63話 黒妖精の国(砂漠地帯)
──というわけで、俺達は黒妖精の国スヴァルト・アールヴヘイムへと降り立っていた。
上下左右、どこを見回しても……空以外は全て砂漠。
今は日中なので、気温の高さは半端無い事になっている。
オマケに日本とは違い、湿気が無いので常人なら焼けるような熱射で倒れてしまうだろう。
「フェリ、その格好で平気なのか?」
横を歩く狼少女は、そこらのコンビニに出掛けるようなラフな姿。
俺が使っていたTシャツと、ジーパンである。
そこはかとなくむっちり感が強調されていて嬉しい事は嬉しいが、ここは砂漠。
場違いすぎる格好。
「ん? エイジ、日本とは違ってエーテルを張り巡らせている状態だから、太陽に飛び込んでも平気だぞ?」
何という規格外のスペック。
ビキニアーマーで戦う女戦士理論みたいなものだろうか。
「というか、エイジも同じ様な事が出来るし」
「あー……、そうだな」
俺もエーテルを身体中に広げ、人から神のような状態へ移行する。
砂漠なのに熱くない不思議な感覚。
そういえば、天上の階位で上級の奴らなら宇宙でも活動できるんだった。
外見上は変わらないのにな。
「お腹も空かなくなるから、ワタシとしてはリラックスした状態でいたいんだけどな~」
「まぁ、街に着いたら何か食べよう」
「さっすがエイジ! 話が分かるぅ!」
一気に魔法で飛んだり、神の肉体パワーで猛ダッシュ出来なくもないのだが、今回はスキールニルに迷惑をかけないため徒歩だ。
──昨日、彼女が話してくれた事を思い出す。
出身地の異世界の幼馴染みが、黒妖精の国に顔が利くらしく、話したら転移許可をもらえたらしい。
どうしてその場にスリュムもいて、スキールニルもいて、話がトントン拍子に進んだか?
大体は、風璃の手の平の上という状態だ。
俺達がヴィーザルと出会って、どうしようかとリビングで話している内容から察して、ここまでセッティングをした。
山賊との取り引きの時も思ったが、大雑把な俺と違って優秀な妹である。
というわけで彼女らに迷惑をかけないように、神パワー全開してしまって、開幕で半壊の強制解決は絶対回避である。
あくまで紳士的な感じで鎖の交渉に挑む。
「ランドグリーズは平気か?」
「はい、私も戦乙女なので大丈夫です」
普段は風璃に付いて、護衛になっているランドグリーズ。
ゆったりとしたワンピースとエプロンドレスの中間のような服を着ている。
風璃曰く、森ガールというファッションらしい……俺には難しい。
とにかく、今回は荒事になるかもしれないので付いてきてもらった。
俺、フェリ、人間形態ランドグリーズ(小)の3人で聖剣の故里を目指す。
「映司さん、その背負ってきているものは何ですか? 外からでも分かるくらい色々と凄まじいのですが」
「ん? ああ、これか」
俺は、竹刀などを入れるロングバッグを肩にかけている。
「鍛冶士がいっぱいいると聞いたから、ミーミルからお土産にでもらったユグドラシルの枝を持ってきた」
「つまり……神槍を作るのですか?」
「うん」
今の俺は、素の状態だとエーテルを攻撃に変換する時の効率が悪すぎる。
魔法は使えても、得意とまではいかない。
なので、武器が欲しい。
あのヴィーザル達にも対等以上に戦え、もしもの時に誰かを守れるくらいの力。
「エイジぃ~、あの槍はすごいぞ~」
「フェリは知ってるのか?」
「もちろん! すごい威力だし、すごいいっぱいの敵を倒せるし、すごい命中力だし──ええと……すごい面倒臭いし?」
最後のだけ、何やら武器らしくない。
「私も戦女神として、映司さんがアレを持つところを見てみたいですね。きっと、格好良いです」
ランドグリーズから、格好良いという言葉を聞けてしまった。
若干、照れてしまう。
ふふ、格好良いか。
未来の俺は最強の槍を携え、寡黙気味に相手を睨み付ける。
その瞳は女の子達を惹き付けて……うへへ。
「あ、エイジ。その一歩先に──」
フェリがハッとした表情で告げてきた瞬間、足下が一気に沈み込んだ。
俺のにやけ顔は、足下の空間が無くなった事のビビリへと変わった。
「旅人をバリバリ食い殺す、四本脚の巨大な化け物が罠を張っているから、迂回した方が良いと思う。味は結構良いけど、今倒して食べちゃうと……街でご飯食べられなくなるし!」
真剣なんだか、のんきなんだか分からないフェリである。
足下に待ち受けるのは、人を丸呑みできるサイズの口腔。
凶悪なギザギザの白牙で大歓迎されている。
普通の人間からすると、地獄の入り口というやつだろう。
「ちょ、まじかよ!?」
このまま落下すると、胃袋へ一直線だ。
「前、失礼しますね」
弾丸の様に、眼前に飛び出してくるランドグリーズ。
その手に持つ大盾を裏拳のようなフォームで回転させ、化け物の横っ面をぶっ飛ばした。
巨体が砂から浮き上がり、数メートル離れた場所でピクピクと痙攣している。
埋まっていた部分も見えて初めて分かる姿。
全長7メートル程度。
何か太った人体がエクソシストポーズをして、首の代わりに口を付けたようなホラー巨大生物。
「平気かと思いましたが、服が汚れるかも知れなかったので。……出しゃばって、ごめんなさい」
「い、いや。完全に驚いて対処しきれなかった。ありがとう、ランドグリーズ」
蟻地獄のような地形から抜け出るため、ランドグリーズと手を繋ぎ、上にいるフェリに引っ張ってもらう。
左右に柔らかい女の子の手。
これはかなり幸せ度が高い。
ランドグリーズが、なぜか頬を赤らめているが……砂漠で急に動いたからだろうか。




