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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

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66話 建造物を見たら半壊させたくなる流れ(悪癖)

「こちらで少々お待ちくださいませ」


 イーヴァルディの屋敷、俺達はそこに通されていた。

 街の建物は比較的質素で頑丈さを重視していたが、ここは違う。

 細かな彫刻で飾られた門、手入れが行き届いている緑の庭園、純白の壁と赤屋根の大きな館。


 今はその中にある、客間らしき部屋のソファーに座っている。

 座ると沈み込み、たぶん高級っぽい事が何となく分かる。

 左右の棚に調度品が並べられており、目の前のガラステーブルも裏から細かな透かし模様が入っている。


「エイジ! 酒とか泥水じゃなくてお茶だぞ! ドヴェルグなのに!」

「スヴァルトアールヴヘイムでは、たぶん高級品ですね、これ」


 メイドさんが運んできてくれたお茶を前に、思いっきり失礼な事を言うフェリとランドグリーズ。

 ……だが、気持ちは分かる。

 俺も口を付けたが、出がらしの茶をさらに薄めて薄めて薄めて砂糖をぶち込んだような味だ。


 風味も何もありゃしない。

 だが、ランドグリーズが言うに高級品。

 砂糖が手に入りにくい……とかなのだろうか。


「たぶん、話す前に酔っぱらうといけないから、酒以外の水を出したんだと思います」

「……水? 酒?」


 今、横に立つケンが、さらっと変な事を言ったような。


「ええと、映司さん。ドヴェルグにとって酒とは水です。そんなわけで、酒以外の飲み物の方が高いんです」

「な、なるほ……ど?」


 ランドグリーズが補足説明をしてくれたが、俺の常識的にはすぐ理解するのは難しい。

 金が安かったり、酒より水が高かったりと、価値観が分からない場所だな、ここは……。

 ちなみに、ケンが立っているのは身分的なもので、俺達が引き留めてしまったからだ。


 この世界の事はあまり詳しくないし、両方に面識ある彼が仲介に入ってくれた方が都合良さそうなためである。


「そういえば、エイジはお酒って飲めるの?」

「いや、地球だと未成年は飲んじゃいけないから。……フェリはどうなんだ?」

「飲むより食べる方が好きかな~」


 ということは、酒も飲めるのか。

 外見的には女子高生くらいの年齢に見えるけど……。

 いや、そもそも身体の作りからして違うから良いのか。


「ランドグリーズは?」

「うーん……指に付けて舐めてみた事はありますけど、その……苦くて……。飲みたいとは思いません」


 可愛い反応である。

 と、そんな和やかなやり取りをしていると、部屋のドアから一人の男が入って来た。


「お初にお目に掛かる。僕がイーヴァルディの息子だ」


 男──イーヴァルディの息子は、背が小さく、耳の尖ったドヴェルグだった。

 だが、古典的なそれとは違いヒゲは無く、でっぷりと横方向に脂肪が付いている。

 貴族っぽい赤と金の高そうな服も、パンパンにふくれ上がっている状態だ。


「あ、初めまして。尾頭映司です」


 俺は手を差し出し、握手を求める。


「星の意思から聞いているよ。何でも、アールヴヘイムの管理者からの紹介だとか」


 握られる手と手。

 イーヴァルディの息子の掌の感触は、ゴツゴツとしていて、鍛冶仕事で作ったであろうタコがいくつも出来ていた。

 職人の手である。


 ──保険として、完全擬態できるよう読み取っておく。


「へぇ。知り合い経由で頼んだんですけど、そんな偉い人の紹介をもらえていたんですね」

「くく……。僕の母はいくつもの聖剣や、グングニルを作った職人だからね。それくらいの紹介でようやく釣り合うのさ」


 握手を終え、お互いソファーに座って対面状態になる。


「でも、今作ってる鎖はイーヴァルディの息子さんが作っているんですよね。腕は負けず劣らずでは」

「……武器とそれ以外では、付くはくが違うのさ」


 この反応、意外と交渉が進みそうである。

 いくつか案は考えていたが、結局は天から拳を落とす事になると内心思っていた。

 平和的にいけるなら、交渉で解決が一番だ。


「それで、頼みがあって来ました」

「ああ、何となく察しているよ。そこに、誰しも畏れるフェンリル狼もいるしね」


 チラッとフェリを見ると、大きく表情は変えないが、若干落ち込んでいる雰囲気を漂わせている。

 行く先々でこんな反応をされて同情しかない。

 後で美味しいものを食べさせてやろう、今度こそだ。


「話が早い。それなら、単刀直入に」

「どうぞ」

「鎖を破棄して頂きたい」

「──分かった。でも、こちらも条件を付けようじゃないか」


 さすがに、そうすんなりとはいかなかったか。

 だけど、そんなに悪い相手でも無さそうだし──。


「そこのフェンリル狼を嫁にもらおうか?」

「は?」


 俺達は眼を丸くした。

 あまりにも唐突すぎる条件の提示。


「後は~……星の意思から、キミがユグドラシルの枝を持ち込んだというのを聞いた。それでグングニルを作らせてくれないか? 僕としてはその二つの条件でどうかと考えている」

「えーっと」


 俺は即決した。


「フェリを嫁にやるのはノーで。グングニルの方は考えさせてください」

「ふーむ」


 イーヴァルディの息子は考え込むような表情をした後、ハッと何かに気が付いた。


「もしかして、君達は恋人なのか?」


 俺は答えられない。

 悲しいかな、恋人という定義的にはイエスではないだろうし。


「なるほどな」


 俺のだんまりに、何か勝手に納得したらしい。


「では、代わりの女をやろう。おい、メイド。そこのメイド、来い」


 手招きひとつで現れた、二十歳かそこらの美人で巨乳なメイドさん。


「こいつをお前にあてがってやる」

「いえ、そういうのはちょっと……」


 美人で巨乳なメイドさんとの甘い一夜……。

 すっごいすっごいすっごいすっごい男の子なら惹かれるシチュエーションだが、エロゲではなく目の前の事なので……、丁重にお断りさせて頂く。

 あぁ~、でも巨乳メイドさんかぁ~。


 いやいやいや、そういう事じゃない。

 単体の事柄として見れば巨乳メイドさんは魅力的だが、それと交換でフェリを差し出す事は断固として反対だ。

 それに、こんな事で差し出されるのはメイドさんにもよろしくない。


 イーヴァルディの息子……ケンみたいな子供達の世話をしているから、良い奴かと思ったけど──。


「化け物狼を嫁にすれば箔が付くからどうしても欲しい。どうしたら納得してくれるんだ? ああ、分かった。年齢か。君はそういう趣味なのか、良いだろう。ケン、お前の妹は初潮も迎えて無かったよな?」

「え? 僕の妹、カノがどう──」

「風呂に入れてやって、抱かせる準備をしろ」


 クズ野郎だ。

 今すぐこの屋敷をぶち壊してやろうか。

 カッと頭に血が上ってきた瞬間、ランドグリーズの声が聞こえた。


「申し訳ありません、イーヴァルディの息子さん。慣れない異世界で疲れているので、また明日で良いでしょうか?」

「ひ……っ!? あ、ああ。良いだろう。今日はケンと一緒の所にでも泊まりたまえ!?」


 ランドグリーズに手を引っ張られ、部屋を後にした。


「映司さん、正に魔神のような形相になっていましたよ……」

「まじで……」


 ──まぁ、早急に物理的な鉄槌ではなくても、他でいくらでも後悔させてやる事は出来る。

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