86話 星の洞窟(地下迷宮)
「ここが、そうなのか……」
奥が見えない洞窟の入り口。
ゴツゴツとした岩肌の壁が微かに振動し、人間のうなり声のような音が聞こえてくる。
「──はい、星の洞窟です」
漂ってくる空気──独特の粉っぽい臭いと、湿度の違う風が外まで運ばれてくる。
不気味だ。
「では、入りましょうか」
「ええと、俺が前を歩くから、ケンは後ろでナビゲートを頼む。ランドグリーズは……狭いだろうし、俺の鎧に変化しててくれるかな?」
「はい、その身をお守りします」
ランドグリーズは光に包まれ、そのまま俺の身体へ『武具変化』した。
戦乙女の鎧とは違い、ゴツゴツとしたフルプレートの鎧に、兜の代わりに頭だけサークレットがついた男向けのデザインだ。
まさに重厚。
だが、重さを全く感じさせず、可動部も思ったより広い。
感覚的には、ちょっとコートで厚着をした程度だ。
たぶん、最高の鎧である。
……ただ一つを除いて。
「なぁ、ランドグリーズ」
「はい、何でしょうか?」
「この金色、どうにかならないのか……」
全身、純金と言わんばかりに光り輝いている。
ゴールド、ゴールデン、ゴールデンサンである。
「相応しい色だと思いますが?」
「……ごめん、俺的には目立ちすぎて、恥ずかしくなって死にそう」
鎧から声がする、不思議な感覚。
ランドグリーズと密着していると考えてしまうのもあり、さらに恥ずかしさが倍増する。
全身金色が似合うやつなんて、世の中に数人レベルだろう。
「うーん、そうですね。考えておきます。でも、今はこれで我慢してください」
「そ、そうか。迷惑をかける」
「……このまま密着していたいですし」
何か小声で言われた気がするけど、あーあー聞こえなーい。
先に恥ずかしさで戦闘不能になってしまう。
「じゃあ、行くか」
「はい、魔神様!」
「お~!」
* * * * * * * *
カンテラを腰から吊しながら、その微かな明かりで前に進む。
といっても、俺は夜目が利くので平気だが。
「ええと、その分かれ道は右です」
マップを見ながら、後ろからのナビが大変そうだ。
洞窟の内部は、人が2~3人並んで歩けるかどうかのスペース。
高さは、たまに俺の身長だと頭をぶつけそうになる。
背が低めなドヴェルグ基準なのだろうか。
「その先、広くなっています」
しばらく歩くと、先から明かりが見えてきた。
そこを通り抜けると、目の前には大空洞。
ちょっとした野球のグラウンドくらいの構造になっていた。
そこかしこに掘ったような形跡があり、手押し車などが放置されていた。
普通、鉱山のイメージだとトロッコだが、何か理由でもあるのだろうか?
「昔はここらへんでも掘れていたらしいですが、今では休憩所の役割が強いですね。ライトクリスタルもあって明るいですし」
ケンが説明しながら指差す、透明な角張った水晶。
それが淡く光を発していた。
地下にある聖剣の故里がぼんやりと明るさを保っているのも、このライトクリスタルというやつのおかげなのだろう。
「モンスター達も、これには手を出しません。自分達にも必要だと本能でわかっているんでしょうね」
「モンスター……やっぱり出るのか」
前のダンジョン攻略のように先に排除する事も出来るが、正直アレをまたやったら……やばい気がする。
毒の沼地で町を汚染し、最深部にあるエーテライトという鉱石もどこかに流れていきそうだ。
ダンジョン入って二分で環境半壊、そんなやり方はやっちゃいけない!
俺は反省している!
さすがにもう、この聖剣の故里まで半壊させるなんて事は絶対に、絶対にしないぞ!
「あ、ところで、モンスターってどんなのがいるんだ?」
「そうですね、最初に出てくるのはピンクラビットです」
なんだ、可愛い名前じゃないか。
通り道で出会ったら、餌付けでもして道を譲ってもらうくらいの気構えで良さそうだ。
ダンジョン+ウサギ、なんともファンシーだ。




