69話 神様の道具は割と大雑把(プレゼン力不足)
ミーミルのナビの下、俺は食材を集めた。
『さっきサンドイーターが潜んでいた所、良く調べてください』
「……えーと、ボーリング球っぽいのがあった。何かもう、どういう生き物かわからないな」
蟻地獄状の巣を調べて、産みたて有精卵を手に入れたり。
『水分を多量に含んでいるため、瑞々しいサラダに適しています。ちょっと危険ですが……』
「うおっ、何か飛んできた!?」
トゲを射出してくるサボテンを引っこ抜き。
『地下水のニオイを探してください』
「……さすがに犬じゃないので無理」
『では、地形から推測される場所をマーキングします』
非現実的な砂漠の地下湿地に埋まっている根菜らしきものを、巨大な金属の手を作りだしてショベルカーのように掘る。
『聖剣の故里の入り口となっている巨大な龍骨、その天辺にキノコが生えています』
「湿気も無いのにキノコ?」
『龍骨というのは魔力たっぷりなのでそれを栄養に。強いて言うのならマジックマッシュル──』
「おっと、そのネーミングはいけない」
魔法で数十メートル飛び上がって、龍骨の頭頂部辺りに生えているキノコを採取する。
「助かったよ、ミーミル」
『いえ。食事に誘い合うような仲なので、気軽に頼みをして頂いて構いませんよ』
……速攻でそういう仲なの? さすが遠近感狂う、巨人のフレンドリーな距離感。
巨人の手を作り出す要領で、大きな背負いカゴを作ってみた。
そこに収穫物が目一杯入っている。
「よし、ケン達の家に帰るか!」
* * * * * * * *
「あの、魔神様……こんなに大量の食材をどこで?」
「そこらへんで拾った!」
「……普通、手に入らないようなレア食材ばかりなのですが」
子供達に大歓迎され、俺は調理を開始した。
まず、料理をするためには道具が必要である。
ケン達が使っている調理道具を見せてもらったが、デコボコで油が均一に伸びないフライパンや、切れ味が最悪の古いサビ包丁とかだった。
というわけで、自作する。
戦闘用ではないので、強度はそこまで必要無い。
鋼くらいをイメージして、包丁くらいの大きさの板を生み出す。
それを火魔法で熱し、石魔法でたたき上げ、水魔法冷やして包丁形状へと変化させる。
スリュムの能力は非常に大雑把だ。
きちんと魔法で処理をしなければ、小さな刃物のようなものは作りにくい。
「エイジ、ごはんまだー?」
待ちわびているフェリ。
ここに来てからずっとお預けを食らっているため、胃袋が脳を支配しているのだろう。
「良い調理は! 良い道具から! いや、良い道具とまではいかないな……本当ならもっと職人さんが作った──」
「映司さんって、食事に関しては凝り性ですよね」
笑いながらも困り顔のランドグリーズ。
これは呆れられたのかもしれない。
だが、手抜きなど出来るものか!
「えーっと、眼が真剣なので、私達は適当に手伝ってましょうか」
「じゃあ、ワタシはサンドイーターを解体しておく! 肉はブロック状で良いかエイジ!?」
「意外と、その……そういう事は得意なんですね、フェリさん」
フェリが早速、解体を始めようとしていた。
「ちょっと待て! 股肉は一つ、骨付きのままで! あと軟骨とか内蔵は……いや、全て捨てないようにな!」
「おー、いえーい!」
意思疎通できたのか怪しいが、素手で7メートル近いサンドイーターを解体し始めた。
手刀だか爪だか分からないけど、すごい早さで事が進んでいる。
サイズがでかいため、血とか内臓がスプラッタになっているので、小さい子達は家の中へ誘導させた。
俺は黙々と、鍋や竈、燻製用の箱、シュラスコっぽいものを作る回転機などを生み出していく。
何だろう、ちょっと前までは──。
このスリュムの力で、戦闘中に次々と剣を生み出して格好良くなんて妄想をしていたはずなのに、次々と調理道具を生み出している。
便利だが……やはり、職人の手で作った道具の方を使いたい。
もう武器なんてどうでもいい!
俺は良い調理道具を使いたいんだ!
今回は間に合わせで納得するとして、どうするか……ミーミルに調理道具を作る能力をもらうために、何かを生贄に捧げるか。
きっとすごい調理道具……いや、調理神器が出来るに違いない!
嗚呼、素晴らしいかもだ!
「映司さん? 映司さ~ん、聞こえてますか~? この根菜っぽいやつの皮を剥いてきますね~」
「──あ、うん」
危ない、別世界へトリップしていたようだ。
調理道具のために、人間性や身体を生贄に捧げるエンド一歩手前だった。
だが、神達がどんな物を使っているのかは興味があるな。
「ミーミル。神様ってどんな調理道具使ってるんだ?」
『え~と、すごい大雑把なものしかないですね。普段、私達は食事しなくても平気なので』
「そういえば、フリンも食べたことない料理が多かったな……」
『無限に物が入る大器とか、無限に酒が出てくるのとか、そんな細やかさの欠片も無いものとかですね……。増える金の輪っかとか、増える槍とか、神器は増えれば良いシリーズも多いですし』
夢も希望も無かった。
「な、なぁ……。もし、俺が何か生贄に捧げて調理神器とかを願ったら──」
『うーん、無限に増える十徳ナイフならぬ、無限徳ナイフとかですかね?』
「……うん、神様に頼りすぎるのも良くないと思った」
『わ、私のプレゼン力不足ですか!?』
地味にショックを受けているミーミルを放置しつつ、ユグドラシル経由で取り寄せた資料を元に調理器具を着々と完成させていく。
そんな中、見知らぬ犬耳の男が近付いてきた。
「おい、すげぇ解体ショーしてるな、フェンリルの姐さんは」
「ご近所さんですか? お騒がせしてすみません。後でお裾分けしますので……」
「おい、尾頭映司、オレだよオレ!」
うーん、外見的には背の少し低い、犬耳犬尻尾で、首輪を付けたパンクロッカーっぽい少年。
服は真っ白で清潔そうだけど。
「どちら様でしたっけ……」
「そう、ガルムだよ!? テュールの横にいた!」
「あ、隻腕の格好良い軍神さんのテュール。武人って感じで覚えてる」
歳を取るなら、あんな感じになりたいものである。
筋肉マッチョ爺ちゃん素晴らしい。
「で、その横にいたのを覚えていませんか? ねぇ?」
「あ!」
「思い出したかぁ!?」
「汚れが落ちにくい服を洗濯した奴!」
ガルムは、顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
何か不味いことでも言ってしまったのだろうか。
たぶん覚えていなかったのは結構、体感時間が経っているのと、ポッと出の男キャラだったためだろう。
こちらでワイワイ楽しくやっていると、フェリが気付いて近付いてきた。
「お、ガルム。きちんと洗濯したのか。えらいえらい」
「はいっ! アリアトッシャッス!」
ガルムは、フェリに対して即座に180度のお辞儀。
俺の時と……態度がすげぇ違うな、おい。
「というわけで尾頭映司! お前との勝負に勝って、フェンリルの姐さんに挑戦させてもらう!」
「え~……?」
俺は心底面倒そうな顔をした。




