72話 酒飲みおっさん餌付けハーレム(エイジ総受け)
プリンは大盛況だった。
やはり、子供達は甘い物が好きなのだ。
「映司さん、すごい美味しいですこれ!」
女の子であるランドグリーズにも好評だ。
これで不味いとか言われたら三日間は寝込む自信がある。
「うーん、でも、お菓子作りだけは何か上達しないんだよなぁ……ご飯に合うものばかり上達してしまう」
今回は生クリームも手に入らなかった。
それと道具も食材も適当なため、見た目的にはすが立ってしまいデコボコだったりする。
「エイジ! すごいな! プリンって、名前だけは数年前に聞いた事があったけど──肉とか野菜以外でもこんなに美味しいものがあったなんて……」
意外とフェリにも好評らしい。
肉にチョコをぶっかけたりするセンスは、あまり甘い物を食べた事が無かった事に起因するのかもしれない。
でも、褒められて悪い気はしない。
「そ、そうか? 割と簡単なものだし、たぶんちゃんと教えればフェリでも作れると思うぞ」
「ほんとっ!? これ、ワタシにも作れるの!?」
「ああ、何だったら今度教えてやるよ」
戦い以外の楽しみを見付けるというのは、フェリにとって良い傾向だと思う。
食べる楽しみと違って、満腹になったら終了みたいなのもないし。
みんなが平和的な狼と知れば、縛るための鎖なんて必要ないだろう。
「つまみ食いは禁止な!」
「……な、何という難易度」
「料理の完成前に無くなるだろ」
そんないつものやり取りをしていると、どこからか匂いを嗅ぎつけてきた近所の住人達が集まってきた。
庭で調理される巨大なサンドイーターに、俺によって作り出された金属質な道具。
その異様さに気圧されて、遠巻きに観察している感じだ。
いや、そもそも、この家の子供達は鍛冶の才能が無い、最下級の住人というのもあるか。
近付きにくさの要素が合わさり、強固な防壁となっているのだろう。
だが、俺はそれの崩し方を知っている。
「皆さんもご一緒しませんか? まだまだ料理はあります」
「って、言ってもなぁ……このガキ達と一緒にとかなぁ……」
いつの間にか増え、十人、……いや、数十人はいるだろうか。
それが俺の呼び掛けで簡単にざわつく。
当然だ、この料理の香りの誘惑に勝てる奴なんて存在しないだろう。
──最後の一押し。
「酒を持参すれば、良いおつまみを作りますよ?」
「ウヴォオオオオオオオオオ!?」
「酒エエエエエエエエ!!」
突然あがる雄叫び。
あまりのテンションの変動にびびった。
ドヴェルグの誰しもが怒髪天のように全身の魔力を逆立て、迫ってくる。
どんだけ酒が好きなんだこいつら。
だけど、大人達が来てくれたのは丁度良かった。
サンドイーターの肉は余っても短期保存用にハムやベーコン、長期保存用に干し肉に出来るが、内臓を持て余していたのだ。
腸も巨大で、ソーセージも作れるような感じでは無かった。
レバーとかも、子供に出しても絶対に喜ばれないだろう。
というわけで、全てを美味しく頂くために大人達に手伝ってもらう。
「お、おい。こんな上等なもの、いくら払えばいいんだ?」
「んー、そうだなぁ」
そういえば、ここではこれ高級品だったな。
今、金を稼いでもいいけど──もっと良いモノを子供達に残そう。
「ここの子供達がサンドイーターを調達して、一生懸命手伝ってくれて料理が出来ましたからね。鍛冶以外でも様々に出来る事がある。その事を忘れない事が食卓を共にする資格です」
自分でも言ってて恥ずかしいが、調理したのは俺だ。
それくらいは主張する権利はあるだろう、たぶん。
「子供達がこいつを……」
あ、その誤解はまずいか。
「危険な事は、子供では無い俺が担当しました。なので、子供達だけでまたサンドイーターを取ってこいみたいな事を言わないように。その時は怒りますよ」
「この御方は魔神オウズエイジだからな! 怒らせたら聖剣の故里が滅ぶぞぉー!」
子供がフォローらしきものを入れるが、全くフォローになっていない。
俺は苦笑いしつつ、魔法を駆使しての遠隔調理の手を止めない。
フライパンがいくつも勝手に舞い踊り、鍋がグルグルとかき回されている。
「た、確かにすげぇ……」
出来れば普通の調理で感心して欲しいんだけどな~。
そんな事を思いつつ、酒のつまみになりそうな内臓料理をユグドラシルで調べ始めた。
足りない材料があったら、アレが足りないな~と呟きながらチラチラすると顔を赤らめたオッサン達が持ってきてくれる。
「後で大量の干し肉作りたいけど、塩が足りないな~チラッチラッ」
「おうよ! 鍛冶で使うから大量にストックしてあるぞ! 持ってくるからちょっと待ってな!」
という風にだ。
酔っ払いハーレムとでも名付けようか。
その内、子供服、筆記用具、オモチャとか持ち込んでくるのも出てきた。
そして、それを子供達に渡して、酔っ払いと子供の交流。
健全なのか不健全なのか分からないが、酒飲みのドヴェルグのコミュニケーションとはこんなものなのかもしれない。
そうこうしていると、7メートル近いサンドイーターで残ったのは骨と、保存食用にする肉のブロックだけになった。
いや、骨も何か使えるらしく、後で礼はするとか言って酔っ払いドヴェルグが持って行ってしまった。
まだテーブルの皿や、鍋の中には料理が残っているため、大人達の宴は続きそうではあるが。
「ふぅ……」
俺は調理から解放され、椅子に座って一休みする。
暖めたり、よそったりくらいはセルフサービスでやってくれるだろう。
さすがに魔法を使って大人数の調理をするのは骨が折れる。
「な、なぁ尾頭映司……」
「ん? ガルムか。腹一杯になったか?」
奴は複雑そうな表情をしながら、うつむき加減で話しかけてきている。
「その……お前、すごかったんだな……」
「そうか、美味かったか。良かった」
「ま、まぁオレの方がつえぇけどな!」
恥ずかしいのか、素直に礼は言えないようだ。
美味いと思ってもらえて、腹一杯まで食ってもらえれば満足だが。
「強さは一つじゃない、誰かを守れる時にだけ強ければいいさ」
調理後の妙な満足感から、ちょっと臭いセリフを言ってしまう。
冷静になった時、死にたくなりそうだから困る。
「……く、格好良い事言うじゃねーか! ……どうりで、あのフェンリルの姐さんが側にいるわけだ」
フェンリル──その言葉を聞いて、大人達がざわつく。
「フェンリル……あの神殺しの」
「はは、冗談だろ。ここで神々の黄昏が起きちまうぞ」
「い、いやでも……そこに座ってる女──まさか」
急に態度を変え、サッと血の気を引かせる大人達。
「このお姉ちゃんがフェンリルなはずないよ! 名前が似てるだけ!」
「そうだよ! 本物だったら、みんな食べられちゃってるし!」
精一杯、フェリをかばおうとする子供達。
俺には訳が分からなかった。
フェンリルという名前だけで、どうしてそこまで?
フェリはそれに気が付いたのか、食べる手を止めた。
そして、顔を上げての一言。
「すまん、実はフェンリルだったんだ」
「ひぃーっ!?」
「た、たすけ──オゲロベロォゥヴォオエェェ」
「うわああああああああん」
大人も子供も泣き叫んだ。
ついでに吐いているのもいるが、これは飲み過ぎだろう。
いや、それにしても……さすがにオーバーすぎないか?




