76話 嘘を吐かなかった狼少女(4)
「見て見て! 2人とも! 新しいお洋服だよ~!」
あれから、ワタシの待遇は激変した。
牢屋に監禁ではなく、大きな白いお屋敷に軟禁といった感じだ。
敷地内なら自由に歩けるし、欲しいものがあれば大体は用意してくれる。
「はは、似合ってますよ」
テュールとヴィーザルも毎日遊びに来てくれた。
今も、緑の芝が生い茂る庭で一緒に過ごしている。
「ほらほら~」
ワタシは、真っ白なドレスを見せびらかすためにクルクルと回ってみる。
「そういえば幼狼よ、鎖はどうしたのだ?」
「ん? 邪魔だから壊して外したよ」
テュールは眼を丸くした。
いつも無骨な表情なので、ちょっと新鮮で面白い。
「あれは……オリハルコンを材料に一流のドヴェルグが作ったもの……それを壊せるとは。いや、そもそも、何故壊せるのなら牢屋にいた時に何もしなかったのだ?」
ずいっと顔を近付け、一気に捲し立ててくる。
ワタシはそれに驚きながら、笑って答える。
「だって、ワタシは今でも神様を悪く思ってないもん。だから、壊したらダメかなって?」
それを聞くと、2人は黙りこくってしまった。
何で黙ったか訳が分からなかったため、何となく後方宙返りをした。
「よっ、と!」
鎖から解放されたのと、元から身体を動かすのが好きだったため、色々と動きたくなってしまう。
「幼狼よ、レディとしての嗜みを考えるのなら、下着を見せる動きはしない事だ」
たぶん、ドレスのスカートから見えてしまったのだろう。
「テュールのえっち~」
「えっちではない。似たような歳の孫がいてな、同じようにおてんばで困っているのだ」
頭を抱え溜息を吐かれてしまった。
たぶんパンツを見せるのは、えっちというやつだから、ズボンとか穿いてきた方がいいのだろうか。
「その子とお友達になれるかな?」
「さぁ、どうだろうな。もしかしたら俺を取り合う恋のライバルになるかもしれんぞ?」
「え~。お父様の方が好きだもん~」
珍しく冗談を言うテュールがおかしく、笑いながら答えてしまった。
「──フェンリル、君は色で例えるのなら黒だね」
ずっとこちらを見て、微笑んでいたヴィーザルが口を開いた。
その言葉を理解できず、ついつい聞き返してしまう。
「黒? このドレスは白いよ?」
「何者にも染まらない、気高く強い心という事さ」
褒められてるっぽいのかな? と疑問符を浮かべてしまう。
「ヴィーザル。黒い色、好きなの?」
「うん、私が一番好きな色だよ」
その時、ヴィーザルの視線が少しだけ恐かった。




