58話 戦乙女と恋乙女(笑い合いたい)
俺──尾頭映司は、つい先日……魔神という通り名をゲットしてしまった。
魔神オズエイジ。
普段は温厚で、ヘタレな俺とは似ても似つかない凶悪さが滲み出ている。
まぁ、そんな事より──。
「なぁ、スリュム。この子は何なんだ?」
「何を言っておるのじゃ? 自分で契約した戦乙女じゃろう」
今、俺の部屋にはスリュムと、藍綬の姿とそっくりな甲冑装備の女の子が座っていた。
正確には、当時の藍綬から成長した中学生くらいの姿と言った感じだろうか。
「神言で盾の破壊者──ランドグリーズ。なかなか強力なモノを拾ったの。さすが映司の巻き込まれ体質なのじゃ」
「その神言って何だ?」
「そうじゃの……本来、いにしえの使い方では言葉で縛れないモノを現すために……。まぁ、今となっては神の言葉遊びという感じじゃな」
スキル名が妙なのはそのためだったのか。
「……で、何でそのランドグリーズと、いつの間にか契約した事になっているんだ? 何故か見た目が俺の知っている姿だし……」
「そうじゃの。たぶん──」
スリュムは珍しくマトモに話し出した。
どこかの高位の存在が身体を失い、力や自我を消耗しながらエーデルランドに辿り着いた。
そこで、戦乙女使役を使える映司のエーテルが残留していたため、妹である風璃に惹かれていった。
だが、もう力や自我はほぼ残っていない状態。
相手の好みを読み取って、気に入ってもらえる姿を残りエーテルギリギリで化け、アルマジロになった。
後はくっついている内に気に入って、守るための力を映司に求めた。
大きなクマのぬいぐるみから、藍綬本人の記憶と姿を読み取って、映司が寝ている間に──。
「夢……あの時か」
「寝ている時でも契約は成立するからの。今度からは気を付けるのじゃ」
「そりゃ、夢魔とか何かも仕事がしやすそうで……」
現実を受け入れ、観念した。
チラッとランドグリーズに視線を送る。
鎧と盾が異常に目立つだけで、後は普通の人間と変わった所は見られない。
むしろ普通に可愛い、藍綬の成長するはずだった姿だ。
そう見詰めていると、ランドグリーズは目を逸らし俯いてしまった。
「あれ? 俺嫌われてる?」
「いや、映司が好きで照れておるのじゃ」
「マジで……。スリュム、意外とそういうのにも鋭いのか。さっきの説明も妙に詳細までしっかりしてたし。もしかしてお前、すごい奴なんじゃ──」
「くっくっく。褒め称えるが良い! 全て、こっそりとランドグリーズ本人から相談されて、事情を話してもらったからの!」
不敵な笑みを浮かべつつ、堂々と語るスリュムに盾が飛んできた。
「のじゃー!?」
潰れながら手足を痙攣させている。
どうやら、ランドグリーズの赤面具合からすると、本当に秘密という意味でのこっそりだったらしい。
「映司さん……今後とも……その……あの……」
もじもじとしながら、俺を見ずに意思を伝えようとしてくる。
本当に昔と変わらない雰囲気で、俺は懐かしい気持ちに包まれた。
「ああ、今後ともよろしく! ランドグリーズ!」
「……はい!」
ぱぁっと明るくなった表情は、3人で遊んだ時の──あの笑顔のままだ。
「言い忘れておったがの、戦乙女を受け入れるという事は、自らの強化にもなる……たぶん、映司は『天上の階位』が一段階上がって、上級第二位くらいにはなっておるのじゃ……ガクッ」
ガクッ、とか口で言っているのでスリュムは平気そうだ。
それにしても、戦乙女か……地球だと鎧とか目立ちまくってしょうがない気がする。
どうにかしなければ。
……俺に良い考えがある!
「なぁ、ランドグリーズ」
「何ですか? 映司さん」
「ちょっと地球では目立つんで、鎧を脱いでくれないか」
目の前で鎧を脱ぐ少女。
これはなかなか萌えるモノがある。
戦乙女への最初の命令に相応しい。
だ、だが決して邪なものではない!
鎧を脱いで普段着に戻るというギャップに萌えるだけで、そこまでエロエロなものではない!
決してない! フリンにも、風璃にも顔向け出来るレベルだ!
ただの鎧脱ぎ萌えという奴だ!
今から目覚める一つの萌えだ!
