39話 リベンジマックス(巨人のデスロード)
意識が戻った後、俺は異世界アダイベルグに来ていた。
元ディストピアの世界に何の用かと言うと、スリュムの館へ乗り込むための装備が必要になるからだ。
一通りオタル達に指示を出した後、俺は別室でフェリと休憩をしていた。
元がろくでもない施設だったらしく、金属感丸出しの独房っぽい部屋だが狭くて落ち着く。
「エイジ、大丈夫か?」
ミーミルの泉の事は風璃に言ってないため、現在の理解者は横に座るフェリだけである。
素直になれよ的な事を、今日昨日言われたばかりだが──さすがに心配はかけたくない。
「何か感覚が違うから、戸惑うなこれ……」
俺の身体は外見的にはどこも変わらない状態だ。
失った左目も俺以外が見たら、ちゃんとあるように見える。
発現した能力の一つだが、少しずつ慣らしていくことにしよう。
「ワタシが魔力の事を、エーテルと言っていた理由も分かっただろう」
「ああ、確かに魔力とは言えないな……」
俺が前に使っていた魔力とは似ているが──別の似て非なる力の根源が宿っていた。
魔力とは、ただの生体エネルギー的なものだとすると、コレは魂がブレンドされているエネルギーだ。
言葉では説明しにくいが、簡単に言うと半分は幽体離脱しちゃっている状態的な。
フリンの加護より扱いやすく、自分の一部なので微調整も効く。
これ自体が物理法則をねじ曲げて出現させている常駐魔法のようなもので、人間の臓器の代わりもこなすことも可能というトンデモだ。
「初心者へのアドバイスとしては、身体を破壊されるのと同時にエーテルも散らされた場合はやばい。身体を全て破壊されても同じ。そこだけは気を付けろ」
何かもう、想像するだけで色々と恐い。
本当に人外になってしまったのだ。
まぁ、身体的に頑丈になったり、微調整の効く魔法が手に入ったと思えば良いか。
「あー、そういえば……」
「ん? どうしたエイジ?」
フェリが顔を近付けてくる。
普段だったら嬉しいのだが──。
「な、何かフェリがすごい恐ろしく思えて……」
豊満なフェリのボディ、可愛いフェリの顔、それらが全て爆薬に近付くライターみたいな感じの怖さを醸し出している。
本能がやばいと告げている。
フリンとフェリの初対面のリアクションも、痛い程わかってしまう。
確か物凄い怯えていたはずだ。
「神性が宿った証拠だな。ワタシは天敵だから……」
表情は崩さないが、ちょっとだけしょんぼりとする様が耳や尻尾のしおれ具合で伝わってきてしまう。
「あ、いや、その。俺は……フェリが好きだぞ! 今はとても恐いけど好きだ!」
「ありがとう、ワタシもだ」
まさかの告白成功か!?
「美味しいご飯作ってくれるエイジが大好きだ」
……ですよねー。
神殺しに告白を殺された気分だ。
「さてと、そろそろ俺の装備の調整をしにいくか。残念ながら、ミーミルにお土産でもらったユグドラシルの枝は、ここじゃ加工出来ないっぽいけど」
「ふふ。あれは一部のドヴェルグしか無理かな。だけど、面白いものが作れると思う」
「笑っちゃうくらい面白い?」
「ああ、ソイツは笑う」
いつになるかは分からないが、楽しみにしていこう。
今は、元ディストピアのアダイベルグ製の装備が先だ。
色々とクレイジーな装備が揃っていてワクワクする。
* * * * * * * *
ただユグドラシルは見ていた。
主人から託された仕事を全うし、全知全能に近い権能を持つ存在は見ていた。
「映司様は本当のシンカへと至ってしまうのでしょうか?」
ユグドラシルは答えない。
ただ世界中に見えない根を張り、見ていた。
「初めは滅びるはずだった楔の地を、過酷な運命を辿る女神と出会って救い──」
ミーミルは、ユグドラシルに寄り添うようにもたれ掛かる。
甘い接吻の如く顔を近付け、囁き続ける。
「神々の黄昏の予言を告げる巫女を生かし、英雄を育む国の崩壊を防ぎ、黒き神の加護を受けし者の寵愛を打ち砕かんとする」
ミーミルの瞳は遥か遠くを見ていた。
時間すら超越した終焉の場所。
10にも満たない命しか残っていない未来。
ミーミルすらも存在していない世界。
「彼が、あの子を育てる。白き神が一番好むモノを沢山注ぎ込んで。私は、それが楽しみでなりません」
ミーミルは、珍しくユグドラシルが同意した気配を感じた。
それがおかしくもあり、当たり前のことであり、少しだけ子供のように無邪気な微笑みを見せた。
