第108話 炎竜王戦その1
ニンダイが楽しみすぎてあっという間に仕上げちゃいました。
開けた場所に出た。
真っ赤な岩盤に挟まれたその谷は、見上げれば天井が見えない程で、その高さは摩天楼さえ飲み込んでしまいそうであった。
それはさながら、地底の峡谷だ。
「ここよ。ここを抜けた先に迷宮の核があるわ。けれど――」
「けど?」
「多分ここが、飛竜どもの巣よ」
なんと。
目をこらせば、壁にはちらほら穴が開いていてその中に赤い何かの一部が覗いている。眠っているようだ。
「気付かれないように行かなきゃね」
しかし、視界に入ってるだけで一体何百匹いるんだ……?
幸い、オレの【防音】があるので起こしてしまう事は無さそうだが。
音は気にせず、急いで駆け抜ける。
しかし、奥行きがかなりある。カナンいわく数百メートルはありそうだそうだ。裏道も無いし、ここを抜ける他無い。
バレないよう祈りながら、オレたちは峡谷を駆けた。
だが――
「あれ、なんか明るく――」
「上よ!」
それは、まるで太陽を思わせる程に大きな火球だった。
最上位飛竜のものよりも遥かに巨大で――
「〝高位氷結魔弾〟! 【多重結界】!!」
突然の攻撃に対してオレは相殺を試みる。
カナンの絶対切断では爆発までは防げないので、大規模攻撃への対処はオレがやるしかない。
しかし……オレの高位魔弾と互角だと?!
これはまずい、とんでもない規模の爆発が起こりそうだ。
「くっ……みんな伏せろ!!」
その瞬間、上空で真っ白な閃光が広がって視界を包み隠した。
「み……みんな無事か……?」
「私は平気よ」
「あたしも何とか……」
「わたしもよぅ」
「大丈夫だ」
それはほんの一瞬の出来事だった。
オレの氷結魔弾とぶつかり合った火球が、想像を絶する大爆発を起こしたのは。
多重結界に外部の音を遮断するように防音結界も貼っていたおかげで、爆音による耳へのダメージは何とか無かった。
だが、多重結界を持ってしても衝撃までは全て防ぎきれずに吹き飛ばされてしまったのである。
「これだけで済んだのは、奇跡かもしれないわよぅ?」
結界の外を見れば、爆発があったであろう高度を挟む谷の壁が大きく円形に抉れていた。いや、抉れというよりは消し飛んだという他ないだろう。あれは壁面にできたクレーターだ。
「グギャオオオオ!!!」
そして、今ので完全にワイバーンどもが目覚めてしまっていた。
「ここまで来たのに、失敗ねぇ……」
「さすがにこの数を相手にはできないよ……!」
まずい、この場にいる数百匹ものワイバーンが一斉に……!
恐れていた事態が起こってしまった。
「全員逃げるぞ!! 狭い通路に逃げ込めばこちらに利がある!!」
だが……
「大丈夫、心配ないわ」
《――能力:【威圧】の獲得を 観測しました。対象:カナン》
新しい能力か。なるほど、これなら。
カナンは新たな能力を、無数のワイバーンに向けて放つ。
「邪魔よ」
短く一言だけ言い放ち、カナンはワイバーンどもを睨み付ける。
「ギッ……?!」
すると、こちらへと襲いかかろうとしていたワイバーンどもの動きが止まり、失神したのかぼとぼとと地上へと落ちていった。
「これは……」
空気がびりびりと震えている。寒くもないのになぜだかぶわっと鳥肌が立って、胸の奥がぎゅっとされるような感覚があった。
「【威圧】……。それもなんて強力な……。やっぱりカナンちゃんって……」
【威圧】。
文字通り、相手の精神に圧力をかけて萎縮させる能力である。実力差があれば、そのまま気絶させてしまう事も可能だとか。
「一瞬で全部行動不能にするって……」
「いや、まだよ。姿を見せなさい、ドレナスちゃん?」
まだ、今の火球を放った存在がいる。
それが、谷の遥か上空からこちらへと降りてくる。
「――いかにも、ワタシがドレナスだ。どうやらそこらの人類種にしてはやるようだな」
上空から舞い降りてきたのは、赤いチャイナドレスを纏った赤髪の女の人……。一見そう見えるが、肌に所々赤い鱗があり、真っ赤な翼と長い尾を持っていた。間違いない、魔人だ。それも、かなり高位の……
「……まあね、私強いもの」
と、そいつに返すカナンだが、その表情は緊張で引き締まっている。
『おーちゃん。アイツ、かなりできるわ』
『ああ、あれは間違いない……』
《個体名:ドレナス
種族:赤鱗大竜ノ王(人化形態)
強度階域:第七域》
やっぱりか、準特級モンスター。
それも、以前戦った〝獣王〟よりも格段に強い。
「魔人……。しかしこの圧は……」
その刹那。
〝ドレナス〟の姿が一瞬ぶれ、次の瞬間にはカナンと爪を交えていた。
風圧で、毛先の赤いサイドテールがぶわっと巻き上がる。
あと当然のように多重結界に入ってきた。
「ほう、ワタシの動きを見切るとは。殺すには惜しいな貴様。ワタシの配下になれ」
「イヤよ。私、誰かの下につくのは性に合わないの」
「そうか、つまりヤツの……水竜王の手先ではないか。だが、それでもワタシの邪魔をするというならば、ここで骸を晒すがいい!」
水竜王?
