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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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82話 ゴールデンアイとモノクロハート(4)

 金色の瞳の犬はどこかへ行ってしまった。

 山の中で、足をくじいて独りぼっちの俺。

 冷静になると、これは非常にまずいのでは。


「だ、誰かいませんかー!」


 いまさら格好悪いが、大声で助けを呼ぶ。

 だが、そう都合良く救助に来てはくれなかった。

 日は段々と傾き、夕闇が迫りかけていた。


 視界を赤い光が支配し、徐々に仄暗ほのぐらい底へ墜ちていくような感覚。


 それは酷く不気味だった。

 元来、森は恐ろしい場所と人々はイメージしていたらしいが、それを実感している。

 何が出てくるか分からない怖さ。


 ──唐突に揺れる茂み。


「だ、誰かいるのか!?」


 あの犬が戻ってきたのかもしれない。

 そう信じたい。

 人間、どうしようもない時は、信じたいものを必死に信じる。


 だが──。


「く、熊……」


 信じただけで、目の前の現実が変化するはずもなかった。

 足を負傷した俺は、熊と対峙する事となった。

 実際に見るとその迫力は凄まじかった。


 ちょっとした小型車サイズ、筋肉の塊である体格に、大人の胴体くらいある丸太のような太い腕、ナイフくらいのサイズがある鋭く硬い爪。

 それが今、敵意を持って見詰めてきている。

 一見つぶらな瞳だが、その表情の読めない黒丸は──深淵を覗き込んでいるようだ。


 逃げる? ……無理だ。

 戦う? ……無理だ。

 生き延びる? ……無理だ。


 これから料理を覚える? ……もちろん無理だ。

 せっかく、これからやりたい事を見付けたのに、ここで死ぬのか。

 熊は、そうだと言わんばかりに低く重いうなり声を上げ、予行演習のように樹木を爪で引っ掻いた。


 分厚い木の皮が剥がれ、白い中身が見えてしまっている。

 俺はそれを見て、自分と重ね合わせてしまい震えた。

 一歩一歩、動けない獲物に近付いてくる巨体。


 手の届きそうな距離になった時、熊は立ち上がった。

 大きさは三メートル、体重は300キロ程ありそうな巨体。

 それがのし掛かる勢いで爪を立てたら、人体はどうなるか。


「た、たすけ──」


 瞬間、熊は飛んだ(・・・)

 ──俺の方向では無く、真横に吹っ飛んだ(・・・)


「え……?」


 物理的な現象として理解出来なかった。

 突然、トラックにでも跳ねられたかのような勢いで、熊が、熊が──。

 動揺していると、視界の上の方で何かが回転しているのが見えた。


 何かが、いや──あの犬が、器用に身体を捻りながら着地。

 もしかして、犬が体当たりで熊を……?

 そんなまさか、体格差とかもあって無理だろう。


 たぶん、熊が運良くバランスを崩したに違いない。


「グルルル……」


 怒った熊の唸りが響く。

 そして、それをぶつけるかのように犬に向かって一直線。


「危ない!」


 俺は、片足しか踏ん張れない中途半端な格好で、熊を両手で押した。

 それを邪魔だと言わんばかりに、熊は軽くなぎ払う。

 爪では無く、手の甲の部分が──俺の頭部に鈍器のような衝撃を与える。


 脳が揺れ、後ろへ大きく倒れ込んだ。

 意識が朦朧とする中、俺は空を見上げながら……これで死ぬのかなと思った。

 せめて、あの犬には逃げて欲しいものだ。


 直後、木がへし折れる音が聞こえ、熊が鳴きながら逃げていく声が聞こえた。

 そして、誰か人間の手(・・・・)がプラスチックカップ入りのプリンを、俺の顔の横にそっと置いた。

 俺の意識はそこで途切れた。

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