「さぁ、私達の大好きな映司様が堕ちて本当のシンカを遂げるか見届けましょう。そうせずには、あの霧の巨人の王には勝てないでしょう」
童歌のように繰り返す。
「見届けましょう、見届けましょう。私達はただ見届けましょう。いつか最強の主神となるオーズを」
* * * * * * * *
「我は無免許ですぞー!?」
道路を爆走する10式戦車。
その内部にいるのは、我──アダイベルグの偉大な(元)主ベルグ。
……と、自信に満ちあふれた映司殿であった。
転移許可された交渉場所へ降り立った後、それをガン無視して全力前進している最中である。
「大丈夫、ここは巨人の国ヨトゥンヘイムだから法律違うし、大体の操縦は10式戦車……もとい猫がやってくれるから! な! 猫!」
「にゃ~ん」
懐かしき異世界序列第二位──巨人の国ヨトゥンヘイムに、こんな事でくるとは思わなかった。
街並みは、我の異世界アダイベルグであるディストピア的なものではなく、映司殿の住む地球の先進国の一等地と言った感じだ。
道は掃除ロボットによって常に清潔にされており、タイヤのない車が全自動で行き来し、高層建築も多いが環境に配慮して緑も多めに植えられている。
血の気の多いはずの巨人が多く住んでいるが、治安も良かった。
それは、腕っ節が強く、単純な力で導くわかりやすいシンボルがいるからだ。
スリュム──誰よりも強く、誰よりも正直で、誰よりも単純。
住人達は、その裏ではもう一人の巨人の王が政を操っているのは周知の事実だが、それなりにスリュムへの人望もあるのも確かである。
例え傀儡でも、わかりやすく、ある程度は巨人からの信奉があれば問題無いのだ。
「ワタシなんてバイクだにゃ~ん♪」
ハイウェイを併走して走るバイクに、テンション高めのフェリ殿が乗っている。
このヨトゥンヘイムには不似合いな組み合わせである。
「だってど派手に目立って丁度良いし。あ、にゃ~ん」
「映司殿は、その語尾……気持ち悪いですぞ」
「……また俺だけ」
狭い戦車の室内で、映司殿はしょんぼりとしている。
その格好は、黒いマントに全身包まれ、口元も隠されている。
何か、リベンジの時のそれっぽい格好というやつらしい。
我がアダイベルグ製の携帯火器もたんまりと載せてきている。
この猫殿にも、魔改造を施し元のスペックは原型が無くなっていた。
「それじゃあ、この道を一直線で……奴のいる場所──スリュムヘイムだ! 巨人狩りに行こうぜ!」
「おう!」
反応するかのように、猫殿とフェリ殿は速度を上げる。
既に警戒が敷かれ、一般車両は道になく、また周辺の空に飛び交っている事も無かった。
そして、遠方に見える急ごしらえで作られたであろう、車両や巨人達で構成された検問所。
力こそパワー! な我ら巨人族らしく、構えているのは重火器、5メートル程の戦闘態勢に入っている筋肉モリモリな警官らしき巨人達。
こちらを目視したらしく、容赦なく飛んでくる銃弾の雨あられ。
たまに対戦車用の砲撃も見えるが、猫殿が奇跡的なドライビングテクニックで回避している。
だが、ここはど派手にいかなければいけないらしい。
「フェリ、任せた」
「わかったにゃんにゃん♪」
フェリ殿は赤いボタンを押し、アクセルを目一杯ぶん回す。
魔改造してニトロを積んだエンジンをフル回転させて、ウィリー気味に先行。
そのままバイクを乗り捨て、相手の車両へと激突させる。
「た~のし~ぃ!!」
そのまま体操選手ばりに、後方伸身二回宙返り二回捻りで着地したフェリ殿を追い抜き、我らはスリュムヘイムを目指す。
何か後ろで爆炎と共に巨大な狼が出現し、物凄く暴れているのは見なかった事にした。
恐ろしい記憶が蘇りそうである。
ちなみにスリュムヘイムとは、本来別の場所にあったものである。
なのに、自分の名前が入っているからといって、無理やりここを第一スリュムヘイム、元の方を第二スリュムヘイムとしてしまったのだ。
訴えられたら間違いなく負けそうだが、何とかなっているのが巨人族らしい。
「見えた、あれがスリュムヘイムですぞ。映司殿」
前方、高層建築の影から現れる、さらに巨大な建物。
ここが地球の都市と違う所といえば、スケール感が分からなくなるような特殊な建物がいくつも建っている事だろう。
その中でも群を抜いて巨大で、群を抜いて豪勢であるのがこのスリュムの館である。
「それじゃあ、お邪魔するとしようぜ! 猫、ニトロと砲撃準備!」
「にゃ~ん」
「もしかして突っ込むんですか映司殿ぉー!?」




