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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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80話 ゴールデンアイとモノクロハート(2)

つぅっ」


 残念な事に、生きる気力は減衰しても痛覚は残っているらしい。

 気が付いた時、仰向けの俺は視界に入る空と、落下したであろう崖が見えた。

 いや、よく見ると直角な崖では無く、斜めだ。


 そのため落下ではなく、傾斜で転がり落ちたために命拾いしたのだろう。

 立ち上がろうとすると、左の足首に鋭い痛みが走った。

 裾を上げて肌を見る。


「これは……歩けないか」


 大きく腫れ上がっており、まだ怪我の経験も浅いため、折れているのか重度にひねったのか判断が付かない。

 とにかく、歩けないというのは分かった。

 手持ちの道具で連絡する手段も無い。


 状況は何となく察した。

 助かる方法としては、大声を上げたりすれば、たぶん山道に近いため──。

 そこで思考は止まった。


 こんな世界で生きる意味はあるのか? と言う感情が溢れてくる。


「丁度良いじゃないか」


 そう、これはそういう事態なのだ。

 何かが丁度良く(・・・・・・・)、俺に懺悔をさせてくれる機会を与えてくれた。

 一番楽な、懺悔の方法だ。


 ──俺は大声で助けを呼ばなかった。

 そう選択した。


「人間ってどれくらいで死ぬんだろうな」


 ゴロンと大の字に寝転がり、リラックスした。

 最初は湿った土が気持ち悪かったが、段々とひんやりしていく感覚に慣れていく。

 そして、そのまま眠った。


* * * * * * * *


 あまり熟睡は出来なかったため、夜に眼が覚めた。

 詳細な時間は分からない。

 クマにでも食べられてしまえば楽だったかもしれない。


 そこでふと気が付いた。

 お腹がぐぅぐぅ鳴っている。

 精神的にどうあっても、身体は正直なものである。


 食べたいという食欲自体は無いのに不思議なものだ。


「ん?」


 その時、暗闇の中で手に何か触れた。

 まだ明るかった時には何も無かったはずだ。

 生き物が移動してきた? いや、違う。


「手触り的に……引き抜かれた雑草?」


 家の庭に生えている雑草を積み重ねた物、手触りはそれと一緒だ。

 風か何かで運ばれてきたのだろうか。


* * * * * * * *


 日が出た。

 たぶん、あれから一日が経ったはずだ。

 捜索しにきた声が聞こえた気もするが、それに応えることはしなかった。

 自分でも馬鹿だなと思う。


 人に迷惑をかけているなとも思う。

 藍綬が見たら、絶対に怒るとも思う。

 ただのワガママだ。


 命を無駄に捨てる行為だ。

 頭では分かってるよ……。

 そうだな、俺が第三者だったら……


「勝手に死ね」


 そう思う、正しい。

 少女一人助ける事が出来なかったガキが、自己嫌悪に陥って助けられる事を拒んで自然に死んでいくだけだ。

 少なくとも、ここで死ねば動物の餌となって少しは役に立つかも知れない。


 ……いや、人の味を覚えてしまった動物は処分されるとか聞いた事がある。


「それも可哀想かなぁ……うーん」


 そんな非生産的な一人問答をしていると、視界の横の茂みがガサゴソと揺れた。

 今、考えていた動物だろうか。

 クマなら一瞬で殺してくれそうである。


 だけど、そこから出てきたのは立派な毛並みをした野犬。


「俺を食うのかな」


 つい呟いてしまうが、そこで気が付く。

 野犬をよく見ると、口に何かを束でくわえている。

 スタスタと歩いてきて、それを俺の前に置いた。


 何かのくきだろうか? そんな感じの山菜である。


「俺に?」


 犬は何も答えない。

 ただ意思の強そうな眼でこちらを見詰めるだけだ。


「別に何か食べたいわけじゃ……」


 犬に言葉が通じるはずもなく、じっと視線を向けられて無言の圧力となる。

 何だろう、動物が俺を食うんじゃなかったのだろうか。

 根負けして、その茎っぽいものを口に入れる事にした。


「う、うぅん……」


 食べられなくは無い。

 かなりエグみが強かったり、変な酸っぱさがあるが水分も摂れるし食料としてはいける。

 本当は何か下処理をしたり、食べる時期があったりとかするのだろう。


 美味しいのは感じられずに、不味いのを感じる事が出来る。

 酷い話である。

 顔をしかめながらも、自虐気味に笑いながら食べ続けた。


 俺のその姿を見ると、犬は横に来て座った。

 ここが俺の縄張りだ、と言わんばかりにどっしりと主張して。

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