第106話 だいたんおーちゃん
1~4話を大幅改稿しました。けっこうガッツリ変わってるので、興味のある方は読んでみてください。ちなみにストーリーには一切影響ありません。
「おはよ……」
「おはようおーちゃん!」
透けた天井から見える空は快晴で、なんと清々しい1日の始まりだろうか。
……隣で目覚めるカナンの表情も晴れやかで、心なしか肌が3割増しでツヤツヤしている。
昨晩はなんかもう色々凄かった。あんなトコロやそんなトコロをまさかそんな……。
気持ちよかったけど……よかったけど!
「あうぅぅぅっ……!」
「あららどうしたのおーちゃん?」
昨日の事を思い出したら思わず顔を隠したくなっちゃう……!!
あんな事をされたけれど、まだ貞操だけは無事である。
カナンに見逃してもらったのか、シてもらえなかったのか……。あれだけ本を読んでるカナンが知らないはずもないし、たぶん意図的なんだろうけど……。
心の中で、安堵と残念が半々くらいで争っている。
「ふふ……昨日のおーちゃん、可愛かったわよ?」
「はふぅっ……」
もうやめてぇ……。朝から恥ずかしくっておかしくなっちゃいそう……。顔とか耳が熱くなってきたよう……
そんなオレを見て、カナンは子犬や子猫でも愛でるような目を向けてくる。
オレ、完全にカナンの愛玩動物になっちゃってるような気が……。
愛玩……もっと主様に可愛がられたい……じゃなくて、この先オレはどうなっちゃうんだろうか……。
*
今日も1日いい天気になりそうだ。
カナンに一通りむぎゅむぎゅされてからテントを出ると、焚き火の前で丸太に腰かけて剣の手入れをするクラッドさんと目が合った。先に起きてたみたいだ。
「おぉ、おはよう。良い天気だな」
「おはようクラッドちゃん」
焚き火の前で剣の手入れをするおじさん……。なんか様になるな。
「あらあらぁ、みんな早いわねぇ」
「あら、おはよリナちゃん」
オレたちより少し遅れて、リナエリの二人も起きてきた。
……が、なんかエリナさんの様子がおかしい。
顔が耳まで真っ赤で、ぼーっとしている。それに少し髪も乱れてるし……
「……」
「エーリーナっ! 起きなさい、もう朝よぅ!」
「ひゃんっ!?」
可愛らしい声をあげて、まるで乙女のようなリアクションをとるボーイッシュ女子。
いやね、昨晩はおたのしみだったんだろうなっていう事は察してるよ。エリナさんの首筋に紅いマークがついてるし。
やはりリナリアさんが攻めか……。じゃなくて、そこにツッこむ程オレは野暮じゃあない。百合はそっと見守るものなのだ。
それはそうとして。
「――二人のおかげで、攻めるべき場所は解った」
朝食は昨日作ったワイバーン肉入りカレーだ。パンに浸して食べてもご飯を入れても美味しい。
オレたちがごはんを食べてる隣では、有翼兎が数匹生野菜を夢中ではむはむ頬張っていた。
なんでも最上位飛竜と戦っていたエリナさんらに手助けをしてくれたのだそうだ。野菜はそのお礼みたいなものだ。
それはさておき、そんな美味しいごはんを食べながらオレたちは作戦会議を行っていた。
「すまないが応援は見込めなかった。迷宮に潜るのは我々5人だけだ――」
作戦会議はクラッドさんの報告から始まった。
クラッドさんは昨日、通信魔道具を用いて冒険者ギルドに先日の襲撃についての話を知らせたらしい。
ギルドからの返答によると、これ以上の応援は見込めないそうだ。
まず、近場にリナエリやクラッドさん以上の実力者はいない。Aランクならちらほらいるようだが、とりわけBランクの魔物に苦戦する程度の者しかないらしい。Bランクに毛が生えた程度で、とても戦力としては期待できなさそうだ。
「すまない……」
「いいのよぅ。けど、現状このメンバーでやるしかない訳ねぇ……」
他にも、近場にいるSランクはカナンとオイカワの二人だけらしい。遠くから呼ぶにしても、数日はかかるだろう。
「もぐもぐ……おかわり!」
「朝からずいぶん食べるな?」
「うん、おーちゃんの作ったお料理ならいくらでも入るもん!」
そんな嬉しそうに言われると照れるじゃないか……。
カナンの為にお鍋からカレーのルーをよそい、硬めのパンを取り出して渡す。
するとそれはそれは幸せそうに頬張ってくれる。
やっぱオレって良妻に……。いやいやそれはないそれはない。
話が逸れてしまったが、ギルドからの応援は期待できないとの事だ。
「……後はこの国の軍が動くかどうかだが、それもすぐには難しいそうだ」
軍……。この大国の軍事力は世界でも屈指のものだろう。だが、それでも今回の件にはまだ軍を出動させるだけの理由が無い。
ギルドから掛け合ってはくれたそうだが、現時点で緊急性は低いと判断されてしまったそうだ。
