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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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90話 蒼霊銀装甲竜(フルメタルドラゴン)

 俺は警戒しながら大空洞へと進んだ。

 フルメタルドラゴンは、明らかにこちらを察知している。

 だが、敵意は見せずに静観といった感じだ。


「お前が魔神オウズエイジか」


 大空洞の中に入った途端、フルメタルドラゴンから尊大(そんだい)に話しかけられた。

 喋るのかコイツ……いや、それなりの存在なら知性くらいはあるか。

 それにしても──。


「あの、ただの尾頭映司で、魔神じゃないです」


 何故こんな通り名っぽいものが伝わっているのだろう。

 一応、反論しておく。


「ふむ? 我が加護を受けし者達が、上でそう聞いていたのだがな」


 その爬虫類のような表情は変わらないが、どこか声音は紳士的に感じる。

 外見的には西洋的な竜で、高さは30メートル程。

 特徴としては、その名の通り全身がミスリルに覆われている。


 間接部のつなぎ目すら見えない、謎の装甲。

 顎の部分から見て、必要な時だけ流体金属のようになっているのだろうか。


「それで、『エーテライト』を採りに来たのですが……」


 話が通じるという事は、交渉で戦いを避けられるという事だ。

 この大空洞は東京ドームくらいの広さがあるとはいえ、上級存在がやりあったら簡単に崩れてしまうだろう。

 それは色々と困る。


 さっきから、転移陣も疑似空間も使用不可となっているのもある。

 嫌な予感しかしない。


「では、我を納得させる事だ。この星守る竜を打ち倒し、屈服させ、エーテライトを略奪せしめよ! 主神(オーディン)に至る者よ!」


 的中である。

 巨大な相手から膨れ上がる、強い闘気。

 こちらも一瞬で頭を切り換える。


 ケンを逃がした方がいいか? いや、一定範囲内で防御魔法をかけ続けた方が安全だ。

 問題は別にある。

 さっきも考えていたが、疑似空間も展開できないため、いくら広いとは言え地下で色々ぶっ放したら……地上というか星自体がやばいだろう。


 そのため、近接攻撃辺りで勝負をしなければならない。

 だが、スリュムからコピーした劣化巨大拳を使うと大雑把すぎて、この場は崩れてしまうだろう。

 ここはリスクをおかして、密着状態で魔法の一撃必殺を狙って──。


「映司さん、フルメタルドラゴンは特性として、ある程度の魔法を反射します」


 俺のエーテルから察知したのか、鎧状態のランドグリーズが早口で告げてくる。

 危ない、星の中心に入って2分で異世界半壊とかシャレにならなかった。

 となると……気は進まないが、ぶっつけ本番でアレを使うしか無い。


 昨日、念のために読み取っておいたアイツのエーテル情報。

 それを使って完全擬態(オーディンズミミック)を遂げる。

 俺の髪色は真っ赤に染まり、犬耳、犬尻尾。


 背も若干小さくなり──。


「映司さん、その姿は……」

「ああ、地獄の番犬ガルムだ」


 神器であるドラウプニルは再現できないが、こいつの近接能力の高さは読み取った時点で分かっていた。

 最初からこれを使えば良かったのだが……出来れば、なるべく避けたかった。

 理由、それは──。


「こいつの思考パターン、やばいな……」


 完全擬態は本人の思考パターンも擬態して戦闘に活かすため、ガルムの滅茶苦茶な頭の中の一部を覗き見ることとなる。

 ほぼ、何も考えていないような思考だが、相手をどうやって倒すかを本能で察知しつつ、……結局は無我。

 まさに獣。


 精一杯、俺の意識を介入させて言語を口に出している。

 知性を持ちつつ知性を維持するのが難しい、異常である。

 自分の手足を切り取って、獣のソレと取り替えたような不安定な状態。


 一言で表すのなら、ガルム頭おかしい。

 今の俺ではもう一部にしか頭が働かず──ああ、目の前の竜との戦いは美味しそうだ。


「いくぞ、竜野郎!」


 俺はガルムそのままの楽しそうな笑みを浮かべながら、フルメタルドラゴンへと跳躍した。

 相手は30メートルの巨体、体格差は歴然。

 だが、エーテルとしてはこちらの方が高い。


 俺は赤髪をなびかせながら、金属質な装甲へと拳を振るう。

 直撃──反動からして硬い。

 そう思いながら一撃離脱、すぐにその場をフルメタルドラゴンの踏みつけが襲ってきていた。


 相手も巨体に似合わず素早い。

 その思考をしている間に反転、二撃目の拳。

 硬質な音を響かせながら、内部へと衝撃を伝える。


 楽しい。

 戦いとはこんなにも楽しいものだったのかと思い出す。

 スリュムに完全擬態していた時にも経験したやつだ。


 この高揚感、相手を蹂躙すべしと全てをかけての──いや、思考に飲まれるな。

 冷静になれ。

 自分自身が弾丸となり、三発、四発とヒットアンドアウェイで叩き込んでいく。


 フルメタルドラゴンの装甲は段々とボコボコにへこんでいき、一方的に奏でられる打楽器のようになっていた。


「強い、強いな。だが──」


 フルメタルドラゴンは踏みとどまり、十数発の拳で受けたへこみを再生させていく。

 そして楽しげに咆哮した。


「その程度ではまだ、このエーテライト──『ミスティックゴーレム』は渡せんな!」


 突如──地面から巨大な金属の手が突き上げられ、俺を握りしめた。

 そのまま腕、頭、胴体、脚とせり上がってきて全体像が見える。


「なんだぁ……こいつは!?」

「オリハルコン製の身体に、エーテライトの中心核」


 ランドグリーズは淡々と語る。


「星の意思に使役される、哀れな黒妖精の国の積もり積もった死骸──神代創造せし星の身体(ミスティックゴーレム)です」


 ……これはやばい。

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