表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第四章 神槍精製

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/180

64話 神殺しの狼と戦乙女にサンドイッチ(死ぬしかない)

「座標によると、聖剣の故里はここらへんだけど……街なんてどこにも無いぞ?」


 いくら慣れてない砂漠とは言え、だだっ広く見晴らしが良い地形だ。

 高所に立てば、それなりの距離に何も無いのは分かる。

 あるのは見渡す限りの砂と、巨大な石の龍頭のようなモノが生えているだけだ。


「エイジ、あれがドヴェルグ達の街──の入り口」


 フェリは指差す。

 巨大な石の龍頭のようなものを。

 入り口と言っても、あれが城壁の代わりで中に住居があるのだろうか。


 いくら大型車が数台通れそうな口だからといっても、街という規模を内包しているとは思えない。

 いや、もしかして──。


「ドヴェルグって実は小さくて、ミニチュアの街に住んでいるのか!?」

「エイジ、熱さで頭をやられたか……?」


 ……まさか、フェリからこんな事を言われるとは。


「ドヴェルグは地下に住んでるに決まってるじゃないか!」

「いや、あんまり決まってないと思う……。つまり、あれは地下への入り口という事か?」

「うん!」


 ランドグリーズは、俺達のやり取りを見て吹き出すのを堪えている。

 こちらも大概らしい。

 やはり、異世界に来てしまうと俺の方が異邦人なのだ……と実感してしまう。


 色々と常識が通じない。


* * * * * * * *


「意外と中は明るいんだな」

「いにしえの龍骸石を採掘するために造られた街。のちに名付けられしは──聖剣の故里。住人の規模は約一万と言ったところですね」


 巨大な龍に食べられる感覚で地下に降り、俺達は聖剣の故里へやってきた。

 淡い光に照らされ、街は地下でもそれなりの明るさを持っている。

 予想外に広いが、光源のせいもあって端まで見えず、建物が密集しているため息苦しさを感じる。


 茶色いレンガ作りの建物が多く、入り込んだ砂は足下に薄く敷き詰められている。


「エイジ、ここではエーテルを纏ったままの方がいいぞ。たぶんドヴェルグ以外は空気が合わない」


 俺にも感じられる、よどんだ空気。

 地下だからというのもあるが、建物から伸びている煙突から出る煙のせいでもありそうだ。

 地下で火を使うとか正気の沙汰ではない。


 異世界だから突っ込まないが、空気の流れとかどうなっているんだか。


「ドワーフ……じゃなかった、ドヴェルグというのは肺が頑丈なんだな」

「もう数千年以上も地下暮らししてるからな。他種族との混血ですら、場合によっては耐えられないが」

「道理でドヴェルグしか見ないわけだ」


 道を歩いて見掛けるのは、俺がイメージしていたヒゲモジャの小さいおじさんや、ちょっと背が小さいだけの人間っぽいものまで。

 その誰もが、耳はエルフのように尖っている。

 そういえば、エルフとドワーフの国は密接な関係にあるらしいし、意外と血のつながりがあったりするのかも。


「背は小さめだけど、おっぱいはちゃんと大きい娘もいるな!」

「映司さん……」


 ランドグリーズから送られる無言の圧力。

 そういえば、今は小学生と同じ様な姿だから……。

 察しろと言う事か。


「ち、小さい胸も需要あると思う!」

「いえ、そうではなくて。お金をすられていますが、ワザとでしょうか? 何かお考えがあるのかと思い、見ていましたが……」

「え? あっ!?」


 ズボンから吊していた革袋が無くなっていた。

 あれには金貨を入れてきている。


「ご、ごめん! ランドグリーズ! その盗んだ奴はどこへ──」

「こちらです。あと、胸の話は今度ゆっくりと聞かせてくださいね?」


 ニッコリと微笑むその顔は、そこはかとなく恐ろしく感じられた。

 俺は盾とメイス、どちらで殴られた方がマシか考えるのであった。


「ら、ランドグリーズはすごいな。発信器を付けたみたいに追跡できるとか」


 ランドグリーズを先頭にして、俺達はその後を追っている。

 ちなみにだ。

 決して……心象アップのため必死に褒めているのではない。


 うん、決して……。


「微弱ながらエーテルを察知したので、それを覚えていただけですよ。もっとも、この方法では映司様のような完全擬態の場合は振り切られますが」


 なるほど。

 雑踏ざっとうの中でもエーテルで見分けを付けているのか。


「この先、通路──たぶん路地裏に入ります。フェリさん、挟み撃ちにしましょう」

「りょーかい、ランドグリーズ」


 戦乙女と神殺しの狼による連係プレイ。

 路地裏を抜けようとした人影を哀れに思う。


「いやっほーう!」


 フェリは高く飛び上がり、無駄に身体を捻りながら回転を織り交ぜて、人影の先へと着地した。

 狼的な本能なのか、こういう時に生き生きしすぎだと思う。


「くっ!?」


 人影は咄嗟に後ろへ方向転換して逃げようとするも、いつの間にか戦乙女状態になったランドグリーズが盾とメイスを構えていた。

 前方に目を爛々と輝かせた狼、後方には完全武装の戦乙女。

 俺だったら、絶対にチビっている。


「小さな泥棒さん、素直に返してくださいな。今ならまだ楽に殺してあげますよ?」


 ランドグリーズが楽しそうに語りかける相手──それはまだ子供の泥棒だった。

 年齢は10かそこらだろう、耳が尖っているためドヴェルグだ。

 外見的には汚れ、痩せているために判断は付きにくいが、たぶん少年だろう。


「お、おい。ランドグリーズ……」


 さすがに持ち物を盗んだだけで殺すとか、発言的に過激すぎる。

 しかも、まだ子供だ。

 俺は、そんな事は望んではいないし、させたくもない。


「映司さん、いつもなら盗人は撲殺ですよね?」


 こちらをチラッと見たランドグリーズはウインクで合図をしてくる。

 ……うん? 何か考えでもあるのだろうか?

 適当に合わせてみよう。


「まぁ、手足からじっくりと叩き潰し続けてミンチだな。その後に団子にして煮て食う。子供のやぁらかい肉はうまいからなぁ?」

「ひぃっ」


 泥棒少年は目に涙を溜めて、ガクガクと震え出してしまった。

 ……意外と楽しい。

 これ意外と楽しいよ!?


「この俺──魔神オウゥゥズエイジの贄となる事を光栄と思え、少年よぉぉお」


 地獄から響くような声……を出そうとしたが、調子に乗ってどこか演技めいたものになってしまっている。

 必死な状況である少年は気が付いてないが、俺はとんだ大根役者らしい。

 完全擬態の時になら、いくらでも千両役者になれるのだが。


「はぁ。……とまぁ、本来はこのように悪逆非道な映司さんですが──」


 ランドグリーズは、若干呆れた顔をした後、少年の方へ振り向いた。


「今日は機嫌が良いので特別に見逃してくれるそうです。コレに懲りたら二度と盗みはしないように」


 何となく察した。

 ランドグリーズは、子供を懲らしめるためにきつい事を言ったのだ。

 この先も盗みをして、本当に死に至る事を止めるために。


「は、はい……すみませんでした、魔神オウズエイジ様……」


 その代わり、俺の名前が犠牲になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