88話 仕組まれた異世界のシステム(スヴァルトアールヴヘイム)
人間的な視点で見るとホラー生物なピンクラビットも、天上の階位で見ると下級第二位~第一位辺りらしい。
上級第三位くらいのエーテルをぶつけたため、簡単に気絶してしまったのだ。
今後としては、相手に合わせた強さと、エーテルの指向性などを考慮すべきか……。
とりあえず、気絶から復活したピンクラビットを脅迫……もとい、公平に従わせて使い魔第一号とした。
ずっと付いてこられても困るので、普段は自分の暮らしをしてもらい、必要な時だけ呼び出す。
先ほど、ついでに気絶してしまったケンも復活した。
「すみません、俺が倒れてしまったばかりに」
「いや、丁度良いし、少し休もう」
気に病むケンだが、9割くらいは俺が悪いのであった。
起きた瞬間、謝罪したが……意味が分からないといった感じで見られてしまった。
相手の謙虚さが胸に痛い。
「では、休憩がてら、この異世界──スヴァルトアールヴヘイムの話でもしましょうか」
鎧状態から、人型の小さな身体に戻ったランドグリーズ。
ついつい、その見た目で忘れてしまうが、その人格以外は天上の階位でも上級の存在が下敷きになっているのだ。
藍綬のコピー人格を持つ、強き戦乙女ランドグリーズ。
「映司さんは、どうしてこんな差別や偏見に満ちあふれ、環境も最悪で、おまけに管理者も偏屈という異世界が序列上位に入っているか──分かりますか?」
「ここの住人であるケンもいるのに、ひどい言い方だな……」
チラッとケンを見る。
だが、その顔は意外と、いつも通りの表情。
「生まれも育ちもここですが、俺も良い世界だとは思っていませんから」
「そ、そうか」
ランドグリーズの問い掛けを考える。
確かに鍛冶士の適性が無い状態でなら、この異世界は住みにくいだろう。
ケン達がそれを証明している。
鍛冶士であれば、イーヴァルディの息子のような奴でも上でふんぞり返る事も出来てしまうし。
環境も、この付近は砂漠地帯。
なのに、街が有り人が地下に住んでいる。
空気は最悪。
もちろん、広い異世界なのだから他にも街や国はあるのだろうが、俺としてはこの場所を見ただけで異常と分かる。
管理者もそうだ、これだけの事を許してしまっている。
外部からの手助けも、転移を拒む管理者のせいで無理だろう。
では、なぜ異世界序列の上位にいるか?
「管理者である星の意思とやらが、すごい強いとか……?」
「ぶっぶー、ハズレです」
ランドグリーズが口を尖らせて言う『ぶっぶー』がちょっと可愛かった。
──和む。
「あ、映司さん。なに笑ってるんですか。ちゃんと当てる気あるんですか?」
「わ、悪い悪い」
「ちなみに星の意思はそれなりの力を持ちますが、映司さんやスリュムさんなら普通に危なげなく勝てちゃう程度です。──ヒントは、異世界自体です」
異世界自体?
俺が見てきたこの異世界で良い所といえば……。
「武具の製造が序列に考慮されている?」
「正解です、映司さんに50点差し上げましょう」
何か50点もらってしまった。
基準はわからない。
「あ、でもそれは住んでいるドヴェルグ自体が頑張っているのであって、この異世界自体では──」
「いいえ、ドヴェルグも含めたスヴァルトアールヴヘイムのシステムなのです。今から、それを話しましょう──」
* * * * * * * *
ランドグリーズからの説明は、納得するものではあったが、気持ち的には受け付けなかった。
だが、それが異世界序列というものなのだろう。
誰のための序列で、誰が決めているのか。
何となく察する事が出来た。
この流れを打ち壊すには、この異世界のようなシステムを使っていないエーデルランドを序列一位にして、周りに示すのが一番かも知れない。
今後は誰よりも強くなって、誰よりも異世界序列を上げる──我ながら目標は途方も無い。
「映司さんは、さっきのを聞いて……異世界序列に絶望したりしないんですか?」
「俺1人だったら、そうなっていたかもしれない。けど、みんなが居てくれれば何だって出来る気がする」
「そうですか……強いですね、映司さんは」
「そうでもないさ、みんなの中にはランドグリーズもいてくれるから、俺は前を向いていられる」
「……そうですか」
また、ランドグリーズは返事が上の空になってしまっている気がする。
何かいけない事を言ってしまったのだろうか。
そんな懸念をしつつ、俺達は洞窟の奥へ進んでいく。




