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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第三章 イクサヲトメ/コイヲトメ

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44話 住めば巨人の爆発オチ(サイテーです)

「……あ」


 スリュムが犬小屋を占拠してから数日後。

 俺は、ふと思い出したのであった。

 異世界エーデルランドで起きた、少女探偵による未解決事件。


 確かアレ、あの子がゾンビ化したスリュムを証人として差し出さないとやばかった気がする。

 俺以外が女子限定スィーツバイキングにお出掛け中だからといって、尾頭家のリビングで一人くつろいでいる場合ではなかった。

 外の犬小屋に居るであろうスリュムを連れて行かねば。


「おい、スリュム」


 庭へのガラス戸を開け、犬小屋に入って行ったスリュムに呼びかける。

 俺はそのまま、サンダルを履いて犬小屋へと近づき覗き込む。


「あれ……、いない」


 今、入って行ったはずのスリュムが影も形も無い。

 木板で作られた、三角フォルムのごく普通の犬小屋。

 サイズも小柄な人間ならギリギリ入れる程度だ。


「どうしたのじゃ? 映司よ」

「うお!?」


 突然、犬小屋の床からスリュムの顔が出てきた。

 モグラかこいつは……。


「いや、ちょっと用が……。の前に、何だこれは。ちょっと前から騒々しい音が聞こえてくるとは思っていたが」

「ふふふ……家財道具を持ち込むにはちと狭かったからの。この第三スリュムヘイムを改築したのじゃ!」


 ……地下か? もしかして地下なのか?


「今回は嫁入りみたいなもんじゃ、色々と物いりなのでな!」

「……ノーセンキューです」

「のじゃ!? もしかして、もう誰かと……いや、まさかこの家のおなご達全員と既に……」


 いや、こいつマジで何を言っているんだ。

 妹とか、幼女相手に。

 俺は嘆息と共にスルーした。


「一つ聞くが、いきなり我が家が傾いたりはしないだろうな? 建築基準法とかは、もうお前ら人外だから諦めるけど」

「ふっふっふ、問題は無い! 我が巨人族、腕利きの大工達に頼んだからの!」


 確かに、何やら下の方からガヤガヤと聞こえてくる。

 こいつらSF世界っぽいところから来たのに大工かよ、とも突っ込みたくもある。

 まぁ、この脳みそスポンジな本人じゃなければ、そこらへんは大丈夫なのか。


「おい、やべぇ! 何か管っぽいのにぶち当たったぞ! 地球にはこんなのがあんのか!?」

「くせぇ! バレたらやべぇ! 吸え! 吸うんだ! 巨人の肺活量なめんな!」


 ……あかん。


棟梁とうりょうのシスタートゥースが張り切っているようじゃな!」

「そんな事はおいといて、だ。お隣の眞国君から『困っているならいつでも相談してください、僕も付き添ってもいいですから』とか警察の場所を記した地図とかあわれそうな顔で渡されても……だ」


 どうやら、犬小屋に少女が住んでいるという事で勘違いされたらしい。

 いや、勘違いでもないが。

 警察に突き出したい側だが。


「ちょっと、エーデルランドに来て欲しい」

「のじゃ~。今は忙しいからの~」


 犬小屋の床から顔を出した状態のまま、考え込むスリュム。

 それを、必然的に四つん這いになりながら、犬小屋の中を覗いている俺。

 これも目撃されたら、今度は病院を紹介されそうだ……小学生から。


「ふむ、お主の完全擬態の練習がてら、ワシの代わりに行くというのはどうなのじゃ?」


* * * * * * * *



「お前……この格好はどうにかならないのか」


 犬小屋から出てきたスリュムに完全擬態したまでは良かった。

 何やら力が封じられている状態とかで、制限に引っかからず、非常にスムーズ。

 だが、男の俺が、外見的には少女になるのだ。


 普通でもそれなりに抵抗があるし、今回はさらに酷い。


「ふむ、可愛いから地球で調達してきたのじゃ。ミニ浴衣というのかの?」

「……あの、俺がそれを着ることになってるんだけど……というか着てるんだけど」


 目の前のスリュム──程よく十代中盤な少女という感じの愛らしい体型に、自称王様っぽい憎々しい表情をしているが、顔の作り自体は整っていて可憐……悔しいが美しいとも言える。

