85話 戦闘炭坑夫(マイナーズ)
「じゃあ、説明を頼む」
「はい、魔神様の頼みとあらば何なりと!」
何か、ケンの瞳がキラキラと輝いている。
尊敬の眼差しというやつだろうか。
よっぽど妹が助かった事が嬉しかったのか、微笑ましいし、照れくさい。
「では、『星の洞窟』の場所ですが──」
エーテライトという神器のための鉱物があるという、星の洞窟。
地表の各所に入り口があり、それはどれも星の中心に向かって続いている。
この聖剣の故里からも入り口があって、今回はそこから行くらしい。
「ちょっと待った。星の中心に向かうって、重力の関係とか、マントルとか色々あるんじゃ……」
地球基準で言えば、中心に向かうとドロドロの溶岩が詰まっていたり、重力が0に近付いたりする。
「え? 何を言ってるんですか?」
ケンが真顔で返してくる。
冗談では無く、マジで言っているらしい。
地球の常識はここでも通じないのか……。
「映司さん、ここはそのために調整された異世界ですから。あ、おはようございます」
「おはよう、ランドグリーズ」
今まで寝ていたらしいランドグリーズが起きてきた。
フェリの事を軽く説明するが、あまり驚いた表情では無かった。
それなら大丈夫ですよ、と一言だけだ。
話を戻そう。
「ランドグリーズ、そのために調整された異世界とは何なんだ?」
「実際に行って見た方が早いです。そこで本人から聞けますしね」
本人? 誰かいるのだろうか。
* * * * * * * *
「その前に、ここで買い物をさせてください」
聖剣の故里の市場。
元からある商店、どこからかやってきた外来品を広げる行商、武具を買い付けにやってきた身なりの良い者達。
「この町、一万人目の赤ん坊が生まれた記念だぁ! セール中だよ! 見てけぇ!」
という大きな規模の町なので、それなりに買い物客も多く賑わいを見せている。
朝なのに薄暗い地下の町だが、人々の活気で明るく見えるような気もする。
サンドイーターとまではいかないが、色々と珍しいものが目を楽しませてくれる。
「えーっと、水は魔神様が出せるし、食料は昨日の残りで作った干し肉やハムで平気ですね。軽くパン辺りと、方位計でも買っておきましょうか」
何でも、星の洞窟というところは空間が歪んでいる場所も多く、特殊な魔石を使った方位計が必要なのだそうだ。
それと、俺とランドグリーズは食料は食べなくても平気だが、ケン用のを用意しておかなければならない。
……そういえば、まだケンには俺達の詳しい素性を話していなかったな。
「それじゃあ、私は向こうへ」
「ランドグリーズ、任せた」
時間も惜しいので二手に分かれ、ランドグリーズは食料の買い出しをする事になった。
一方、俺とケンが向かったのは、人通りが少ない隅の方の──とあるレンガ造りの古い店。
端的に言ってしまえば、怪しげな雰囲気。
ガラクタのような物が外まで積み上げられ、間違いなく一見さんは回れ右だろう。
何か巨大な骨まで置かれてるし……、ってアレは見覚えが。
「おっちゃーん、生きてる~?」
「生きとるわい! 昨日、会ったばかりじゃろう!」
サンドイーターの骨を持っていった、酔っ払いドヴェルグであった。
店の中に入ると、同じように雑多な棚だらけ。
所狭しと物、物、物。
使い道の分からないバネの飛び出した機械から、星のマークが入った水晶玉まで。
掘り出し物はありそうな雰囲気だが、こう量が多くては探す気にもなれない。
「今日は何だ? 星誕祭が近いから、流れ星の腕輪でも欲しいのか?」
「違う違う。星の洞窟に行くから、方位計が欲しいんだ」
「お前ら……あそこに行くのか」
今日はシラフのドヴェルグのおっちゃん、割と真剣な顔だった。
酔っぱらっていないこの種族は、案外普通なのか。
「わかった。これを持っていけ」
奥の棚から持ってきたもの、それは円形のパーツの中に矢印が付いた機械と、一振りの長剣だった。
「方位計と……、この剣はなんだい?」
「ワシが若い頃に使っていた炎の魔剣じゃ。こう見えても、昔は戦闘炭坑夫で星の洞窟へも潜っておったからな」
「え、えーっと、そんなに持ち合わせが──」
おっちゃんは、やれやれと肩をすくめた。
「昨日の礼を兼ねた餞別だ。こちとら、いつもかーちゃんに尻に敷かれてんだ。たまには、ガキ相手くらいには良い所を見せねぇとな」
ニカッと歯を見せて笑った。
「それと、そこの異邦人の料理人」
俺の事だろうか……たぶん俺の事だろう。
こっちに来てから、料理ばかりだったためかな……。
「こんなガキでもいなくなると、騒々しさが足りなくていけねぇ。守ってやってくれ」
俺は、当たり前だという表情をした。
「任せてください」




