61話 明かされた衝撃の真名! フェリの正体はフェンリル──!?(急展開だなエイジ!)
フェリが地面にのの字を書いていじけているが、放置しておいた方が良いのだろうか。
まさか、フェンリルフェンリルと前々から言われまくっていたのに、正体を隠し通せていると思っていたとは。
金色の目に若干涙が溜まってきたので、少しだけフォローしておこうかな、うん。
「あ、でもフェリ。俺が気が付いたのは、つい初日の出来事で、もやもや~っとした程度のフェンリルで……」
「びっくりした……?」
「お、おう」
「そ、そうか! ワタシの正体が分かってしまって急展開だなエイジ!」
耳を立て、尻尾をふりふり。
パァッと明るくなるフェリの表情。
守りたい、この笑顔。
このまま抱きしめて第三部! 完! で良いのではないだろうか。
「ええと、それで話の本題に入っていいでしょうか? フェンリルと映司君」
四章がスタートしました。
すっかり、ヴィーザルという神が……何か話をしにきたという事を忘れていた。
「神やエルフ、ドヴェルグ等の様々な種族が協力して、フェンリルを縛る鎖を作成中のようです」
「SMプレイ、エロいっすよね!」
ヴィーザルの言葉に、ガルムが茶々を入れてくる。
半裸のフェリに鎖か……最高じゃねーか。
「骨をきしませる程にめり込み、その苦痛は並の拷問具より遙か上をいくでしょう。ガルム、あなたのファッションとは違いますよ」
冷静に返してくるヴィーザル。
そう聞くと、全く最高ではない。
エロくない。
というか、フェリにそんな物を付けようとするとか許せない。
「まぁ私は立場上、つい独り言でこの情報を映司君達に聞かれてしまい、それに気が付かず去っていくだけですが」
「なるほど、そういう事か」
俺は納得した。
「つまり、俺達がその鎖とやらをぶっ壊してきていいんだな?」
「場所は異世界序列第五位──黒妖精の国スヴァルト・アールヴヘイム。その町の1つである聖剣の故里という場所で、イーヴァルディの親子が作成中です」
いくつか分からない言葉が出てきたが、後でスリュム辺りに聞くとしよう。
知恵はなくとも知識はあるし。
「ええと、ヴィーザル……さん。なぜ、その事を俺達に?」
「ヴィーザルで結構ですよ。私は、こういう立場でもフェンリルの昔馴染みでしてね。いくら巫女の予言があるとはいえ、縛るべき存在ではないと考えています」
つまり、フェリの事は心配だけど、立場上は自分で動けないから俺に伝えたという事か。
初対面の印象から決め付けてしまっていたが、意外と良い奴なのかも知れない。
「では、表立って協力は出来ませんが、健闘を祈ります。目覚めし者──尾頭映司君」
にこりと笑って立ち去るヴィーザル。
これで、その場に残っているのは2人の神。
隻腕の神と、犬っぽいの。
「久々に会えて嬉しかったぞ、フェンリル狼よ。お前に勝利を」
隻腕の神テュールは、剣を掲げて祈りを捧げた。
フェリは、その先のない片腕を寂しげに見詰めていた。
「その……ワタシがやっちゃった腕……大丈夫?」
「なに、かすり傷よ。気に病むことはない」
豪快に笑いながら、テュールは去っていった。
フェリが原因らしい隻腕の事に、かすり傷と言い切れる部分。
男として見習うべきものがある。
そして、その場に残っているのはガルムだけとなった。
「フェンリルの姐さん、オレ……オレ……」
今度は別れるのが寂しいとか、実は好きでしたの告白系なのだろうか。
感情一杯に何かを言おうとしているガルムを見るとそう思えてくる。
「フェンリルの姐さんと戦ってみたい! そして、その大きな胸を貸してもらって打ちのめされたいんだ!」
いきなりとんでもない事を言い出した。
だが、その表情は真剣そのものだ。
「え~。お腹空いたしもう帰りたい……エイジのご飯食べたい……」
フェリは一蹴。
何故か、ガルムに睨み付けられる俺。
「映司だか、ページだかしらねーが、お前は絶対にゆるさねぇ! もうオレのヘッドがファイアみたいに猛ってしょうがねぇ!」
意味が伝わりにくい。
たぶん、俺に対して逆恨みをしているのだろう。
人間の理性ではなく、犬の感情で動いているような相手なのでスルーしよう。
「フェリ、今日は何食べたい?」
「エイジの作る物なら何でもいいけど、どちらかというと肉に大賛成かな!」
「おいおい、野菜も食えよ」
「エイジのドレッシング美味しいから食べる、超食べる」
今日の特売は何だったかなと思い出しながら、転移陣で帰宅することにした。
「──いいぜいいぜぇ、尾頭映司ィ! こうなったらまずゥお前にヘル様直伝の地獄の業火を見せてやるってぇ寸法でいこうじゃねーか! 散々炙りにした後、感覚を混乱させるフォッグブレスで辺りを煙らせて一方的なこうげぇーきぃ! うひゃひゃひゃひゃ! そして、誰も使えなくて捨てられていた所を、土から掘り起こした最強の神器を──あれ、いない?」




