第136話 またしても
ポケモンアルセウスに夢中になってました
「パラちゃんまで……」
俯いたカナンの口から出た言葉は、それだけだった。
目を覚まさないパラヒメちゃんを前に、オレも何と言えばいいのかわからない。
「あたしのせい……あたしが先走ったから、こんな事に……」
パラヒメちゃんの寝ているベッドの枕元では、全身に包帯を巻いたリースリングちゃんがうずくまって泣いていた。
「おーちゃん。私の今の気持ち、わかる?」
「当然だ」
――殺す
徹底的に苦しみ抜かせてから、叩き潰してやる。
どす黒い感情が胸の中で根を張って侵食してくるようだった。
取るに足らない雑魚から、駆除すべき害虫へ。
薄明の切り裂き魔に対しての認識が、変わっていた。
リースリングちゃんとパラヒメちゃんは昨日の帰りに『薄明の切り裂き魔』と遭遇、そして戦闘になったそうだ。
そこでリースリングちゃんは全身打撲といくらかの骨折を、パラヒメちゃんは身体中を切り裂かれ意識不明に。
パラヒメちゃんの傷の一部は内臓にまで達していたらしい。
「リースちゃんは立派だと思うわよ」
「ぐすん、でも、あたしのせいでパラヒメが……」
「そう。私はリースちゃんがやろうとした事が悪い事だなんて思わないわ」
小さな体から大粒の涙を溢すリースリングちゃんへ、カナンは精一杯の慰めの言葉を送る。
――どこか重なるのだろう。かつてカナンを助けようとして、殺されてしまったあの子の姿と。
切り裂き魔の正体はまだわからない。
しかし、必ず突き止めて嫐り殺しにしてやる。
「あ、あのっ! 妖精の子の友達、ですか!?」
「そうよ。どうしたの?」
脚にギプスをつけた女の子が、病室から出たオレたちに話しかけてきた。桃色の髪をしている。
「ワタシ、妖精の子に助けてもらったんだよ。お礼を言いたいんだよ……でも、ワタシを助けたばかりに羊の子が……」
「優しいのね。でも大丈夫、悪いのは切り裂き魔のクソ野郎だから。
だからお礼を言った方がいいわよ。それが今は、リースちゃんの救いになると思うわ」
リースリングちゃんが助けたという、錬金術学科の女の子。自分のせいじゃないのに、自分に責任を感じているようだ。
こんな優しい子を手に掛けようとしたなんて、切り裂き魔めなんて事を……
「ところで貴女の名前は? 私はカナンよ」
「ワタシはフィアーノ……だよ」
「フィアーノ?」
フィアーノという名前、どこかで聞き覚えがあるような……。どこで聞いたんだっけ。
「フィアーノちゃんってもしかして、クラッドちゃんの娘さん?」
「えっ? パパを知ってるの!?」
「知ってるわよ。冒険者として一緒の依頼を受けたりしたわ。お世話になったわねぇ」
ああそうだ、イケオジ冒険者……クラッドさんの娘か。
まさかこんなところで会うなんてな。助かって良かった。
「こんな状況じゃなかったらゆっくりお話をしたかった所ね。元気になったら仲良くしましょ」
残念ながら、病院に長居する訳にはいかない。
明日も明後日も、元気があるから学校に行かなくちゃいけないのだ。
気分は最悪。せっかくできた友達が、一人は死にかけてもう一人はずっと泣いている。
「そんな辛気くさい顔してどないした」
「ジョニーちゃん?」
二人が入院している病院から出ると、今度はジョニーちゃんから声をかけられた。もう日が沈んだからか、日除けの黒コートは羽織っていない。
「……いや、今の言い方は悪かったな。先日切り裂き魔にやられた子っちゅうのは、カナンちゃんの友達だったか」
「ああそうよ。犯人を今すぐぶちのめしてやりたい気分だわ……!」
オレもカナンも、腸が煮えくり返る気分だ。
二人とも命に別状が無いのが不幸中の幸いだが、それでも友達を傷つけられたのは胸糞が悪い。
「気持ちは同じやな。……さて本題や。かわいい後輩を傷つけたクソ野郎を捕まえるのに、カナンちゃんに協力してもらいたいんや」
「私に? どうしてよ」
「カナンちゃんが強いからや。襲われても返り討ちにできるやろ?」
ヤツの強さにもよるが、話に聞く限りではただの雑魚っぽいな。
いや、警戒するに越したことはないが。
「囮、とまでは言わん。弱い生徒のふりをして、ヤツを誘きだして捕獲してほしい」
「それ、ジョニーちゃんがやるんじゃだめなのか?」
「切り裂き魔は戦闘能力の高い生徒を決して襲わん。だから顔を広く知られているワイでは逃げられてしまう」
卑怯なヤツだ。前にカナンが言ってた通り、自分より弱い存在をいたぶって殺すしかできないらしい。
「捕獲は無理ね。勢い余って殺しちゃうわ」
「殺すのはダメや、生け捕りにするんや」
「だったら条件は飲まないわよ。どっちにしても殺すけど」
カナンは確実に殺すだろう。オレも正直、ヤツを生かすつもりはない。
ジョニーちゃんは犯人から情報を聞き出すつもりのようだ。
「しゃーない、殺すならその前に動機やらを聞けるだけ聞いてからにしてほしい」
「それならお安いご用よ。死体もなるべく綺麗なままで届けてあげるわ」
「助かる……と言ってええんやろか。まあええ、切り裂き魔の身元だとかを絞り込め次第伝えるで。その後は……好きにするとええ」
ジョニーちゃんも内心ではかなり怒っているようだ。
自分の後輩を傷つけられ、他の学科の生徒も十人以上殺されて。
薄明の切り裂き魔は、何を考えてこんなことをしているのか。
わからない。わかりたくもない。
ただ、次の犠牲者を出さないためにもヤツを見つけ出してやる。
*
「んっ……んっ、んっ」
いつも通り、オレの首から新鮮な血を飲んでいるカナン。
この寮に暮らしてから初めての吸血だ。
なぜかここ2日くらい衝動が来なかったからな。いきなり襲われてびっくりしたぜ。
「ぷはぁっ……」
オレの皮膚から牙を抜いて、口の周りについた血を舌で舐めとるカナン。
……しかし、あまり気分はよくなさそうだ。せっかくできた友達が傷つけられて、いつもなら夢中になるはずの吸血まで上の空だ。
「よしよし、ぎゅー……」
大人しい様子のカナンの顔を、オレは胸に埋めて抱きしめる。
オレの存在は、カナンにとって癒しであり心の支えであるらしい。
カナンが落ち込んでいるのなら、オレはなんでもする。
「私を慰めてくれるのかしら。ありがとおーちゃん」
ゆっくりと、カナンの手がオレの背中に回るとオレはそっとあお向けに倒された。
「……いいよ主様」
「うふふ、それじゃ遠慮なく」
そしてオレは、今夜もカナンの欲求を一身に引き受けたのであった。
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