68話 ミステリアスな美女ほど、逆に……(ぼっち)
「ちょっと他の食材も探しておくから、みんなはサンドイーターを持って先に帰っててくれ」
「は~い! ごっはん~♪ ごっはん~♪」
──3人と別れ、俺は1人になった。
これだけ見晴らしの良い砂漠だ、誰かに見られているという事もないだろう。
「さてと、挨拶はなんてすればいいかな……」
俺は久々にユグドラシルオペレーター──ミーミルを呼び出す事にした。
『映司様、お久しぶりです』
「よっ、久しぶり。ミーミル」
宙に浮くウインドウには、金髪ウェーブの美女の顔が映し出されていた。
首から下が映っていないのは、前回聞いた理由(真の姿)からだろう。
あまり思い出さないようにしよう。
『てっきり、最近は呼び出してくれないので、私の事をお嫌いになられたのかと』
「そんな事は無い。ちょっと軽々しく呼ぶのはどうかな~と思い直しただけで、十分に感謝してる」
距離感を感じさせるのも何だなと思って、少しフランクに話してみている。
『そうでしたか……。では、今日はそれ程までに重要な用件が』
「ああ」
『イーヴァルディや、グングニルの事でしょうか? あまりお話しできる事は──』
やはり、聞きたい事を聞こうとしても、それはユグドラシルが許可しないで通されてしまいそうだ。
これは予想していたため、今までも頼るのを控えてきた感じだ。
「いや、今日はそんな些細な事じゃない」
『……すると、ついに死者の館の条件を満たすために──』
「──食べられる草を教えて欲しい」
沈黙。
何かミーミルが重要っぽい事を……言おうとしていたのを遮ってしまった気がする。
ここは聞き直した方がいいのだろうか。
「──う゛ぁっ」
『──くさっ』
かぶった。
二人で同時に喋ってかぶった。
『……お先にどうぞ』
「ミーミルが言おうとしていた死者の館の条件ってなんだ?」
『何か私の予想と全然違ったのでもういいです……恥ずかしいので忘れてください』
非常に申し訳ない気分になってきた。
だけど、俺は本気である。
「それじゃあ、ここらへんで食べられる草を教えて欲しい」
『あの、映司様はもしかして草マニアであらせられやがりますか?』
ミーミルの口調がちょっと恐い。
「えーっと、草と言っても肉の臭い消しになる香草とか、添えられる野菜とかかな」
『……なるほど。先ほどのマンイーター用ですね』
「そうそう、ってマンイーター?」
マンイーターって、名前的に何か……。
『あ、こちらではサンドイーターという呼び名でしたね』
かなり食欲が失せてしまう別名だ……みんなには伏せておこう。
「ついでに、サンドイーターに適したレシピとかも教えてくれると助かるけど……さすがに細かすぎてユグドラシルに答えられるかどうか」
『大丈夫です。私も良く、その肉料理を一人で食べにいきますから。個人的にお答えできます』
あ、さらっと一人でとか言ってる……確かに友達が少なそうな気はするけど。
『サンドイーターの股肉辺りは、地球で言えば牛肉の──』
普段のミステリアスで事務的な感じでは無く、活き活きと語り出してくれた。
あのミーミルにも、好きな物とかあって、誰かに話したくなるような気持ちを持っているのだろう。
『保存用としてはベーコンやハムとかも──』
「ミーミル」
『あ、はい。申し訳ありません。少々、饒舌になりすぎてしまいましたね』
俺は、それが少しおかしく、笑ってしまった。
「ありがとう」
笑いながら言ってしまったが、ミーミルに対しては失礼になってしまっただろうか?
『い、いえ!? お、おおおお役に立てたのなら光栄です!?』
急に画面の向こうでしどろもどろになるミーミル。
あ、知ってるこの反応。
「今度、一緒に何か食べに行こう」
『は、はひ』
ぼっちが急に話しかけられた時の反応だ!




