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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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70話 金色の玖夜捌雫(ドラウプニル)

「戦わなきゃダメ?」

「おまっ!? 男が勝負を投げ出すっていうのか!?」


 俺は、シュラスコっぽい肉焼き回転機を作る手を止めない。

 これでどんな風に上手に焼けました! になるのか楽しみだ。


「とぉにぃかく! お前が勝負を受けるまで帰らないぞ!」


 うざったいし、面倒臭い。

 それがガルムの印象である。

 だって、戦って何の得になるというのだろう。


 たぶん、聞いたら予想通りの答えが返ってくる。


「なぁ、俺が戦って何の得があるんだ?」

「それはだな……えーっと……」


 うん、やはり何も考えていない。

 たぶん、奴の眼から俺は、囚われのお姫様(フェリ)の進路上にいる雑魚か、良くて中ボスにでも映っているに違いない。

 俺が本気で料理に打ち込んでいない時になら、付き合ってやっても良かったかもしれないが、今の状態だと本当に邪魔だ。


「もう良いから戦え! オレと戦わなかった場合は、どう行動するか分からないぞ……クックック」


 あ、何か急に悪役っぽい事を言い出した。

 知らず知らずの内に追い詰めてしまったか。


「おい、ガルム。子供達に手を出したら許さないぞ?」

「あ、はい。フェンリルの姐さん、脅し文句で言っただけなので、本当にはしません」

「うん、それなら安心した」


 フェリにまで言われ、ガルムはへたり込んでしまった。


「……オレって、生まれてきて良かったのかな。地獄の番犬としてずっと引きこもっていた方が……」


 さすがにちょっと可哀想というか、集中できない状況になってきた。

 肉焼き機は可動部もあって大変だというのに。


「あ~、もう分かった。戦ってやるから早くしろ」

「本当か!? ほんっとうなのか尾頭映司! ほーーーーんとーーーーな──」


 ……うぜぇ。

 テンションがコロコロ変わって、勝手にオペラでも演じそうな頭のおかしい奴である。


「あ、映司さん。私も一緒に行きます。戦乙女ですから!」


 根菜を手に持ちながら、ランドグリーズが駆け付ける。

 既に蒼と白銀の鎧を身に纏って、盾と根菜で武装している。


「とりあえずメイス持とう、な!」

「あ、はい!」


 気を取り直し──。


「ミーミル、疑似空間を頼む」

『はい、ユグドラシルの許可下りました』



* * * * * * * *



 ──辺りから生命の気配が消え、景色はそのままで俺とランドグリーズ、ガルムだけの世界となる。


「んじゃ、戦う前に握手。これ、フェリが住んでいる地球の常識な」

「なるほど! 握手! 握手だな!」


 ガッシと握って、完全擬態用のエーテルを読み取っておく。

 ふざけた奴だが、戦闘能力はガチだと分かった。

 俺のこのままの状態で戦えば、エーテルを攻撃に移す変換効率の差で負けそうだ。


 だが、魔法の類は得意では無いらしいので、完全擬態と魔法の合わせ技なら余裕が出来るだろう。


「よっし! それじゃあ戦おうぜぇ!」


 手を離し、距離を取る二人。


「そういえば、ランドグリーズ」

「何ですか、映司さん」


 既に構えて、やる気になっているランドグリーズを眺める。

 気が付いたのだが、俺は彼女の戦闘スタイルをあまり知らない。


「ええと、一緒に戦う場合、どんな感じになるんだ?」

「まず、私が映司様の鎧となります!」


 確か、風璃が映っていた戦闘映像でやっていたやつ──武具変化か。


「大ダメージを受けた場合、代わりに私が砕け散って守ります! 地球で言う所の爆発反応装甲ですね!」

「あの、さらっと恐ろしい事を……。今回、ランドグリーズは見物な」

「え~!?」


 たぶん、ずっと見物だろう。

 ランドグリーズを装着したら、絶対にやばいフラグが立つと思うし……。

 確実に勝てる時に装着してあげて、戦女神としての満足感を演出してあげよう。


「そっちの相談が済んだなら、オレの最強の神器を見せてやるぜ?」


 空気を読んで待っていてくれたガルムは、右腕に装着されている金の腕輪を高く掲げた。


