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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第三章 イクサヲトメ/コイヲトメ

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56話 契約(刻の流れに身を任せても)

「ふー、さっぱりした」


 尾頭家、俺──映司の部屋。

 風呂上がりで気分爽快。

 もう夜も遅いし、特にやり残した事もないので寝る事にでもしようかな、という所だ。


「ん?」


 微かに聞こえる、ドアをノックする音。

 まだリビングでゲームをやっている不良気味なフリンは、いちいちノックをしてくるはずが無い。

 いつも適当に部屋に戻ってきて、俺が寝ているのをお構いなしにベッドへ潜り込んでくる。


 フェリは……ドアをぶち破ってきてたな。

 残る選択肢的に──。


「風璃か?」


 俺は問い掛けるが、返事が無い。

 これはおかしい。

 もしかして、モジモジモードで恋の相談をお兄ちゃんにしちゃうぞ☆


 みたいな少女マンガ的な展開だろうか。

 若干、乙女チックな風璃を想像して吹き出しそうになる。

 そのまま扉を開けてみると──。


「ランちゃんか」


 アルマジロが、大きなクマのぬいぐるみを一生懸命くわえて引っ張っていた。

 そして、そのまま部屋の中に入り、意外とパワフルにベッドへと飛び乗った。


「アルマジロ……すごいな。風璃を守ろうと、ゴロツキに体当たりもしてたし……」


 こんな経緯で、俺はアルマジロと一緒に寝る事となった。


* * * * * * * *


 ──夢。

 そう、夢を見ていた。

 過去の出来事。


 思い出すと胸が締め付けられる記憶。

 死がふたりを分かつラストシーン。

 それは誰にも望まれていない陳腐な映画のようでいて、風璃には知られてはいけない悲劇と終劇。


 藍綬らんじゅという少女の物語。


『みたくないの? ききたくないの?』


 問い掛けてくる少女の声。

 俺は否定も肯定もしない。

 ただ、これから流れてくる記憶の川に漂うだけだ。




 ひとつめのきおく。

 俺が小学校高学年くらいで、風璃が小学一年生の時。

 入学式の後、風璃が友達を連れてきた。


 少し控えめで、長い黒髪が可愛い女の子──名前は藍綬。

 初対面の印象では、服がほつれていたり、風璃の後ろに隠れ気味だったりとあまり良いものではなかった。

 数ヶ月かけて、徐々に心を開いてくれるといったスローペースだった。


 初めて挨拶以外の言葉を交わした時は、ゲーム攻略を達成したような充実感すらあった。

 ある日、ボロボロの図鑑を持ってきて、アルマジロが可愛いと力説してきた。

 普段とは違う勢いに困惑したものだ。


 そんなこんなで、俺達3人は仲良くなっていった。

 でも、藍綬がたまにアザを作っている事は、聞ける雰囲気ではなかった。

 俺は……今でもそれを後悔しているのかも知れなかった。


 二つめの記憶。

 数年後、藍綬は児童養護施設に入ったと聞いた。

 いわゆる、孤児院というやつだ。


 アザを作ってくる事は無くなったが、またふさぎ込みがちになっていた。

 俺や風璃と話す時は無理に元気にしているのが、逆に痛々しかった。

 風璃は風璃で、無理に強がるようになった。


 今は自然に強いという感じだが、当時は違う。

 とにかく、2人とも似たり寄ったりの状態だ。

 そこで、中学生くらいになっていた俺はプレゼントを考えた。


 お年玉を親戚と、お隣の眞国君パパからたんまりともらっていたので資金的には問題無い。

 だが、何を送れば良いかわからない。

 そんな時、藍綬にプレゼント作戦がバレてしまった。


 結局、藍綬に選んでもらう事となった。

 女の子の事は、女の子に教えてもらうのが一番だ。

 2人は親友とも呼べる仲になっていたし、チョイス的には完璧だろう。


 デートみたいな買い物、と藍綬に言われた時は笑って誤魔化した。

 大きなぬいぐるみが沢山置いてある店に入り、アルマジロは無い? と真顔で言われた時は吹き出しそうになった。

 そんなレアな動物のぬいぐるみがあるかと。


 珍しく俺と藍綬の組み合わせで、饒舌になっていた。

 仕方なく、と選んだのは大きなクマのぬいぐるみ。

 それを二つ買って、片方を藍綬に、もう片方を後で風璃に渡した。


 藍綬はとても嬉しそうに、今まで見た事のない最高の笑顔を。

 風璃は不服そうに受け取って、そのまま部屋に飾っていた。

 その後、学校で藍綬がイジメられていて、それを風璃が救っていたと聞いた。


 いつの間にか兄より強くなっていて誇らしいのと同時に、少し悲しくもあった。

 だが、その二つの感情を合わせて喜ばしいという事なのだろう。

 もう、ベッドに潜り込んできて、俺の上に乗って甘えてくる妹はいない。


 まぁ、安眠も保障されるだろう。



 最後の記憶。

 小さな小さな入れ物の中に藍綬は入っていた。

 児童養護施設から、実の親が引き取った。


 そして、藍綬は亡くなった。

 子供だったので難しい事は分からないが、たぶんそういう事だろう。

 生前、藍綬は俺に手紙を書いていた。


 その中に、風璃には知らせないで欲しいとあった。

 死期を悟っていたのだろう。

 俺と両親は、風璃を置いて葬式に出た。


 藍綬は……最後まで大切にしていた大きなクマのぬいぐるみと共に焼かれ、灰になった。

 人間って、最後はあんなに小さくなってしまう。

 死というモノを実感した、その初めての記憶。


 手紙には……。

 生まれ変わったらなりたいもの、とか──。

 死がふたりを分かつとも、とか──。



『乙女はせいといういくさを止められ、恋を止められ──』


 少女──藍綬の声が聞こえた。


『それでも映司さんと家族になりたかったって願い、望みすぎだった……かな?』


「そんなの……答えは決まってるだろ。藍綬が望むのなら、もう家族だ」


 沈黙。

 少しした後に、きょとんとした無邪気な声で。


『じゃあ、お嫁さんは?』


「それはその……」


 もう少し大きくなったらな──と言おうとした所で気が付いた。


 そして、俺は泣いた。

 酷く格好悪く泣いた。


* * * * * * * *


 ──目覚め。

 朝だ。

 目の前にアルマジロのランちゃんと、あの時の大きなクマのぬいぐるみ。


 この組み合わせのせいで夢を見てしまったのだろう。


 ……そして、あれから30日。

 妹──風璃にとって運命の日が訪れる。










【尾頭映司ステータス更新】

 スキル【──……使役──】

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