47話 請いする乙女(キカイの国のニンゲン)
「映司様のお話をですか?」
「うむ、ワシを負かした敬意を払うべき相手じゃからの。オタル、お主から見たあやつの事を知っておきたいのじゃ」
完全擬態して訪れた異世界アダイベルグ──オタルの私室。
中央センターだかの重要施設の一角に用意されたらしいが、室内はまともなインテリア等無くて、四方は鉄板のような硬質素材の壁に囲まれている。
唯一、簡素なベッドの横に写真立てが一つあるくらいだ。
顔を塗りつぶされた成人男女2人の間に、幼い女の子が楽しげに笑っている写真。
「そうですね~映司様は……出会った瞬間に一目惚れですね」
「そ、そうじゃったか」
いきなりの、どストレート発言に動揺する。
完全擬態が解けなかったのが奇跡に近い。
本番のフェリの前に、色々とまわってみようと思ったのは正解だった。
こうやって徐々に慣らしていって、最後にフェリなら動揺も小さくなるだろう。
「私は──両親に見放され、この世界の人間全てを逆恨みしていました。ですが、ベルグ様と一緒に行動するようになって、鏡を見ているような……反面教師というのでしょうか」
……何か非常に重い。
これは安易に聞いてしまっても良い話なのだろうか。
良心が痛みそうになる。
「その内、全てが馬鹿馬鹿しくなってきて、もう鉄くずのような価値しかない自分の命と引き替えに終わらせようと思ったのです」
「その……お主の価値を軽視しすぎなのじゃ。大切に思ってくれる者は沢山──」
「そうですね、あの日から全てが変わりました。死で幕を下ろそうとしたあの日、私の前に現れた方。ヒーロー、王子様、救世主、どんな言葉でも表しきれない方」
俺の評価ってこんなに高かったのか。
嬉しいが、直接の俺が聞いてやれなかった事へ内心謝罪する。
「そんな感じの一目惚れです。映司様は沢山の方々と愛を受け渡ししていますが、私はそれを気にしません。私は……愛の一欠片でも頂ければいいのです」
普段から俺へ言っていた事だが、ただのリップサービスみたいなものではなく、霧の巨人の王へも同じ内容を話すという事は本気なのだろう。
だが、少し物悲しくもある。
「──もちろん、私を一番と思ってくれるのなら、それが一番ですけどね」
俺の表情に気が付いたのか、少し照れ笑いを交えながら冗談っぽく言われてしまった。
持っていたイメージよりずっと良い子だな、オタルは。
今度、また一緒に買い物に付き合ってあげたり、誘われていた旅行とかも考えておこう。
「でも、映司様にも不満とかあるんですよ」
「のじゃ?」
ちょっとだけビクッと反応してしまう。
俺、何か悪い事をしただろうか……思い当たる事はいくつもあるが。
「なかなか押し倒してくれないんですよ。愛人宣言してるのにですよ?」
……フリンに近付けるのだけはやめておこう。
絶対に悪影響だ。
「大きな愛をお持ちなら、その義務として妹様とか狼とかフリン様とか一緒にでも──」
あーあー聞こえなーい。
──延々と危ない話を続けるオタルを後に、俺は部屋から退出した。
溜息を吐いて精神を一休みさせようと思ったが、扉の外にはベルグが立っていた。
「霧の巨人の王スリュム様におかれましては大変ご機嫌麗しく──」
「よい、楽にせよ」
「はっ!」
こいつ、意外と巨人の上下関係には律儀だったのか。
楽ではなく、直立不動の姿勢でこちらを見下ろした後、跪いて喋り始めた。
「オタルが大変失礼な言葉を……」
「いや、ワシが頼んだのじゃ」
「……今思えば、製造者に捨てられ、過酷な道を歩んできた者でございます。その分、映司殿への想いも強いのでしょう」
製造者とか、まだロボットロールプレイしてるのか。
本当にブレない奴だ。
「ですが、その想いは本物と判断します。どうぞ、見守っていてくれませぬか」
「もとより、そのつもりなのじゃ。映司を尊重すれば自然とそうなるからの」
自分で自分を尊重とか変な事を言っているが、スリュムの思考だとこう喋る的な擬態なので……違和感バリバリだが、うん。
たぶん俺自身が一番、内心微妙だ。




