41話 慟哭(幼き女神は死者の笑顔を顧みる)
「ケッ、スリュム様と戦った事がある奴だからと期待していたら、あっさりとくたばっちまったぜ」
「おいおい、黒髪のお前、新米か? 何もここまでやらなくてもいいだろう。コゲ臭ぇし、消し炭になっちまったよ……」
「ああ? ゾンビみたいに蘇ったらどうするんだよ」
俺を含めた兵士達の会話。
この手で燃やしてやった、転がっているアレをサカナに、じゃれ合っているようなものだ。
「そういえば、スリュム様はまだゾンビ状態になったままなのか?」
「何か、可愛いからそのままなのじゃ、とか言ってたぞあの人」
「今なら、回復魔法かけたら死んじまうんじゃねーの?」
「どんだけ大量のエーテルで、密着した状態で油断させなきゃなんねーんだよ。いくら馬鹿でも、あの御方を戦闘中に油断させるなんて無理無理」
響く下品な笑い声。
俺もそれに合わせておく。
一方、泣き叫ぶ悲痛な声も聞こえてきている。
「それにしても、そこの黒髪の。新入りの癖にトドメを刺すとはやるじゃねーか」
「まーな。武器に頼ってるだけのちょろい雑魚だったぜ」
俺は笑った。
二つの意味で。
「なぁ、持って帰りたいものがあるんだけど平気?」
「ん? ああ、戦利品漁りか。良いんじゃね? そいつの死体近くに色々落ちてるしな」
「そっか」
俺は、俺の残骸に歩み寄り──。
その近くで泣き崩れている幼女様の手を掴んだ。
そして、視線を上げて驚いたその顔に、にっこりと笑顔を向けた。
「え、えいっ──むぐ!」
まるで生き返った死人を見たような顔で、俺の名前を呼ぼうとしたフリンの口を塞ぎ、そのまま戦勝ムードでざわめく館から猫の付近まで移動する。
一番、心配だったのはここだ。
フリンを連れての移動。
これだけは俺の能力では隠しきれない。
フリンを連れてきたメイド──確か最初にスリュムに付き添っていたな。
彼女も、俺が何かの命令を受けてかと思ったのか、そのまま笑顔で見逃してくれた。
それに対して、『ご苦労様』という体でボディタッチをしておくのも忘れなかった。
まぁ、あの執事っぽい警備隊長を偽って命令して、うまく誘導したのも俺だけどな。
フェリ達が派手に陽動をしてくれたので、潜入、工作が楽だったのもある。
「騒がしいのじゃ。部屋に籠もってろと言われても、いくら何でも出たくなるのじゃ──のう、尾頭映司よ?」
「一発でバレちまったか。俺の能力──完全擬態が」
奥から現れたスリュム。
こちらにも工作を施していたが、さすがに出会わずに終了とはいかなかったか。
「完全擬態? 阿呆めが、アレは初代オーディンとロキくらいにしか出来ん。エーテルすら一致させ、相手の力すら擬態で得るという最上級の能力なのじゃ。お主のはエーテルでバレバレ、ただの変装──それと大方ガラクタを自分と思わせただけじゃろう」
異世界アダイベルグで使われていた機械兵のヘッドパーツを改造し、外見をうまくマントで隠して遠隔操作していたのだ。
ちなみに、ベルグには何かしらバレそうなので話していない。
お陰で、猫から顔を出したベルグは涙と鼻水で酷い事になっている。
「ククク……じゃが、上手く潜入したもんじゃの。その才能は褒めてやるのじゃ」
「霧の巨人の王にお褒め頂き光栄ですよ、っと!」
フリンを持ち上げ、猫上部ハッチのベルグに渡して安全を確保する。
「さてと。残念ながら、お前の望みである『巫女の予言』は持ってきていない。特殊な方法で封印されてしまったから、それは後で持ち主にでも聞くといい」
「ふむ、そういう事かの。たぶん、そういう事だったのじゃな」
珍しく思案げなスリュムの表情。
だが、それもすぐ、いつもの自信満々な笑みに戻る。
「良かろう! 理由はどうあれ、欲しいモノがあるのなら勝て! 勝ち取れ! 奪い取れ! それが世界の単純なルール! さぁ、受けるか尾頭映司よ!」
「ああ、今の俺は負ける気がしない!」
「ふははっ! 童が抜かすのじゃ!」
俺達2人は天を仰ぐ。
「映司……無事帰ってきてね。映司がいなくなるのは凄く辛かったです……」
「フリンが選んでくれた俺だ。負けねーよ」
俺はフリンに背を向け、振り返らずに誓った。
そして、俺とスリュムは──。
「ユグドラシル! 疑似空間を展開しろ!」
戦いの場へと赴いた。




