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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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92話 交渉は相手の望む物で押し通せ(とある妹談)

「星の意思、お前と交渉したい事がある」


 守護者であるフルメタルドラゴンと、ミスティックゴーレムを倒した。

 これでやっと星の意思と落ち着いて対話する事ができる。

 俺は完全擬態を解除して、元の姿に戻った。


『小さき者よ、この星は私達の種族のためにある。それだけだ』


 奴は姿を見せず、その中性的な声を大空洞内に響かせる。

 もしかして星の意思というからには、このスヴァルトアールヴヘイムならどこにでも存在するようなモノなのだろうか。


「それはつまり、鍛冶技術向上のための星、という事だな?」

『そう受け取ってもらって構わない』


 伝説の鉱石をドヴェルグの命によって生みだし、その鉱石を扱う鍛冶士を育成するための異世界。

 どうしてそこまで武具を作る事に拘るのかは分からないが、それを目的にしているのだろう。


「そこで提案だ。もっと鍛冶技術を向上させてやるよ」


 半分は博打である。

 相手の情報が少なすぎるため、狙った通りの方向へ動くかは分からない。

 だが、それでも試す価値はある。


 ここでケンとカノのような子供達を見過ごしたとあっては、風璃から何て言われるか分からないしな。


「そして俺が望むのは、神や巨人との──混血児達の待遇だ」


 混血児であるカノに触れた時、エーテルを感じる事が出来た。

 そして注意深く観察すると、それは神とドヴェルグの混じり合った血。

 本人が上手くコントロール出来ていないため、今はただの身体の弱い女の子。


「ここの鍛冶技術では、魔力を使った鍛冶しか行われない。そのため、例えエーテルを使える才能があっても、魔力での適正が無い者は役立たずと烙印を押される」


 つまり混血によって魔力が合わない者──あの家の子供達。

 その親たちは、今回の俺達のように特例で転移してきて、子供が生まれた後にでも強制退去で引き離されたのだろう。


「俺が、エーテルを使った鍛冶技術を開発して、それを子供達に教えてやる。だから、子供達の自由な転移を許可してもらいたい」

『ほう……それは興味深い。だが、エーテルを使った鍛冶技術──それはまことか?』


 星の意思の気を引けた。

 やはり、こいつは鍛冶の事で攻めれば落とす事が出来そうだ。

 俺は左目に闇を広げながら、星を喰らわんとばかりの気迫で言い放った。


「俺がこの手で、究極の一振り──最強の『必中せし魂響の神槍(グングニル)』を造って証明してやろう」


* * * * * * * *


 最も優れた鍛冶士と証明出来れば、条件を飲むという事で交渉は上手くいった。

 この星の意思らしく、ドヴェルグに酒──もといドヴェルグに鍛冶、そんな優先的な理論を持つ単純な奴なのだろう。

 ただ、それを突き詰めて星一つを、その装置にまで昇華させたのは恐ろしい。


「あの……魔神様。どうしてそこまでしてくれるんですか? 違う場所──異世界の方なのに」

「どこの世界でも子供は子供だ。手の届く女の子は助けて、お前みたいなヤンチャなガキはだな……」


 真摯に見詰めてくるケンの純粋な瞳。

 それを真正面に受け止めると、予想以上に恥ずかしくなってしまう自分。


「その、ケンが……他の女の子を助けられるように、手を貸してやっているだけというか、ただそれだけでだな……」


 俺は基本的に女の子を助けるだけで……ああ、もう。

 きっとまだガルムの思考が残っているに違いない。

 頭の中がごちゃごちゃだ。


「ガルム! たぶんお前が悪い!」

「えっ、オレ!?」


 ミスリルやオリハルコンを物珍しそうに眺めていたガルム。

 急に俺から呼ばれ、ビクッと耳と尻尾を反応させていた。


「とにかく、カノちゃんや誰かを助けられるように強くなれ。それが助ける意味だ」

「……はい!」


 近くの誰かを助けられない痛み、それはよく知っている。


「もし、助けられずに後悔する事があっても、他の誰かを助けるために立ち上がれ」

「映司さん、それ自分に言っているみたいですよ」


 小学生サイズの人型に戻っているランドグリーズからツッコミが入る。

 しかも悪戯っぽい声で。


「ランドグリーズ、お前性格が変わってないか……」

「いいえ、聞いているこっちまで恥ずかしくさせた、映司さんが悪いんですよ」


 そして照れ笑い──表情はどこか嬉しそうだった。

 俺は溜息一つ。

 やっぱり、こういう所でバシッと決めるのは、もっと歳を取って自分の子供に話を出来るくらいになってからかな。


 今はまだまだ若造だ。

 だからこそ、がむしゃらに何かを出来るチャンスがあるのだろう。


「よし、それじゃあ鍛冶作業を開始す──」

「あ、尾頭映司。ちょっといいか?」


 やる気を出した所で水を差してくるガルム。

 だが、その瞳はキラキラしていて、興味の塊といった感じだ。

 子供であるケンより無邪気でウズウズ、ソワソワしているような仕草。


 どことなくスルー出来ず、聞き返してしまう。


「どうした?」

「グングニルが出来たら、今度は本気で戦ってくれよ。さっきのお前を見ていたらたぎってきちまった!」


 ……やっぱり、あの適当な感じで煙に巻いたのでは納得できなかったか。

 かといって、助けてくれた礼もあるし、悪い奴ではないから無下には出来ないよなぁ。

 うーん、何か良い手は……。


 そうだ。


「うん、いいぞ」

「ほ、本当か!?」


 俺は、胸中では意地悪くニタリと笑っていた。


「ただし、命を奪うのは禁止でな」

「分かった。お前は優しいから、殺し合いでは全力を出せないみたいだしな!」


 さぁ、戦う前から必勝の条件は揃ったぞ。

 グングニルが出来た後、ガルムとの戦闘は気に止めなくて平気だ。

 よーし、それじゃあ気を取り直して──。


「鍛冶王に、俺はなる!」

「……映司さん、その微妙な感じなの突っ込んだ方が良いですか? 放置が良いですか……?」


 ランドグリーズが困ったような表情をしていた。

 完全擬態して石ころになりたい。










【未来条件成立。神器対神器。観測予定──】

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