87話 ウサギ+ダンジョン=(ホラー)
「ギシュアアアアアアア!」
ハリウッド映画的な、よくある感じの化け物ボイスが洞窟内に響き渡る。
「なぁ、ケン」
「どうしました?」
「あの、ザ・クリーチャーという感じの物体は何なんだ?」
目の前に2本足で立つ、真っ白い毛皮に包まれた6本腕の筋肉ダルマの巨体、赤一色の眼球に、長い2本耳。
興奮しているのか、身体を武者震いさせながら、周囲に湯気を上げている。
「ピンクラビットですね」
「ダンジョンに常識を求めるのは間違っているのだろうか」
あの大空洞を抜けて、しばらく歩いた俺達。
道は徐々に広くなってきて、剣くらいは余裕を持って振れるくらいだ。
もっとも、俺は素手だが。
「あれって、餌付けしたら見逃してくれるとか無いよな?」
「あれの大好物は活きの良い奴ですからね。ちなみに名前の由来は──」
ドヴェルグの逸話。
鉱石を持ちすぎた、一人の欲張り炭坑夫。
余りの重さでよろよろとしていると、そのモンスターは獲物に飛びかかった。
上下の4本腕で獲物の両手両足をしっかり掴み、残りの2本腕で相手の生皮を剥ぎ取って筋肉のピンク色を露出させる。
やめろやめろと叫ぶ相手を生きながら、綺麗なピンク色に染め上げる。
そのためピンクラビットと──。
「……何そのホラー。というか、一歩一歩近付いてきてるんだけど、そのモンスターが」
「えーっと、頑張ってください。もしかしたら、魔神様なら配下に出来るかも知れませんし」
「配下って、そんな使役できる方法は──」
……あったな。
すっかりと影の薄くなっていた、使い魔使役。
エーデルランドは割と平和で、そんなやばげなモンスターも少なかったし試す機会も無かった。
だが、ダンジョンでこれが使えたら戦闘しないで済むし便利かもしれない。
力加減ミスって、上の聖剣の故里ごと吹き飛ばすリスクも回避できるし。
「よし、使い魔使役を使ってみるか!」
俺は、警戒しながら徐々に近付いてくるピンクラビットを睨み付ける。
「な、仲間にならないか!?」
……そのまま近付いてくる。
スルーである。
俺は気が付いてしまった。
ウサギさんと会話できる能力を持っていないという事に。
「ウサミミ付ければ仲間だと思ってくれるかな……」
「映司さん、こういう時はボディランゲージですよ」
ランドグリーズからのアドバイス。
確かに、それなら世界共通である。
世界語である。
「相手をいつでも殺せるぞというエーテルを見せつけ、絶対服従を求めるボディランゲージはどの異世界でも通じますから」
「物騒な共通言語だな、おい!」
ともかく、やってみない事には始まらない。
エーテルを見せつけるといっても、どのくらいを出せばいいのだろうか?
とりあえず、スリュムと戦ったくらいのエーテルにしてみようか。
いざとなればランドグリーズを得た俺は、更に上の力も見せられるし。
「俺に従え、言葉を解さぬ獣よ」
俺の中から見えない力が膨れ上がり、周囲を濃密な魂で埋め尽くす。
全て俺の掌の中、そう言わんばかりの意思を込め、相手の心臓をそっと掴むイメージ。
そしてフレンドリーに笑う。
「……あ、あれ?」
ピンクラビットは、泡を吹いて倒れてしまった。
「映司さん、上級のエーテルを下級相手に当てるとか……血も涙もありませんね」
「え、あの……」
後ろを見ると、ケンも気絶していた。
【使い魔獲得:生皮剥ぎ兎×1】




