73話 嘘を吐かなかった狼少女(1)
宴はお開きとなった。
後片付けも終え、ケン達の家のダイニングで椅子に座っている俺達。
その中で、フェリは居心地悪そうにしていた。
子供達はフェンリルという名前に警戒し、ビクビクしながら部屋の扉を半開きにして覗いていたりする。
「嫌われてしまったな」
寂しそうな呟き。
フェリがこんな感情を見せるのは珍しい。
「俺には分からないな、何でフェリを怖がるんだ。今までだって色々あったけど、でもそれは──」
「エイジ。ワタシは世界を滅ぼす者なんだ」
俺の言葉は、その一言で遮られ、拒絶されてしまった。
「人、神、巨人、悪魔、星、全ての存在を殺す狼──それがフェンリル」
たぶん、それを語っているのはフェリではなく、フェンリルだった。
「丁度良い機会だ。エイジの側は居心地が良すぎて忘れていただけ。ワタシも思い出して放浪の旅へ戻るため、昔の話をしよう」
カンテラに照らされる金色の瞳は、どこか悲しそうだった。
「神殺しの狼が、巨人殺しの神と出会い、軍神の腕を食い千切るまでの物語。今も止まったままの神々の黄昏を──」
* * * * * * * *
神が巨人を殺し、巨人が神を殺していた古の時代があったらしい。
今日はヴィーザルが戦果をあげた、今日は巨人の王が戦果をあげた。
そんな話を聞いた気がする。
だけど、まだ幼い私──フェンリルとしては、今の世の中の方が好きだ。
強くて格好良くて茶目っ気たっぷりのお父様や、可愛い弟や妹と楽しく過ごすことが出来る。
「ヘル、ヨルムンガンド、フェンリル、海水浴は楽しかったかい?」
「はい、お父様と一緒でしたから」
「僕が本気を出したら、かる~く一周できちゃいそうな海だけど~まぁまぁかな」
「私は、ちょっと熱したらお風呂みたいになったのが楽しかった!」
自由奔放すぎる家系、さすがにお父様も顔を引きつらせていたのを覚えている。
「は、はは……さすが我が子供達だ」
緩やかに拡大していく神々の黄昏は、一人の人間の魔法使いが提唱したシステムによって歯止めをかけられた。
異世界序列という順位を強制付けることによって、無駄な争い等をした種族を晒し上げ、有益な世界を褒め称えるシステム。
序列1位は特別視され、それに因んだ呼び名まであるらしい。
まぁ、それがユグドラシルに聞き入れられ、今のシステムが構築された。
あまり詳しくは知らないが、神々の黄昏が止まった世界──私はそれで満足だった。
あの日までは、そう信じていた。




