65話 金は命より軽い(ドヴェルグ脳)
「いやぁ、まさか魔神様がイーヴァルディの息子様に会いに行く途中だったとは。あ、俺はケンって言います」
「ええと……。ケンはルーン文字のアルファベットで言えば六番目、火や情熱を意味しますね。良い名前です」
「へへ、ありがとうお姉ちゃん。妹も同じルーン繋がりでさ、カノって言うんだ」
ドヴェルグの少年──ケンは、イーヴァルディの庇護下で生活をしているらしい。
他にも身寄りのない子供達を一手に引き受け、住む場所まで提供しているとか。
意外と良い奴なのかもしれない。
交渉次第では何とかなりそうだ。
「ところで、イーヴァルディの息子って、名前は何て言うんだ?」
「イーヴァルディの息子が名前です」
「……なるほど」
こちらでいう何とかジュニアみたいなノリなのだろうか。
そんな雑談をしながら、微妙な明るさの街を進んで行く。
光源が真上からの太陽でないため、どこか陰気な雰囲気を感じさせる。
所々に突き出ている光る鉱石や、ランタン等だけで生活しているのだろうか。
「ねぇねぇ、エイジ……」
横を歩くフェリが、俺の肩をつついてくる。
「ん?」
「何か食べないの? 食べる? 食べよう?」
すっかりと忘れていた。
街に着いたら何か食べようと言っていたんだった。
食べ物の事でフェリに嘘を吐いた場合、世界が崩壊する。
早急に解決しなければならない。
「な、何か食べるか! ケン、ここって金貨は使える?」
「一応換金できますけど……さっき見た程度の金貨では価値としては微妙ですね。スって中身を見た後、無駄足だったと思ったくらいです。えと、価値基準としては──」
ケンが説明してくれた。
どうやら、鉱物的なものがここの通貨になっているようだ。
俺達の感覚の金貨は、ここだとミスリルが該当する。
他にも稀少な物だとオリハルコンや、龍骸石? など。
「まさか、万能の価値を持つと思っていた金貨が通じないとは……。しかもミスリルとかオリハルコンが本当に実在してるとか」
「あれ? そちらの世界では架空の金属だったんですか?」
不思議がる少年。
「映司さん。これは異世界から話だけ伝わってきて、地球には現物がきていないケースですね。割とあるんです、この手の話は」
解説を入れてくれるランドグリーズ。
さすが異世界から来た戦乙女である。
……ん? 待てよ。
ここでは金が安い、つまり──。
俺はひらめいた。
風璃がやっていたような感じの事を。
「なぁ、ここで金を安く買って、他の異世界で高く売れば──」
「製品ならまだしも、直接の素材での輸出入は止めておいた方がいいです。風璃の場合は特例中の特例で、大体の場合はやっていない理由があります」
「え、いや、でも」
「ただでさえ、ここの管理者との意思疎通の難しさをですね……」
……どうやら俺には商才がないらしい。
異世界の常識というやつは難しい。
たぶん、ランドグリーズに止められなければ、また何かやらかして大惨事になっていたような気もする。
「そんなに落ち込まないでください。映司さんには映司さんの良い所はあるし、こういう事は風璃とオタルさんに任せた方が適材適所ですから」
「そ、そっか」
何かフォローされてしまった。
俺の良い所。
顔だろうか、頭だろうか。
ふふ……。
「エイジ、そんな事よりご飯……」
「そんな事って、フェリ。……俺の良い所百選を考えていたのに」
この食いしん坊の中では、ご飯の比重はかなり重いらしい。
まぁ、俺も食は大事にする方だから、気持ちは分かるが。
「うーん、現状からするに──」
ランドグリーズがまとめに入った。
「手持ちでは心許ないので、イーヴァルディさんのご自宅へ伺って集りましょうか」
うん、良いまとめだ。




