表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/180

84話 愛の鎖(赤面)

 夜明け。

 泣き疲れて寝てしまった小さな女の子を膝に乗せ──抱き寄せるようにして髪を撫でている狼少女。

 聖母……というのは言い過ぎだが、母性を感じられる光景だ。


 俺は、小さな女の子を起こさないようにゆっくり近づき、小声でフェリに話しかけた。


「なぁ、いいのか?」

「うん、大丈夫」


 いつくしむような視線を下に向けながら、フェリは落ち着いた感じだった。

 自分に鎖がかけられているのに……だ。


「でも、でもさ……」


 俺のやり場の無い思いは、強く心を締め付ける。


「絶対に大丈夫な理由があるから、心配しなくていいよ、エイジ」


 何か秘策でもあるのだろうか、そこまで言い切れる何か。

 俺がそれを問い掛けようとした時──。

 家の扉がノックされた。


 失礼します、と入って来たのはイーヴァルディの屋敷で見掛けたメイド。


「イーヴァルディの息子様から、言付ことづかって参りました」


 作法をわきまえたらしい一礼。

 そのまま淡々と話し続ける。


「フェンリル様は、こちらで預からせて頂きます。返して欲しくば、神槍の材料となる星の核なりし『エーテライト』を調達してこい、との事です」

「──ッ」


 俺は反論しようと一歩前へ踏み出したが、フェリに手を掴まれた。


あい分かった。このフェンリル、屋敷へせ参じようぞ」


 いつになく威厳ある口調のフェリ。

 ……ここは信じるしかないのか。


「エイジは、神槍を作る事に集中して。ワタシは大丈夫だから」


 この状況で大丈夫だと言われて、大丈夫だなと安心する人間などいるのだろうか。

 メイドは、フェリにかけられた鎖をチェックし始めた。


 小さな女の子は緩く鎖をかけていた。

 そのため、メイドは鎖をギュッと引っ張り、肉に食い込むくらい締め上げた。


「メイド、この程度でいいのか?」


 フェリは表情を変えず、いつものままだ。


「屋敷で専用の機具を使って、万力のように締め上げろとご主人様の指示です」

「ふふ、それは楽しみだな」


 メイドは、この家のリーダーであるケンを呼び寄せる。


「あなた達、エイジ様を『星の洞窟』へ御案内して差し上げなさい。ご主人様から、道案内と、弾よけになれとの命令ですので」

「あ、あそこの奥は危険だよ! お願いだ、フェリさんも、魔神様も危ない眼に合わせたくないよ!」


 小さいながらも、ケンは精一杯の抗議をした。

 だが──。


「では妹、カノさんの薬は打ち切らせて頂きます。よろしいですね?」

「……ちくしょう! ちくしょうーッ!」


 両拳を握り、悔しさのあまり地面にうずくまるケン。

 なるほど、最初からケンも、病気の妹さんを人質に取られているようなものだったのか。

 何となく、ケンとの出会いも察してしまった。


 都合良く、道案内に現れた少年。

 イーヴァルディの息子の息が掛かったものが町での第一接触者なら、色々と動かしやすいとでも思ったのだろう。

 現に、俺達はこの家に泊まることになった。


「ケン、気にするな。道案内だけ頼む」

「ごめんな……魔神様。まさかこんな事になるなんて……」


 メイドはここでの仕事を終えたのか、鎖に繋がれたフェリを外へエスコートしようとした。


「……フェリ、本当に大丈夫なのか?」


 俺は、つい問い掛けてしまった。

 さっき遮られた答えの続きを聞きたいがために。


「ワタシは、エイジを信じてる」


 予想外の答えが返ってきた。


「ワタシは、この世に存在する物では縛られない。それがどんな強固な物であろうと」


 フェリは、子供のように無邪気に笑った。


「今、ワタシを縛って引き留めてくれているのは──エイジの愛だから」

「なっ!?」


 いきなり出てきた、その言葉は刺激的すぎて……理解する前に驚きが来た。

 思考が完全にフリーズしてしまった。


「あ、いや、その……」


 フェリも、俺のリアクションを見て気が付いたのか赤面してしまった。

 あたふたとした後に、どもりながら──。


「べ、別にそういう意味じゃないからね!」


 テンプレか! と言おうとするも、口が開かなかった。

 色々な力を得ても、こういうのに弱いのは変わらない。


「えーっと、帰ったらプリンの作り方を教えてくれるって言ってた事だから、うん! 絶対に教えてもらうんだから!」


 フェリはそんな事を早口でまくし立てながら、メイドに連れて行かれた。

 何という爆弾発言を残していくんだ、あの狼少女は。

 だけど、あそこまで言われたら、男としてはやりきるしか無い。


「さてと、まずは」


 俺は、まだ涙の跡が残るケンに視線を向けた。


「妹のカノちゃんの所へ案内してくれるかな」

「カノの所へ? 良いけど……」


 ケンに連れられ、カノちゃんの部屋へ通された。


「カノ、入るぞ」


 もちろん言っておくが、そういう事では無い。

 そういう事とは、つまり、ええと、俺はロリコンでは無い。

 何度も言うが、胸が大きく育った感じの方が好みなのだ。


 なので──。


「お兄ちゃん、この人誰……?」

「ちょっと、身体を触らせてくれるかな」


 ベッドに寝ている、まだ年端もいかない子の素肌を触るのも、そういう事では無い。

 ケンに心配そうな目で見詰められているが違う!

 絶対に違うってマジで!


 俺は、マジメにカノちゃんの身体に触れ、体内の状態を確認する。

 魔力の流れ……、いや、これはエーテルの流れ?

 肺の辺りがダメージを受けている。


 そして、外部からのダメージ要因がもう一つ。

 口内から摂取される薬。

 食道ルートの蝕みから見て、これもやばい。


 推測だが、たぶん元から肺が弱かった所に、イーヴァルディの息子が弱めの毒薬で悪化させ続けたのだろう。


「すぐ気分が良くなるから、カノちゃん我慢してね」


 俺は無詠唱で解毒魔法を使った。

 これくらいなら音声(ガルド)魔法などに頼らなくても平気だ。


「あ、あれ……楽に息ができる」


 ついでに回復魔法と強化魔法もかけておいた。

 一時しのぎだが、当分は大丈夫だろう。


「今後、イーヴァルディの息子からもらった毒薬は飲まないように」

「魔神様……治ったの……か?」

「ああ、解毒はした。元から肺が弱いのは、後でどうにかしないとだけどな」


 少しだけ得意げに笑う俺。

 それを見て、泣き崩れるケン。

 大粒の涙がボロボロとこぼれ落ち、鼻水も流れ出ている。


「ありがとう魔神様……でも俺、なんて事を……なんて事を……」

「ケン、お前は世界一、格好良いぞ」


 俺は、ケンの頭を撫でてやった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