55話 そのボール、凶暴につき(会えなくなって)
街の職人街。
目抜き通りとも違った華やかさがある。
火に強い石造りの強固な建物から、オシャレな木造の可愛い店舗。
それぞれが何を生業にしているのかを金属や木の看板を吊していたり、ショーウインドウで完成品を置いていたりする。
鍛冶屋はハンマーやフルプレート、裁縫は針やドレス、革はなめし革や軽鎧といった感じだ。
こうして歩いているだけで、眼を楽しませてくれる。
「おう。おめぇ最近、話題の風璃だろ? どうやら羽振りが良さそうじゃねーかぁ」
突然、見知らぬ男性達から呼び止められる。
そのセリフはゴロツキで、外見もゴロツキで、身振り手振りもゴロツキ。
相手にするだけ無駄だと判断出来る。
「えーっと、あたしの名前はスリュムです。誰かと間違えているようで。じゃ、先を急ぐので。行こう、ランちゃん」
適当にかわしながら、ランちゃんと一緒に逃げだそうとするも──。
「そんな目立つ服と、丸っこいのを連れてるのが他にいるかよ」
──しまったなぁ、学校の制服のままだ。
進路上に立ちはだかるゴロツキ達。
相手は3人。
人目もあるため、そこまでひどいことには発展はしないだろう。
持たされた銃も使う必要は無い。
「俺達さぁ、お金に困ってるんだ。ちょっと工面してくれないかな?」
汚らしい笑いと共に、ゴロツキ達が迫ってくる。
一応、こちらとしては女の子なので身も心も清潔な方と話したいものである。
「今なら人手が足りないから、雑用を募集しているところが多いと思うけど? なんなら紹介する?」
「働くなんて格好悪い事ができっか! こちとら誇りを持っているんだ!」
「……14歳の女の子にお金をたかるのはもっと格好悪いかと……あと、洗っていない犬の臭いがする」
「て、てめぇっ!」
ついつい、正直に口に出してしまったため、相手を傷付けてしまったらしい。
興奮したゴロツキは、グイッと迫ってくるが──。
「ぐえっ!?」
その瞬間、ランちゃんが丸くなって相手の顔面にぶつかっていった。
……アルマジロって、こんなにジャンプ力あったのか。
「このボール野郎め! 人間様にたてつこうとは!」
「人間以下だって判断されたのでは?」
「このガキ、いくらなんでも口が悪すぎるだろ! だがぁ、俺達は金のためならプライドは捨てる。楽して金が欲しい。金くれよ、な。金!」
逆上して襲いかかってくるパターンではなく、気持ち悪い笑みを浮かべながらこびへつらってきた。
誇りやら何やらは、ホコリより軽かったらしい。
そして、そのままゴロツキ達の金を求める手があたしの身体に──。
「ギャッ」
あたしの悲鳴が……ではなく、再び男達の悲鳴が響き、目の前に存在していたはずの相手は吹っ飛んでいた。
建物の壁に激突した後、激痛で転がり回っている。
ランちゃんをちらりと見るが、あたしを守るように立って興奮しているだけである。
と、なると──。
「護衛対象に触れようとした男を、鎮圧用ゴム弾で処理しました」
「よくやった軍曹。確保後に尋問を行う」
「マム! イエスマム!」
軍服らしきものに身を包む、屈強な男達とアダイベルグの少女。
「オタルちゃん、何やってるの?」
「え、えーっと、散歩です……」
物凄い勢いで目を逸らされてしまった。
明らかに嘘である。
周りを見回すと、いつの間にか軍服の男達がぞろぞろと現れ始めた。
今までどこに隠れていたのだろうか。
「オタル様。事前の打ち合わせ通り、護衛対象に敵対したものは薬を使って全て吐かせた後で、殺してくれと哀れに懇願するまで再び地獄の拷問を──」
「しっ! それは風璃様がいない所でじっくりと」
何やら非常に物騒である。
というか世界観がファンタジーではない。
巨人の国の方達というのはどこもこんな感じなのだろうか……。
ゴロツキ達は、話の内容を理解したらしく、ガタガタと震えながら土下座で謝り続けている。
「ごめんなさい、ごめんなさい。家には帰りを待つペットのネズミが……」
「明日からマジメに働きますから! 世の中の役に立ちますから!」
さすがに可哀想になってきた。
本人次第だが、助け船を出しても良いだろう。
あたしも鬼ではない。
「ねぇ、あなた達。孤児院で人手が足りないんだけど、そこで働かない?」
「はぁ? ガキの相手をしろってのかよ? 誰がそんな──」
「そっか。じゃあ、オタルちゃん、後の処理は任せた」
「はい! 風璃様!」
あたしはそのまま立ち去ろうと──。
「待って待ってコイツら凄く恐い! 何でもしますから、風璃さん。いや、風璃様!」
それを満足げに見詰めて、ニッコリと。
「休みは六十日に一日。孤児院に泊まり込み。子供達に悪影響を与えたらダメね」
「え?」
「働いた分はお給料出るから、決してブラックじゃないわよね。オヤツも出るし」
ゴロツキ3人は顔を見合わせ、何やらヒソヒソと相談をしている。
途中で逃げ出せば──とか丸聞こえである。
「おい、お前ら。映司様の妹君である風璃様のご期待に添えぬ場合は、親族もろともどうなるか分かっているだろうな? 逃げ出しても地の果てまで探し出し……そうだな、意識を保ちつつ頭に○○を差し込まれ続ける快楽を与えてやろう」
悪魔……いや、魔王のような形相でオタルが話している。
もはや強要である。
さすがにあたしでもどん引きである。
「は、働きます! 孤児院で精一杯汗を流させて頂きます!」
「あ~、孤児院にハーフエルフの可愛い子がいるけど、手を出したらアンタ達をキロいくらで売り出すからね。その身でお金を稼げるって素晴らしいわよね」
オタルが、うわぁ……と引いているのが見えた。
* * * * * * * *
風璃が立ち去った後。
「軍曹──いえ、映司様。完全擬態せず直接お助けすればいいのでは?」
「いや、何か恥ずかしいし」
「ふふ、映司様可愛い」
「近い近い! それに今回は、風璃にも考えがあるらしいから見守る」