 それが裾短めの浴衣を着て、髪型をポニーテールにしているためにうなじが色っぽく見えてしまっている。

 ……で、それに俺が完全擬態している。


 たぶん、鏡映しの状態だろうが、想像はしたくない。


「おやおや、顔が真っ赤なのじゃ? ワシに欲情しておるのか? よいぞよいぞ」

「これは羞恥心というものでな……」


 そんな事を説いても馬の耳に念仏、脳筋に知恵だろう。

 足下がスースーするし、若干の胸の締め付けとか違和感がバリバリだ。


「な、なぁ着替えていいかこれ……」

「映司になら見せてもいいがの、他に見せるのは止めて欲しいのじゃが……」


 可愛らしく、顔を赤らめながら言われてしまった。

 そうか、そういえば脱ぐという事は──。

 何だろう、この状態。


 完全擬態は、こういうところは完全ではないのかもしれない。

 相手の思考パターンをなぞることは出来ても、俺の精神も残っているために女の子に弱いというところはウィークポイントのままであった。


「おっと、動揺すると完全擬態が解けてしまうのじゃ。男の裸体でも思い浮かべてクールダウンじゃ」

「お、おう……」


 男の裸体……最近見たのは……温泉でベルグの──。


「ぶほっ」


 思わず吹き出してしまった。

 何かもう、軽く死にたい。


「オーケー。落ち着いた。もう完全無敵、最弱最強でドラグーンな学園だから……」


 口走っている事が意味不明だが、俺は大丈夫です。

 そして、回避策を提案した。


「スリュムが男物っぽい服に着替えた所を、俺が完全擬態すればいいんじゃないでしょうか!?」


 口調が崩れているが、表情も崩れ気味になっている気がする。

 色々な意味で、鏡だけは絶対に見たくない状態だ。


「すまんの。全て洗濯してしまったのじゃ」

「……じゃあ、俺の服を」

「そもそも、ワシらしい服じゃないと完全擬態としての効果も薄れるのじゃ。ワシらしくないワシに何の意味があるのじゃ?」


 はい、詰んだ。

 スリュムに正論出されて負けて詰んだ。


「まぁ、慣れだと思って頑張るのじゃ」


 凄まじい落胆。

 これは女装させられて町に放り出されるという罰ゲームと変わらない。

 何かに目覚めてしまったらどうする。


 くそぅ。

 ──そこは諦め、次の話題に切り替える事にしよう。

 俺のステータスの事だ。


「なぁ、スリュム。ちょっとこれを見てくれ」

「のじゃ?」


 念じ、空中に表示される俺のステータスを、スリュムの方へ向けて反転させる。


【尾頭映司ステータス】

 天上の階位:【上級第三位】


 スキル:【賢神供物】

 スキル:【完全擬態】


 ×使用不可スキル:【戦乙女使役】

 ×使用不可スキル:【必中せし魂響の神槍】

 ×使用不可スキル:【死者の館】

 ×使用不可スキル:【使い魔使役】



「ほう……これは」


 真剣な顔──霧の巨人の王としての貫禄を見せる少女。

 何か思う所があるのだろう。

 やはりスリュムに見せて良かった。


 知恵は無いが、知識はある。


「歴代オーディン達のスキルを全部乗せといった感じじゃな」


 何となくそれっぽいのは分かっていた。

 名前にモロで入っているし……。


「それで、使用不可スキルが四つもあるんだけど……」

「必要条件を満たしていないためじゃな」

「……条件、か」


 確かに、どれもこれも何かが必要そうなものだ。


「そこまで詳しくないがの、従ってくれる使い魔や戦乙女を捜してみるのじゃ」

「えーっと、使い魔とか戦乙女って、どこかに落ちてるものなの?」

「二つは似たようなもので、もしかしたら落ちてるかもしれんの」


 スリュムは珍しく知的に説明をしてくれた。

 使い魔は、そこまで天上の階位が高くないモノなら、誰が相手でも契約を結べば使用できるようになると。

 ただし、契約内容によっては様々な問題が起きるので、なるべく慎重に選んだ方が良い。


 戦乙女は少し特殊で、天上の階位の制限無く契約を結べるというモノ。

 条件は、身体を失ったエーテルのみの存在であること。


「ん? つまりそれって、どんな存在?」

「そうじゃの~。人間としては感覚が分からぬか」


 スリュムは続ける。

 そもそも天上の階位が上がるにつれて、例外はあるが、物理的な身体と精神体であるエーテルの割合が変わってくるという。

 具体的には、上がれば上がる程にエーテルの割合が上がっていく。


「じゃあ、一番強くなるためにはエーテルだけの存在になるとか?」

「いや、完全に肉体を失えば、エーテル体は徐々に劣化していく。亡霊、悪霊とかのお化けと言えば伝わりやすいかの。症状は多々あれど最後は自我と存在が消えるのじゃ」

「……つまり、身体を失って、消える前の存在と契約できるのが戦乙女使役?」


 スリュムはこくりと頷いた。

 条件は厳しいが、どんな相手とでも契約できるというのは良いかもしれない。

 だが、疑問が一つ浮かんだ。


「もし、その契約する相手が乙女じゃなかったら、戦男子とかになるのか?」

「初代オーディンが囲っていたのは女ばかりだったから、女好きなら自然と相手も合わせて女性になるものかもしれないの。その点、映司も平気なのじゃ」

「なるほど」


 すごい納得した。

 今回の件で思ったが、もしかして俺は勘違いしていたのかもしれない。

 人に教えるという事は、それなりに賢くなければ出来ない。


 つまり、スリュムも──。


「映司はまだ疎いようじゃの。ワシが使っている、異世界あんちょこをやるのじゃ」


 スッと、胸元からメモ帳サイズの物を取りだした。

 ……カンペ持ってたのか。

 こちらもすごい納得した。


 パラパラめくると、空間魔法と時間魔法は許可制となっており、使用前は注意と目に入った。

 そういえば、スリュムヘイムに飛ぶときも飛行禁止区域みたいな感じで、転移禁止区域みたいなのがあったな。

 まぁ、今から行くエーデルランドはそんな場所無いだろう。


「それじゃあ、ちょっと行ってくる」

「うむ。ワシは夜まで第三スリュムヘイムの中に籠もっておる予定じゃから、鉢合わせでバレるという事はないから安心するのじゃ」


 俺は空間魔法を唱え、エーデルランドへと向かう事にした。

 これも許可とか、何かが勝手に通っているのだろうか。


「さてと、ワシは大工達をねぎらってやるかの。あやつらはタバコが好きだったから、地球のタバコを差し入れに──」


 たばこの煙は、あなたの周りの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼします。

 喫煙の際には、周りの人の迷惑にならないように注意しましょう。

  

「のじゃー!?」


 俺が出発した数分後。

 耳をつんざく大爆音。

 ガス爆発によって、尾頭家周辺は吹き飛んだのであった。


 後始末に終われたクロノスさんは、書かれていた通りに許可制の時間魔法を使ったり、細々とした隠蔽工作をしたりして胃の健康を損なったらしい。

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