「わ、わかり……ました」
ランドグリーズが装備している蒼と白銀の鎧が光り出し、そのまま消えた。
そして、その下には何も付けていない。
……何も付けていない、裸体という意味の。
そのまま、身体は縮んで小学生くらいだった頃のミニマムな藍綬へと戻った。
「映司お兄ちゃん、こっちにランちゃん来てる~?」
ガチャッと開く、部屋のドア。
入って来たのは我が妹である風璃。
「あ、いたいた。ランちゃ──」
全裸の幼女と兄を前に、風璃は何を思うのだろう。
何かこのパターン、前に見た事があるので結果が想像できる。
「ちょっと包丁持ってくる」
* * * * * * * *
風璃の誤解は簡単に解けた。
ちょっと俺の顔面に5回くらい拳がヒットしたり、みぞおちに良いニーが決まったりした後、ランドグリーズが一言──誤解ですと伝えて終了した。
ね! 簡単でしょ!
「映司お兄ちゃん、もしランちゃんに手を出したら外道畜生の所業じゃないからね、本当に」
「はい……」
俺の戦乙女に命令して萌え萌え作戦は終了をお知らせされました。
「えーっと、それで一応は映司お兄ちゃんも関わっちゃったから報告するね」
あの後、偶然落ちていた金貨袋を回収。
持ち主も異世界へ行ってしまったらしいし、ありがたく頂く事にした。
これまた偶然誰かが撮っていた交渉の映像を、都合良く編集して魔術用の水晶に入れて、エーデルランド中にバラまいた。
ちょっと想定とは違ったが、神から力を託された戦乙女カザリとして祭り上げられた。
……魔神というのも誕生してしまったが、それはそれだ。
そして、その戦乙女が奴隷を扱っていた山賊というわかりやすい悪を倒した。
これで奴隷廃止へ傾いている所へ、金と権力を使ってさらに傾ける。
といっても、実際に奴隷が必要だった仕事というのもあるだろう。
そこを魔術や、機械化などで埋めていく。
同時に奴隷へ落ちるような子供を減らすために、孤児院などを通じて教育にも力を入れる。
徐々にその役割を学校などへ移していきたい所だ。
「とまぁ、そんな感じ。後は現地の人達が頑張ってくれると思う。本当は、ちゃんと弱い人の手で……というのを見せたかったけど、誰かさんがね~」
「お、俺か?」
「戦乙女カザリとかむず痒い呼ばれ方もするようになっちゃったし……でも、まぁ……その……助けてくれたわけだし……か、かっこ……よ……」
何か風璃がしどろもどろになっている。
包丁持ち出そうとしてきたり、綺麗にニーを入れてきたり、解説してきたり、いびってきたりと忙しい奴だ。
「そういえば、何かランちゃんに用じゃなかったのか?」
「あ、そうそう! ランちゃん見てたら、懐かしくなって藍綬からの手紙を、ね!」
俺とは別に、自分の死期を隠して渡した手紙か。
記憶を持っているためか、ランドグリーズは複雑そうな顔をしている。
「えーっと、それじゃあ読むよ!」
風璃へ。
突然、転校しちゃってごめんなさい。
パパとママの都合で、遠くへ行かなきゃいけなくなったの。
私が持って行けるのは、風璃との大切な思い出。
……いつも。
ふたり親友。
感謝してる。
わがままを許してください。
会えなくなって、
刻の流れに身を任せても、
必ずまた、
笑い合いたい。
「そうか……藍綬が……」
その手紙は、途中から涙でにじんだ跡があり、筆圧も安定していなかった。
どんな精神状態で書いたのかは計り知れない。
必死に、風璃には真意を隠しながら書いたのだろう。
ランドグリーズは泣いていた。
それを見て風璃は──。
「ランちゃんも、藍綬の一部だと思うの。だから、また会えて嬉しいよ」
風璃の屈託のない、輝く笑顔。
ランドグリーズも、それにつられて最高の笑顔を泣きながら見せていた。
* * * * * * * *
真夜中。
尾頭家の全員が寝静まっている時間。
ランドグリーズと、スリュムは屋根から星を見ていた。
「のう、藍綬よ。お主は本人だと名乗り出てもよいのじゃぞ?」
「いえ……きっと戦乙女となった私に遠慮してしまいます。ふたりはとても優しいですから……」
「戦乙女と恋を止め……か。記憶を持っての転生とは難儀なものじゃのう」
人々は夢を見て、空には星が流れては消える。
あの時、星に願った希望は叶えられた。
だから、今度は誰かの希望をこの命の星で叶える番だ。
戦乙女は澄んだ夜に身を揺蕩わせながら、そんな事を考えていた。
【異世界エーデルランド】
【現在、異世界序列3006位→541位】
【尾頭映司ステータス】
天上の階位:【上級第三位→上級第二位】
スキル:【賢神供物】
スキル:【完全擬態】
スキル:【戦乙女使役×1】
×使用不可スキル:【必中せし魂響の神槍】
×使用不可スキル:【死者の館】
×使用不可スキル:【使い魔使役】
【ユニット加入:盾の破壊者】




