91話 番犬二匹(ガルムとガルム)
ミスティックゴーレム。
全身ゴツゴツとした鈍色のオリハルコンで出来た構造で、胴体の中心核は神器の素材となるエーテライトが光っている。
大きさはフルメタルドラゴンと同じくらいだが、意思の無い一つ目巨人のような姿は不気味だ。
──やばいな。
今、俺が握り潰されそうになっているのは問題無い。
ランドグリーズの鎧が恐ろしい強度を保ち、どんな攻撃でも平気な様子だ。
だが、強敵が増えたことによって、この場の維持とケンの保護を同時にしなければいけない負担がかけ算式に増えていく。
道中で手に入れた使い魔を使用するか?
いや、力の差がありすぎて即潰されていくだけだろう。
一見、ただの巨大な敵に見えるが、その存在は神にも等しい力を持っている。
こうなると他にもいくつか手はあるが、リスク自体が高まっていく。
1度、退却するか? いや、だが時間が勿体ない。
くそ、どうする。
リスクを取るか、時間を取るか。
俺を握る力も強まり、どう決断すべきか考えている、その時──。
「尾頭映司ィ! 困っているようだなぁ!」
大空洞の入り口から、獣のような四足歩行で飛び出してくる影。
「が、ガルムが2人!? 魔神様、分身も使えたの!?」
そのまま影──ガルムは地を蹴り、重力を無視したようなジャンプで俺を掴んでいる、ミスティックゴーレムの腕を殴り壊す。
手から解放され、同じ姿で着地し、視線を交差させる。
「へぇ。そのオレの姿、よくできてんじゃねーか。本当に初代オーディンとロキ以外も使えたんだな」
「ガルム、お前どうしてここに?」
コイツは確か、サンドイーターを食った後にフラッといなくなったはずだ。
俺の視線を受けて、ガルムは目を逸らした。
そして照れくさそうに頭を掻きながら──。
「べ、別に何でもねーよ。たまたま、その、お前達のニオイを嗅ぎつけて、フラッと立ち寄っただけだ! 決して、食事の礼とかじゃねーからな!」
こんな星の洞窟の奥までフラッと来られるか馬鹿……。
だが、これなら二対二だ。
被害を最小限に抑え、勝つ事も容易い。
「わかった、そういう事にしておいてやる」
「うっるせぇ! ご託は良いからやるぞ!」
フルメタルドラゴンと、ミスティックゴーレムを見据える2人。
同じ身体のはずなのに、顔の表情が違う。
それもまた面白い。
「じゃあ、そっちは任せたぞ」
「ああ」
それだけの意思疎通で十分だった。
ガルムは金色の玖夜捌雫を使用──複数の鉄砲玉となり、フルメタルドラゴンの装甲を破壊していく。
俺の方は、ミスティックゴーレムが相手だ。
中心核であるエーテライトを崩壊させては元も子もないので、丁寧な破砕作業が必要となる。
そのため、大雑把なのはガルムの方が適任なので、あいつはフルメタルドラゴンの相手なのだ。
「それじゃあ、星の意思とやら。お前の腐った異世界の仕組みと共に──身体を破壊してやるよ!」
いつもより熱くなってしまっているのは、完全擬態のせいなのか、ランドグリーズから聞いた黒妖精の国の仕組みのせいなのか。
わからないが、どちらでもいい。
今は目の前のミスティックゴーレムを破砕するだけだ。
『腐った仕組み? これは最良のシステムと私達は判断する』
地面から響く、聞き慣れない声。
だが、その態度からすると、たぶん奴──。
「はっ。ようやく、星の意思様のお出ましか」
声の主──星の意思の姿は見えない。
俺は、ミスティックゴーレムのオリハルコン体を拳で削りながら、ツバを吐きかけるように言葉を返した。
「こんな異世界のシステムでドヴェルグを犠牲にして、そんなにも武具を作りたいのか……!?」
『──小さき者よ。我が同胞の死、それによって生まれ出づる悩みを持たぬ伝説の鉱物達を作り、そのための打ち手を育て、生命の循環によって神器が生み出される。──それが最良』
この異世界は、生命まで利用した武器工場だ。
ドヴェルグ達を異世界に閉じ込め、死亡するときに放出される魂を星の中心に集め、ミスリルやオリハルコン、エーテライトへ変換する。
外部からの転移を嫌うのも、それが不純物となるのを恐れてだろう。
同時に、それを加工する鍛冶士達を、不自然なまでに優遇する事によって効率良く育成する。
神器のための異世界と言っても過言では無い。
そして、ここを異世界序列第五位に押し上げている存在。
神器を使用する者達。
たぶんだが、神々やユグドラシルの影響が強いのだろう。
「そこに住んでいるケン達の、人々の幸せを考えない異世界なんて──俺がぶち壊してやるよ……!」
拳にエーテルを込めて、全長30メートル近い巨人に飛びかかり、交差するように一閃となって殴る。
壁を蹴り、再び交差──それを超高速で繰り返しひたすら殴る。
砕け、踊り散るオリハルコン。
ミスティックゴーレムの腕は砂煙を上げながら崩れ落ち、両脚は破砕音と共に折れ、頭部は簡単に潰れた。
常人の目からは、存在の無いかまいたちと戦っているような光景に映るだろう。
烈風の往復削岩機となった狂犬は、中心のエーテライト以外をそこら辺にバラ撒いていく。
「星の意思、テメェに言っておく。俺が気にくわないモノは、例え最強のあいつらだとしても──神砕いてやる!」
粉々の鉱石の山となったミスティックゴーレムを背に、牙をむき出しにした。
横を見ると、ガルムの方も終わったようである。
フルメタルドラゴンは表面のミスリルを砕かれ、倒れていた。
「クールだねぇ、尾頭映司。いや、ホットか?」
「あー……ガルム、お前の思考のせいだ。俺は普段、冷静沈着が売りだからな……」
「いや、そうは見えなかったぞ」
ガルムから突っ込まれるとは何たる失態。
【資源入手:ミスリル(剥ぎ取り予定)、オリハルコン鉱石900トン、エーテライト……重量計測不能】




