59話 魔王に金の使い方を教えてみた(WinWin)
「ほう、貴様が噂の魔神──オズエイジか」
「いや……そんな噂、嫌なんですけど。魔神って悪役っぽいし……」
俺──尾頭映司は、エーデルランドのとある城に来ていた。
石造りの城壁に囲まれた、堅牢な作りの巨大な建物。
その王様がいるような部屋で、赤絨毯の上に立つ。
だが、目の前の玉座に座っているのは王様ではない。
ソイツと対面していると、ここがファンタジー世界だと実感させられるのであった。
「悪漢が貴様の身内に指一本触れた瞬間、相手だけではなく、一族郎党に至るまで虐殺し尽くしたというではないか? この魔王、貴様の冷酷無比な外道っぷり……気に入ってしまったぞ」
ソイツは──全長六メートル程で、ギョロリとした赤瞳が六個、六本の腕を持つ緑色の光沢ある身体。
ドクロのネックレスと、紫水晶から彫り出されたような杖を装備している。
魔王である。
勇者の敵みたいな扱いをされている魔王である。
それも、何かすごい勘違いをされている。
何故こんな事になっているか。
──事の発端はこうだ。
魔王軍を名乗る集団がエーデルランドで一旗揚げようと転移してきて、使われなくなった貴族の城を改修してねぐらにしている。
何か問題が起きそうな予感がしたので、引越祝いという名目で酒を持って登城しただけだ。
そして、変な噂が伝わっていて、話がややこしくなっている。
後ろにいる、付いてきてしまった二人もいて更に──。
「エイジ、意外と酷いな! 血も涙も無いな!」
「くくく、ワシのエーテルの扱い方をいつの間にかコピーしたようじゃな?」
暇だからと言う理由だけで、フェリとスリュムが共に来てしまったのだ。
「酷くない、犠牲者は0。それと、スリュムの『エーテルを物質に変換する特性』もコツを掴んだだけで、完全擬態してない状態だと威力的に超劣化してるからな……」
後ろに振り向いて、二人だけに聞こえるように反論。
正直……前門の魔王、後門の狼&巨人である。
「何をコソコソとやっておる。この魔王は評価しているのだぞ? どうだ、軍門に下って──いや、同格としてのパートナーとしても迎え入れてやろう」
何か気に入られてしまったらしい。
世界の半分をやろうとか言われそうだ。
「頷けば、このエーデルランドの半分をやろうではないか!」
……以前の俺なら選択肢を『→はい』にしようかな~と悩んでいたかもしれない。
だが、今の俺は違う。
「すまないな。今の俺はフリン──幼女様のために日々、一生懸命だからな!」
あの日、俺を頼ってくれたフリンのために異世界を運営し、序列を上げていく。
そんなちょっと格好良い宣言だった。
──だが、魔王と、その後ろに控えていた幹部達はザワザワとしている。
魔王の要求を断るとは何と剛胆な人間だ! というリアクションだろうか。
勇者的な肩書きを最初に持っていた俺らしい展開なのだろう。
「魔王様、進言します。こやつ、ロリコンです。いきなり大声で幼女に様付けで一生懸命アピールとか頭おかしいです」
「むぅ……この魔王も……若干……どん引きしてしまう気迫を感じた」
酷い言われようである。
最初は魔神とか冷酷無比とか、世界の半分をやろうとか持ち上げておいて一気に落とす。
これが魔王のやる事か……。
もういつものパターンで、相手の所に乗り込んだら、速攻で半壊させるやり方で良いのではないだろうか?
