理かもしれません。