他の準特級のヤツの事か?
いやでも、何か引っ掛かるような……
しかしあのドレナスとやらいう魔人、かなりヤバいぞ。近接バケモノのカナンと渡り合ってやがる。
お互いに【竜爪】で殴り蹴り合いいなし合い……。
リナエリやクラッドさんはおろか、オレでも割り込む余地が無さそうだった。
「おーちゃん! そこでみんなを守ってて! それと、余裕があったらみんなを先に進ませて!」
「ああ、分かった! 死ぬなよ主様!!」
先とは、すなわちこの迷宮を形成する核の場所だ。
間違いなくこいつがこの迷宮で最も強い存在だろうから、それをカナンが止めている隙に壊してしまおうという魂胆だ。
「……よかろう、仲間を殺すのは貴様を殺してからにしておいてやる」
速すぎてとてつもない攻防が繰り広げられているように見えるが、互いにまだまだ本気じゃなさそうだ。
「……てか水竜王って誰よ?」
「水竜王は……ヤツは、ワタシから全てを奪っていった男だ。〝竜炎爪〟!!」
ドレナスの右手で燃え盛る【竜爪】が、カナンを叩きつける。
さっと回避したが、叩きつけられた所で凄まじい爆発が巻き起こった。
「少しは本気になってくれたかしら?」
ドゴッ!
ドガァッ!!
ドシャンッ!!!
何度も振り下ろされる炎の爪を、全て回避してゆくカナン。金色の髪が流れ星のように尾を引いている。
爆発の余波は凄まじく、とてもじゃないが隙を見てみんなと先に進むなんて事はできなさそうだった。
「ワタシには、姉さんしかいなかった。 姉さんが全てだった。それをあの男は……ワタシから姉さんを奪い去っていった!!!」
「見えた! 隙ありよ!」
そして、避けた隙に竜爪での一撃を顔面に叩き込む事に成功した。
「ぐう……あぁ、思い出すだけでも不快、不愉快、苛立たしい!〝熱線吐息〟!!」
「げっ」
ばっと上空へ飛び上がったかと思うと、その口から白熱する炎のビームをカナンめがけて放ってきた。
カナンはこれも避けようとするが、ドレナスはビームを吐きながら飛んで追跡してくる。
「ぐっ……さすがに私1人じゃキツいわね……」
「今度は水竜王! 貴様が得たモノ、産み出したモノ、全てを破壊してくれる!」
熱線のビームを辛うじて避け続けていたカナンだったが、ドレナスが真正面から回り込んできた事でついに食らってしまう。
が、竜鎧の効果や肉体の強度で無理矢理に耐えていた。
「さっきからっ……誰に何を言ってるのよ!!」
「ワタシは! ヤツに関わる全てのモノが憎い!!! ヤツを唆した明星の勇者も、ヤツを魔王に擁立した女神も!」
さっきから会話が一方通行だな……。
念話でカナンに助けがいるかと聞くと、必要になったら部分召喚で呼ぶから平気だとのこと。
しかし、こいつがあれこれ言っている事を聞くに、過去に何かあったのだろうか。
水竜。
魔王。
ふと、オレはツインテールを束ねる髪留めが気になった。
「カナンちゃんが圧されてる……。あたしたちに何かできる事は……」
「大丈夫だ、オレを呼び出していないって事はまだ余裕があるって事だから」
「そ、そうなの……? あれでまだ余裕があるって……」
そもそも素手だしな。剣を使わず素手で殴りあっているのは、戦いを楽しんでいるからだろう。
「ふんっ!! くらいなさい!!!」
お、そうこうしている内にカナンが熱線を無理矢理弾いて抜け出したな。
そのまま空中を駆けてドレナスの背後に回り込み、後頭部へ回し蹴りを食らわせる。