金色の玖夜捌雫(ドラウプニル)、オレを増やせぇ……」


 それは金色の光を発し、ガルムを覆う。

 凄まじく複雑で、それでいて美しい流れのエーテルが爆発的に膨れ上がる。


「あれは……なんだ」

「いいぜ、教えてやるよ」


 一人目のガルムが喋った。


「この神器はな」


 二人目のガルムが喋った。


「9日に1回だけ」


 三人目のガルムが喋った。


「装着者を8人に分裂させる事ができる」


 四人目のガルムが喋った。

 同じ声で順番に喋るので非常にうざい。

 そして、8人目までこの調子で続きそうなので遮る事にした。


「9日の制限があるのに、フェリと戦う前に使っていいのか?」

「大丈夫だ。オレは数を数えるのが苦手だから、9日とか関係無い」


 もうやだ、このデタラメな奴と大雑把な神器。

 だが、ガルムの戦闘能力は単純に8倍になったらしい。

 いや、数として戦力換算するなら、かけ算式に厄介になっていっているのかもしれない。


 一人一人のエーテルまで変わらず一緒という、クソチート。

 オマケに、完全擬態で神器ごと真似ようとしたが、上手く読み取れなかった。

 ……もうこうなったら、最初に考えていた手を使うしかない。


「さぁ、行くぞ尾頭映司ィッ!」

「オレの、オレ達の強さに泣いて喚いて!」

「地獄のヘル様へ挨拶でも!」

「死に行くんだなぁー!」


 残りの四人が喋った。

 立体音響過ぎてうざい。


「降参。ガルムの勝ちって事で」

「え?」


 俺の軽すぎる敗北宣言に、ガルムは呆気にとられた。


「あのさ……実はこの金色の玖夜捌雫(ドラウプニル)、倒しても倒しても8体に増え続けて大変だけど、同時に倒せば平気とか、そういう攻略法とかも──」


 何か弱点を白状し始めた。

 だが、俺の意思は変わらない。


「お前は強い、俺は勝てない。うん、これで終了」

「あ、いや……それは分かるけど、何かもうちょっと戦った実感とかさ……フェンリルの姐さんを取り合うライバル的な熱とか……」


 何という面倒臭さ。


「ミーミル、戦いは終わったから疑似空間を解除してくれ」

『はい、分かりました』



* * * * * * * *



 元の場所に戻り、フェリや子供達の視線が集まる。


「ガルム、俺はなぁ……料理に本気を出してるんだ。マジで邪魔しないでくれ」

「料理? 料理だぁっ!?」


 大笑いするガルム。


「ばっかだろ、尾頭映司! そんな食いもん程度(・・・・・・)に本気になれるって、オレ以上にイカれてやがる。大体、もうお前も食事を取らなくて平気な身体だろ? どうしてそこまで──」

「おい、ガルム……。今、ワタシの目の前で食いもん程度(・・・・・・)と……」


 珍しく、フェリの怒気が籠もった声が響く。


「ひっ、フェンリルの姐さん……」


 地獄の番犬すらも震え上がらせる、珍しく本気になった神殺しの狼。

 その殺気立ったエーテルは、ガルムを串刺しにするイメージを見せる。


「良いだろう、そこまでエイジと食べ物の事を馬鹿にするなら勝負してやろう……。ワタシに勝てんようなら、本気のエイジにも食べ物にも勝てんだろうからなぁ……」

「ほ、本当ですかい!? いやぁ、ここまで来たかいがあったってもんですぁ」


 俺は黙々と調理道具を作っていたが、その言葉に引っかかった。

 そういえば、ガルムはどうやってここまで来た(・・)んだ?

 俺達は色々と苦労したが。


「フェンリルが命じる。疑似空間を用意しろ」


 二人は、一瞬にして消えた。

 外から疑似空間の戦闘を見るとこんな感じなのか。

 ──そして、数秒後に仁王立ちするフェリと、倒れているガルムが現れた。


「ガルム。エイジと食べ物に謝れ」


 フェリは、倒れているガルムの頭を高圧的に踏みつけた。


「へ、へい……。尾頭映司様、この世の全ての食材様、この犬風情が申し訳ありませんでしたぁ……」


 言葉は謝罪だが、その顔は満足げであった。

 罵倒系ギャルゲーを攻略した友人があんな顔だった気がする。


「では、これで失礼させて頂きま──」

「待て」


 俺は、去ろうとするガルムに制止をかける。

 さすがにあそこまで言われて黙っている程、落ちぶれてはいない。

 さっきの謝罪というのも、何か違う。


「飯、食ってけ」

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