「話が長くなってすまない……」
「ぜんぜんいいのよぅ」
「まあ迷宮はあたしら冒険者の領分だしね」
要約すると、このパーティーメンバーで迷宮を攻略する他ない、という事だ。
「私ですら勝てないような魔物がいたら、それこそこの国はおしまいよ」
「はは、ずいぶんな自信だね」
さすがにカナンの言葉を真に受けてはいないようだが、事実オレやカナンより強い魔物なぞ他には特級くらいだろう。それこそ迷宮の奥で特級なんてものに遭遇したらおしまいだ。一か八かで黒死姫に変身するしか手はあるまい。
「しかし、オイカワの野郎がせめてもう少しまともなヤツだったら……」
「そうね、もう少しマシだったらよかったのに。次会ったらほんとに殺してしまおうかしら?」
「また怖い事言うねカナンちゃん……」
これも冗談と思われているみたいだが、その目は本気だ。
一応はオレも止めておくけれど、やると言ったらやるからなうちの主様は。
その件はひとまず置いといて。
「次は作戦、だな」
「いつ行くのかって事も決めないとね」
いくらカナンが強いとはいえ、このまま何も無策に突っ込む程傲ってはいない。
「ワイバーンは基本的に昼行性と言われている。襲撃してくる時間帯がいつも日の出ている事が証拠だ」
「夜は寝てるって事か……」
「そう言うことだ」
クラッドさんは頼りになるな。
こういう時、知識のある人がいるととても助かる。
「ひとまず昼は無いね。多くの個体が外に出ているだろうけど、そのぶん出入りも多いいだろうし不必要な戦闘を増やしてしまう」
「私も夜がいいわ」
「わたしもよぅ。みんな眠っている間に迷宮の核を壊してしまいましょう」
こうして方針は纏まった。
今日の夕方、ここを発って迷宮に侵入する。
内部の様子を探り核の破壊を試みるのだ。
出発の際には元から張っていた多重結界の中に、更に狭めの結界を何枚か張っておく。有翼兎たちの為だ。
もしまた最上位飛竜の襲撃が来ても、ヤツの体より小さい多重結界ならば侵入もされず安全だろう。
ただし効果は数日で消えるので、オレたちはそれまでに決着をつけなければならない。
また、テントや生活に使っていた物品はオレの次元収納に入れて全て持っていく。
迷宮で使うかもしれないのと、残しておいたら他の下位の魔物に壊されてしまうかもしれないのだ。何より無人の野営地にもまだ襲撃が来るかもしれないし。念のためだ。
それからは、夕方に備えての準備で忙しかった。迷宮内で片手に食べられるサンドイッチのような簡単な食事を作ったり、武器の手入れとかも。
何より、この中でぶっちぎりで魔力の多いオレには全員にある事をしなければならなかった。
「オーエンちゃん、あたしにもおねがい」
「おうよ」
「エリナが終わったらわたしにもおねがいねぇ」
オレは、目の前に差し出されたエリナさんの手の甲に魔方陣を画いていた。
いわずもがな、カナンの舌先にも書いていた〝魔力出力強化術式〟である。
もしもみんなの魔力出力がオレと同じだったなら、とんでもない戦力だろう。例えばエリナさんの炸裂魔法。ただでさえ強力なこれが更に威力を増したとしたら、最上位飛竜をも一撃で屠る破壊力になるだろう。
一回だけとはいえそんなものを使えるならば、とても心強い。
既にクラッドさんの手の甲にも書き、エリナさんにも書いて、後はリナリアさんだけだ。
リナリアさんも手の甲に……と思ったら、なんと首元を差し出された。
歌唱魔法を強化するにはそりゃ確かに声帯の真上に書くべきなんだろうな。
「終わったよ」
「ありがとねぇ、助かるわぁ」
驚きつつも特に思う事なく書き終わると、なぜかカナンが不機嫌そうな目付きで見てきている事に気がついた。
「どうしたの主様?」
「別に……」
なんで目を逸らすの。何で目を合わせてくれないの。
あ、もしかして嫉妬か?
「心配しなくても、オレの心や体は全部主様だけのものだから」
「……」
と、カナンの機嫌を直してもらう為に言ったのだが、何だこの空気。
「あらあらぁ……」
「……なかなか大胆な事言うんだねオーエンちゃん」
「幼い見た目でその言葉は危険であるぞ、オーエンちゃん」
うぇ、えっ?
周りの反応を見るに、オレは何かとても恥ずかしい事を言ってしまったらしい。
「ふふふ……そう言ってくれて嬉しいわ。大好きよおーちゃん♡」
「ま、待って! みんなが見てるここでそれはっ……ひゃあんっ!?」
むぎゅう……。ちくせう、憐れなオレは皆が見ている前でカナンに抱きしめられ、そして耳をぺろっと一舐めされてしまったのであった。
穴があったら入りたぁい……
ランキング入りたいンゴねぇ……