「ぬがっ……いい、やはりいいぞオマエ! 名は何という?」
「ふふ、私はカナンよ」
「カナンか。覚えておくとしよう。
ワタシは、イセナ大結界に封じられていた七王が一柱〝炎竜女王〟ドレナス。今より、遊びの時間は終わりだ。もしもワタシの配下に加わると言うなら――」
「何度も言わせないでよ。私は誰にも仕えない。私に仕える子はいるけどね」
ちらりとこちらに視線を向けるカナン。
そろそろオレを出すというサインだな。
「そうか。残念だが仕方がない、我が復讐を妨げる敵は――」
「っ!? 速――」
「――〝竜掌発剄〟!!」
刹那、二人の姿が消えた。
かと思った次の瞬間、ぐしゃりと鈍い音が後ろから聞こえ――
「主様!」
「「「カナンちゃん!!?」」」
そして背後の壁には、叩きつけられめり込んだカナンの姿があった。
「人化形態とはいえ、ワタシの全力の一撃を受けて原型を留めるとは。カナン、実に惜しい逸材だった……」
今起こった事をまとめると、カナンすらも反応が遅れる速度で懐に潜り込んだドレナスが、その胸に掌底を当てて吹っ飛ばした……ようだ。
「か、カナンちゃんがやられちゃった……」
「次は人間ども、貴様らだ。カナンとは違って軟弱な貴様らに興味は微塵も無い。消え失せよ、〝竜王炎爪〟!!」
ドレナスの華奢な右腕がぶくぶくと膨れ上がり、そこだけが燃え盛る巨大な竜の腕となってオレたちに襲いかかる……!!
「〝凍闇徹甲砲〟!!」
「っ!!」
カナンさえ倒せば勝利だなんて、大間違い。
ドレナスの大きな腕を、黒い氷の弾丸が撃ち抜いた。
「ぐ……どうやら、逸材はもう一人いたようだ」
巨大な竜のものから元の大きさに戻った腕を抑え、オレへと視線を向けるドレナス。
「ワタシは少々侮っていたようだ。カナンと違って身体能力は低そうだが、相当な魔力を持っているな? この結界もかなり強固なようだ。ワタシには通じないが。
どうだ、貴様はワタシの配下になるつもりは無いか?」
またこの誘いかよ。
ドレナスとやらが何をしたいのかはよくわからないが、オレはカナン以外の下につくつもりは無い。
「オレは主様だけのもの。他の何者にも、従う気は無い!」
「そうか、残念だ。ならば主と同じ所に――」
カナンが死んだ?
そんな事はあり得ない。あの程度で、カナンが絶命するはずがない。
「〝部分召喚〟」
カナンは生きている。その生命力はたとえ首を落とされようとも、すぐには死なないだろう。
更には【超再生】もある。多少内臓を破裂させられたとて、十数秒もあれば――
「こっちよ!!!」
「なっ!? ぐはっ!!?!」
めきりと、カナンの拳が顔面に直撃――その直後に、召喚されたオレの拳も炸裂し、ドレナスの体を大きく吹っ飛ばした。
「ふう、あったまってきたわ。第二ラウンドといこうかしら?」
久々の胸の高鳴りに心踊らせて、背に翼を生やしたカナンは刀の切先を膝をついたドレナスへ向ける。
「今だよリナリア! クラッドさん! 2人がヤツを抑えている内に!!」
よし、これで3人とも先に進ませられた。
頼んだぞみんな。この迷宮の核を壊したら、さっさと帰りたいからな。
帰ったら、主様とデートの続きをするんだ。
はやくデートさせたい
『面白かった』
『続きが気になる』
『投稿更に早くしろ』
『カナンちゃんつよい』
等と思ったらぜひとも星評価をよろしくお願いします。




