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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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83話 ゴールデンアイとホワイトハート(エイジ)

「後日聞いた話では、すぐに捜索していた救助隊に助けられたらしいけど、周りに犬なんていなかった」

「そうですか」


 ベッドに俺とランドグリーズ。

 俺は天上を見ながら語っている事が多かったが、ランドグリーズはじっとこちらを見詰めてきていたみたいだ。

 ずっと視線と吐息を感じている。


「──今思えば、どこからどこまでが、朦朧とした意識による幻覚だったかは分からないな」

「そうですか」


 俺は気が付いた。

 ランドグリーズの声が、かなり上の空というか、投げ槍というか……。

 若干、不機嫌というか。


「あ、あれ。何か怒ってる?」

「いいえ、別に」


 すぐ横にいて、腕枕だけではなく、多少身体が触れているランドグリーズの方に首を向ける。

 それを察知して、すぐに反対側へ向かれてしまった。

 表情は見えない。


 こういう時、どうすればいいのだろうか。

 そもそも、何に対してこの態度になったのかが分からない。


「えと、もしかして俺に幻滅した?」

「違います」


 短い言葉だけで、俺を拒むように告げてくる。


「藍綬の辛い記憶を思い出させちゃったか?」

「そんなもの……。私にとっては、今の奇跡の方が大切です……」


 若干、涙声になっている気もする。

 俺は訳も分からず、ただあたふたするしか無い。


「こういう時、女の子は抱きしめて欲しいんですよ」

「え、あの……」


 意表を突かれた俺は、さらに焦ってしまう。

 こんな展開は全く予想していなかった。


「──冗談です。それは私以外の女の子にしてあげてください」


 ランドグリーズはベッドから抜け出て、ドアの方へ向かっていった。


「ど、どこへ?」

「トイレですよ、トイレ! もう、女の子に何て事を言わせるんですか!」


 言っている事はアレだが、口調的には元気だったので少し安心した。

 なので、俺も冗談っぽく返す。


「夜のトイレが恐いなら、俺も付いていってやろうか?」

「襲う覚悟がある場合だけ付いてきてくださいね」


 軽く笑いながら、部屋から出て行ってしまった。

 ──その後、しばらくリビングで、ランドグリーズとフェリが雑談しているらしき声が微かに聞こえた。

 もしかして、俺の事でも話しているのだろうか。


 いや、そんなまさかな。

 しばらくしても戻って来ないし、寝ちゃうか。

 ──と、そんな感じで俺が眼をつぶって寝ようとしていると、ランドグリーズはベッドに戻ってきた。

 そして一言。


「ありがとう、ランドグリーズ」


 彼女は、自分自身に感謝を告げていた。

 寝惚けているのだろうか?


* * * * * * * *


 誰もが寝静まる深夜。

 ──異変に気が付いた。

 何か金属と金属がいくつもぶつかり合うような、ジャリジャリとした不気味な音。


「鎖……?」


 俺は浅く眠っていただけだったため、すぐ起き上がった。

 音はリビングの方からだ。


「鎖ですね」

「うおっ!?」


 ランドグリーズもいつの間にか起きていた。

 向かい合う顔と顔の体勢だったため、ずっと寝顔を見られていたのだろうか。

 恥ずかしさで顔が真っ赤になりそうだが、今は置いておこう。


 俺は、警戒するようにドアを少しだけ開け、リビングを覗き見る。

 エーテルを操作して、眼をナイトビジョンゴーグルのように性能変化させる。

 我ながら人間離れしているとは思うが、今は緊急事態なので気にしてはいられない。


 目をこらすと、暗い中でも視覚を確保出来るようになっていた。

 凝視──。

 そこには、重そうに鎖の束を引っ張る、ここで見掛けた小さな女の子がいた。


 そして、その先には眠っているフェリ。

 ……嫌な予感がした。

 俺はドアから出て行こうとするが──。


「フェリさん、起きてますよ」


 背後から、ランドグリーズの声。

 俺はそのまま目をこらし、フェリを観察する。

 彼女は椅子に座り、背もたれに寄りかかるようにしている。


 だが、その金色の眼は開かれていた。


「あっ」


 鎖を引っ張る小さな女の子も気が付いたようだ。

 暗闇、数センチという距離で二人の目が合う。

 小さな女の子はガタガタと震え、鎖も泣くように音を鳴らした。


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……でも、イーヴァルディの息子様に言われた通りお姉ちゃんを鎖で縛らないと、カノちゃんの病気を治してもらえなくて──」


 おそれ、焦り、早口で言葉を吐き出す。

 蛇に睨まれたカエルの様に──必死に。

 ──確か、カノというのは、ケンの病気の妹だったな。


 それを利用して、こんな小さい子を脅すようなやり方で、手を汚さず寝ているフェリを縛ろうとするとか……。


「こ、これは家のみんなは関係無い、私の意思なの……。だから、怒っても……私を殺すだけにしてください」


 弱者特有の強い意思。

 小さな女の子はそれを持っていた。

 フェリは、それを聞いても表情を変えなかった。


 そして、一言ぽつりと。


「ワタシが寝ている内に早くしろ」


 ──不器用に、投げやりに。


「え、でも……」


 それに戸惑う、小さな女の子。

 フェリは、ただ眼をつぶった。


「ワタシは寝相が悪くて、目を開けながら寝たりするんだ。ついでに、これは寝言だ。だから、気にしなくて良い」


 小さな女の子は、泣きながら鎖をかけ始めた。

 よく見ると、いくつもの部屋のドアは薄く開いており、俺と同じように子供達が覗き見ていた。

 ──俺は、フェリの優しさを、意思を尊重した。


 だから、見ているだけで何もしない。

 だけど……だけど……この胸の中に熱いモノが灯った。


「これを差し向けたのは、イーヴァルディの息子か……」


 この非道な相手。

 ──それ相応の方法で失墜させてやるとしよう。

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