相手の力量はかなり下っぽいし。
……いや、一応は相手の言い分を聞いてからにしよう。
「エイジ、ロリコンって何だ? エイジはロリコンというやつなのか?」
フェリからの直接精神ダメージが飛んでくるが、そこは強固な意思でスルーしておこう。
「魔王よ、このエーデルランドに来て何をするつもりなんだ?」
「決まっているだろう。世界を恐怖で支配して──」
いつものパターンか。
「良い女達を手中に収める事だ! ワルの頂点はモテるからな!」
エロゲ方面のいつものパターンだこれ。
だが、この場合は男として分かる部分もあるのでワンパンで終わらせるのも忍びない。
ここで、1つ有効なアドバイスをしてやるのが一番かも知れない。
「そんな恐怖で手に入れたワルでモテるより、もっと良い方法がある」
「ほう?」
「金の力だ!」
決まった。
ドヤ顔で完璧に決まった。
後ろから女性陣二人に、うわぁ……と言われているが気のせいだろう。
「金さえあれば、魔王の城に捕らえられたお姫様とのプレイも、そういうお店からデリバリーしてもらう事によって可能!」
「まじで。……いや、本当か?」
6個の赤眼を期待に染め、魔王はこちらを凝視してくる。
若干、返しの言葉が俗っぽくなっているのは男というモノだろう。
しょうがない、本当にしょうがない……気持ちが分かる。
……まぁ、俺も耳年寄りなだけで、そういう経験はないけど。
とりあえず、勢いでどうにかしてしまおう。
「──だが、それだけではない。本来そういうプレイしか出来ない魔王も、お金によってロミオとジュリエット的なプレイ、幼馴染みプレイ、乗合馬車で密着してドキドキプレイ等も可能! 一時間で金貨数枚!」
「ま、魔王様! 騙されてはいけません! 既に軍の編成や、侵攻計画が──」
さすがに部下達はやばいと思ったのか、こっちの甘言を何とかしようと止めに入ってくる。
だが、こちらには最終手段がある。
「む、むぅ……そうだな。こんな脆弱な異世界などすぐにでも──」
「勇者としてハーレムプレイも出来る!」
「なにぃ!?」
なんと まおうが おきあがり なかまになりたそうに こちらをみている。
* * * * * * * *
今回は珍しく、何も被害が出ずに解決できた。
大抵は登場した建物が壊れていたので、俺のお約束を払拭したとも言える記念すべき日だ。
そんな気分で魔王城から外に出て、エーデルランドに来たついでに何かこっちの料理でも食べて行こうかな、とか考えていた。
そこで突然、奴らと出会った。
「やぁ、フェンリル──探したよ。また一段と綺麗な神殺しのエーテルを纏うようになったね」
男、三人組。
俺の知らない相手で、向こうはフェリを知っているような感じだ。
当のフェリは複雑そうな表情をして黙っている。
だが、スリュムは──。
「ヴィーザル、貴様ァーッ!!」
突然、普段からは想像が出来ない咆哮をあげ、空間を歪ませて鉄巨人を召喚しようとする。
先に出てきた巨大な左腕が山もろとも魔王城を吹き飛ばす。
そのまま上から振り回すようにして、三人組の頭上へ──。
「ど、どうしたんだスリュム!? このままだと俺達も──」
「止めるな! ヴィーザルがいるという事は、いるだけでそういう事なのじゃ!」
ヴィーザルと呼ばれた長身の男は呆れたような顔をして──失笑した。
この霧の巨人の王が全力で放ったであろう、星すら破壊する一撃が天から降ってきている最中なのに……だ。
「相変わらずですね」
その一言を発した後に、スリュムの巨大な左腕は上方向へバラバラになりながら吹き飛んだ。
装甲板などが中途半端に降ってこないのを見ると、全て燃え尽きたか、宇宙空間まで吹き飛んだかだろう。
圧倒的な力に対する、圧倒的な力。
そして、何事もなかったかのようにヴィーザルは一礼。
「挨拶が遅れたね、目覚めし者──映司君」
俺を知っているのか、こいつ。
「私は序列第一位、神の国アースガルズの管理者──ヴィーザル」
その言葉を聞いて立ち尽くしていた。
相手をそう認識した瞬間、凄まじいエーテルの奔流を感じ取ることが出来た。
知識の無い野生動物が、銃を脅威と分からなかった様に。
スリュムは、鉄巨人の片腕を失いながらも、本人は無事のようだ。
少しふらつきながら、ヴィーザルを睨み付けている。
「映司……こやつはまずい。『蹂躙せし黄昏の跫音』の所有者──最強の巨人殺しなのじゃ……」




